とうほうネチョロダ/銀のナイフ
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...
注意 18禁です。~ でもエロくないです。~ 要流血耐性。~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「おはよう、咲夜」~ 「ひ…きゃんきゃん!」~ ~ 鎖の許す限界まで、咲夜は逃げた。~ その目はまさに怯えた子犬の目そのもの。~ ~ 「もういいのよ、終わったわ」~ 「わんわん! わんわんわん!!」~ ~ 首輪を繋いでいた杭が引っこ抜け、咲夜は四本足で走って行った。~ ~ 「あっ、ちょっと咲夜…」~ ~ 自室へ入った咲夜を追いかけて、扉を空ける。~ 部屋の隅で震えている咲夜がいた。~ ~ 「ねぇ、咲夜ってば」~ 「わんわんわんわんわんわん!!」~ ~ 私に向かって、懸命に吼える咲夜。~ まるで、近づくなと言ってるみたいに…~ ~ 「どうしたの?」~ 「うっ…」~ ~ もう少し近付いたその時、咲夜は思いもかけない行動を取った。~ ~ ~ ~ 「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」~ ~ ~ ~ 泣いた。~ 咲夜が。~ 小さな子供のように。~ ~ 泣き止まない咲夜を前に途方に暮れていると、いきなり襟首を引っ張られ、部屋から引きずり出された。~ 入れ替わりに、美鈴が入って行くのが見えた。~ ~ 「レミィ」~ ~ 私を引っ張った手はパチェだった。~ 一度も見せた事が無い、怖い顔をしている。~ ~ 「咲夜の事が大切なら、しばらく彼女には近寄らないで」~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 目を覚ましたのは、とんでもない時間だった。~ ~ 着替えて外に出たら、美鈴に部屋に戻されて、服装を正された。~ ~ お腹が減ったので配給のお弁当を貰ったが、二口で食べるのをやめた。~ ~ 喉が乾いたが、紅茶の淹れ方が分からなかった。~ ~ 仕方なくパックの血を飲んだ。~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ そんな日が二、三日続いた後、私の番が来た。~ 歓声の中、最萌トーナメントの舞台に立つ。~ 舞台の上には、私の対戦相手である冥界の姫。~ その傍らには、彼女に付き従う二刀の剣士。~ ~ そして私の傍には……………誰も居なかった。~ ~ ~ ~ ~ ~ 結果は負け。僅差だったらしい。~ だけど、そんな事も、負けたこと自体も、何もかも、どうでも良かった。~ ~ ~ ~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 呼び出しがかかるまで、裏最萌の事もすっかり忘れていた。~ 仕方が無い。覚悟を決めて、西行寺の姫の部屋へと向かう。~ ~ ~ ~ ~ ~ 「いらっしゃい」~ 「…さっさと用件を済ませて貰えるかしら」~ 「あら、そう。ならとりあえず服を脱いで」~ ~ そら来た。~ 時間をかけず、さっさと服を脱ぎ去ってしまう。~ ~ 「それじゃ、しばらく目を閉じてて」~ ~ 言われた通り、目を閉じて待つ。~ 特に何も起こる風は無い。一体何をさせたいのだろうか。~ ~ しばらく待っていると、戸の開く音に次いで、足音がした。~ 足音は私の前まで来て止まった。~ ~ 「もういいわよ、目を開けても」~ ~ ~ 目を開いた私の前に飛び込んで来たのは……~ ~ あまりにも意外で、あまりにも見慣れた顔。~ ~ ~ ~ 「咲……夜…?」~ ~ ~ ~ 何故?~ 疑問符がいくつも走るが、ともかくそこには咲夜が居た。~ ただ、その顔は無表情で、少し怒っているようにも見え……~ ~ びしゃ。~ ~ 咲夜の顔が、服が、赤く染まった。~ ~ それからまず、胸に激しい痛みを感じて、~ 胸に刺さった銀のナイフが目に入り、~ それが咲夜の手に握られているのを確認し、~ 腕をたどってもう一度咲夜の顔を見て、~ やっと、それが自分の血だと認識した。~ ~ ~ 声も出なかった。~ 事態を認識したものの理解できないまま、第二撃が振り下ろされる。~ ~ ~ 「がっ……!!」~ ~ 考えるのを止めて、再生に全力を傾ける。~ 銀で負った傷を治すのは結構な労力だ。~ だけど、その間も咲夜の手は止まらなかった。~ ~ ぐさっ、ぐさっ、ぐさっ…~ 「あっ!! ぐっ!! ぎっ!!」~ ~ 痛い。~ 痛い。~ 痛い。~ どうして。~ どうして。~ ~ 「どうして…」~ ~ 一旦、咲夜の手が止まった。~ 今まで黙っていた、亡霊の姫が口を開く。~ ~ 「どうして?~ 心当たりが無いとでも言いたいの?~ 貴方が彼女に何をしたのか、覚えてないとでも言うのかしら?」~ 「そ、それは…」~ ~ ざくっ。~ 「!!!!!」~ ~ 「彼女に声をかけてみたの」~ 「え…」~ 「私は勝った。24時間、彼女を好きにできる。この機会に復讐しないかってね」~ 「そ、そんな…」~ ~ どすっ。~ 「ぎぃ!!」~ ~ 咲夜の手が、また動き出した。~ ~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 最初に出会った時は、闘いだった。~ ~ 「貴方、面白いわ」~ ~ 破れた彼女を自分のメイドにした。~ ~ 「何時でもかかってらっしゃい」~ ~ 紅魔館では禁じている銀の刃物を、彼女にだけは持つ事を許した。~ 挑発の意味を込めて。~ 久し振りに味わう刺激に、私は大いに喜んでいた。~ ~ …けれど。~ ~ それ以降、その刃先が自分に向けられる事は一度も無かった。~ 彼女は私のメイドになり、~ 友人になり、~ 家族になり、~ そして、いつしか恋人になった。~ ~ それと一緒に、銀のナイフの持つ意味も変わっていった。~ 私はもう、彼女を全く警戒していない。~ 今の彼女であれば、私の寝首を掻くことも容易だろう。~ ~ ~ ~ けれど、彼女がその刃を私に向ける事はもう絶対に無い……はずだった。~ ~ ~ ~ ~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 傷を再生するのを、やめた。~ ~ ~ ようやく気付いた。~ 非道い目にあわせたから、咲夜は私に刃を向けたのでは無い事を。~ 私が咲夜を信頼していたように、咲夜も私を信頼していたのだ。~ 私が咲夜の信頼を裏切ったから、咲夜はその信頼の証を私に突き立てたのだ。~ ~ 咲夜になら、殺されても良かった。~ むしろそうなるべきだと思った。~ ~ 「…分かってない」~ 突然、亡霊の姫が口を開いた。~ 同時に、咲夜の手が止まる。~ ~ 「本当に、分かってないのね、貴方」~ 「…な…にが」~ 「本気で、彼女が貴方に復讐するなんて思ってるの?」~ 「…え?」~ ~ 亡霊の姫は溜め息を一つつくと、やや語気を荒げて話し出した。~ ~ 「私が彼女をそそのかした時、彼女はなんて答えたと思う?~ 『私はお嬢様を愛している。私はお嬢様を信じている。そんな事ができるはずがない』~ って言われて、追い返されたわ」~ ~ 「…!」~ 「だから、ちょっと身体を乗っ取らせて貰ったのよ」~ ~ ~ 信じられなかった。~ 私は咲夜を裏切ったのに、咲夜はまだ私を信じてくれているなんて。~ 胸が痺れるように熱くなる。~ 嬉しくて、涙が出てきた。~ ~ 「ようやく分かったみたいね」~ ~ 私は頷いた。~ 咲夜を裏切った挙句、目に見える物に騙され、咲夜の心を理解していなかった自分を恥じた。~ 同時に、咲夜に会いたいと思った。~ 声が聞きたかった。自分の不実を詫びたかった。~ ~ ~ 「お願い…」~ 「何?」~ 「咲夜に、身体を返して…」~ 「いいわよ」~ ~ 彼女の笑みが不自然な事に、私は気が付かなかった。~ ~ ~ ~ ~ ~ 咲夜の目に、はっきりとした光が戻る。~ それから、自分の手を見て、~ 服を見て、~ 周りを見て、~ 私を見て…~ ~ 「あ…あ…」~ ~ 咲夜の顔が歪んだ。~ …!~ ~ 「うわああぁぁぁぁああああぁあああ!!!!!!!」~ ~ しまった。~ 咲夜は叫びながら床へ崩れ落ちる。~ ~ 「咲夜っ!」~ 「ーーーーーーー~~~~~!!!!!!」~ 頭を壁に打ちつけ、奇声を発する咲夜に、私の声は届かない。~ そのまま咲夜は、血に塗れたナイフを自分の首に当て…~ ~ 「待って、咲……」~ ~ ~ 真っ赤な血の海。~ ~ ~ 目の前に広がった光景を、私は信じられなかった。~ 否、信じたくなかった。~ 認めれば、それで全てが終わってしまう気がした。~ 咲夜が。~ 咲夜が。~ 咲夜が咲夜が咲夜が咲夜が咲夜が!!!~ ~ くすくす…~ 亡霊の姫が笑っている。~ 「こうなる事ぐらい予想できなかったのかしら?」~ ~ きっ、と彼女を睨みつけた。~ 胸の中で暴れ回る、処理できない感情を、まとめて彼女へ向ける~ ~ 「よくも…よくも咲夜を!!」~ 「あら、まるで私が彼女を殺したみたいな言い草ね」~ 「…普段の彼女なら、自刃するよりは私に刃を向けたんじゃないかしら?」~ 「うるさいっ! 咲夜を、咲夜を返して!!」~ 「彼女の心を弱らせたのは、貴方」~ 「ぐ…」~ 「彼女自身に刃を向けさせたのは、貴方」~ 「…それ以上言うなっ!!」~ 「彼女を殺したのは……貴方よ」~ 「違う! 違う!! 違う!!!」~ ~ ~ 「何とでも言いなさい。どの道、もう彼女は貴方の元へは帰って来ない」~ 「…!!」~ ~ ~ 駄目だ。~ 耐えられない。~ 心がみしみしと悲鳴を上げるのが分かる。~ 涙を止められない。~ 壊れてしまう。~ 助けて。~ 助けて…咲夜…~ ~ ~ ~ ~ ~ ____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「お嬢様?」~ ~ 私の心がまさに砕けようとした時、聞き慣れた声が耳に入った。~ ~ 振り向けばそこには、確かに、目の前で、死んだはずの咲夜が立っていた。~ 「え…?」~ 「…ふふ、面白い見世物だったでしょ?」~ ~ 咲夜の姿はすぅっと薄くなると、何時の間にか人魂の姿になり、亡霊の姫へと吸い込まれて行った。~ よく分からないけど、私はまた騙されていたらしい。~ でも、そんな事より。~ ~ 「咲夜は…無事なのね?」~ 「言ったでしょ? 私は追い返されたのよ」~ ~ 身体中から力が抜けた。~ 咲夜が生きている。~ 咲夜がまた、私の傍に戻ってきてくれる。~ それだけでもう、何も要らなかった。~ ~ 「さっさと彼女の所へ帰ってあげなさい。それが最後の命令よ」~ ~ 私は服を着ると、ろくに整えもせずに部屋を飛び出した。~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ 「ねぇ妖夢、貴方が私のお気に入りの着物を破いてしまった時の事、覚えてる?」~ 「はい」~ 「私は怒りに任せて、ひたすら貴方を打ち据えたわ」~ 「はい」~ 「それで、目を覚ましてみたら、貴方の姿はどこにも無かった」~ 「…もう、お傍には置いてもらえないと思いました」~ 「あの時の私は、きっとあの悪魔みたいな目をしてたのね」~ 「…そして、あのメイドが私と同じだと?」~ 「森で倒れていた貴方を見付けた時、貴方は何と言ったか覚えてる?」~ 「もう一度、お傍に置いてください、と」~ 「私が馬鹿だったわ。~ 妖夢が居なくなったら、一番悲しむのは私なのに。~ 私が居なくなったら、一番悲しむのは妖夢なのに。~ それなのに、私は、貴方の事なんて考えもせずに…」~ 「…幽々子様、もうその話は止めましょう~ 私はこれからもずっと、幽々子様のお傍に居ます」~ ~ ~ 「ねぇ妖夢」~ 「はい」~ 「今夜は一緒に寝て欲しいな」~ 「…どこへでもお供します」~ ~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 「咲夜っ!」~ ~ 私はノックもせず、咲夜の部屋の扉を開けた。~ 返事は無い。~ ~ 「咲夜、咲夜っ!?」~ ~ 何度も呼ぶが、反応は無い。~ 先程の悪夢の光景が浮び、背筋が寒くなる。~ もう咲夜は、二度と私の前に現れないのではないか。~ ~ 違う。~ 違う。~ そんな事があるものか。~ でも、咲夜は何処に…あ…!~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「お帰りなさいませ、お嬢様」~ ~ やっぱり。~ 咲夜は私の部屋に居た。~ いつもと変わらぬ姿で。~ いつもと変わらぬ笑顔で。~ ~ 「咲夜…その…」~ 「私はもう大丈夫です。お嬢様」~ ~ 涙で前が見えない。~ 私は目を閉じて、思いきり咲夜の胸へと飛び込んで行った。~ ~ ~ ~ ~ おしまい~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ あとがき~ ~ 最後まで読んでくれた人、ほんとにごめんねごめんね。~ 本文読まずにあとがきだけ読んでる人、萌えさいたまを考えた人は天才と馬鹿の境界に居ると思います。~ ~ 裏最萌全盛期の頃から考えてた話です。~ 死を弄ぶ幽々子様の事、当時はこれぐらいやってくれそうなイメージだったのですが…~ 永夜抄のあれは何ですか。馬鹿(失礼)ですか? 白痴(失礼)ですか? 星辰病(失礼)ですか?~ 従者に「うるさい」とか言われてるし…~ なけなしのカリスマもどこかへ飛んで行った幽々子様に乾杯。むしろ完敗。~ ~ 次はえろえろよー!なのを書けるようにがんばります。~ ~ 書いた人:達磨源氏
タイムスタンプを変更しない
注意 18禁です。~ でもエロくないです。~ 要流血耐性。~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「おはよう、咲夜」~ 「ひ…きゃんきゃん!」~ ~ 鎖の許す限界まで、咲夜は逃げた。~ その目はまさに怯えた子犬の目そのもの。~ ~ 「もういいのよ、終わったわ」~ 「わんわん! わんわんわん!!」~ ~ 首輪を繋いでいた杭が引っこ抜け、咲夜は四本足で走って行った。~ ~ 「あっ、ちょっと咲夜…」~ ~ 自室へ入った咲夜を追いかけて、扉を空ける。~ 部屋の隅で震えている咲夜がいた。~ ~ 「ねぇ、咲夜ってば」~ 「わんわんわんわんわんわん!!」~ ~ 私に向かって、懸命に吼える咲夜。~ まるで、近づくなと言ってるみたいに…~ ~ 「どうしたの?」~ 「うっ…」~ ~ もう少し近付いたその時、咲夜は思いもかけない行動を取った。~ ~ ~ ~ 「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」~ ~ ~ ~ 泣いた。~ 咲夜が。~ 小さな子供のように。~ ~ 泣き止まない咲夜を前に途方に暮れていると、いきなり襟首を引っ張られ、部屋から引きずり出された。~ 入れ替わりに、美鈴が入って行くのが見えた。~ ~ 「レミィ」~ ~ 私を引っ張った手はパチェだった。~ 一度も見せた事が無い、怖い顔をしている。~ ~ 「咲夜の事が大切なら、しばらく彼女には近寄らないで」~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 目を覚ましたのは、とんでもない時間だった。~ ~ 着替えて外に出たら、美鈴に部屋に戻されて、服装を正された。~ ~ お腹が減ったので配給のお弁当を貰ったが、二口で食べるのをやめた。~ ~ 喉が乾いたが、紅茶の淹れ方が分からなかった。~ ~ 仕方なくパックの血を飲んだ。~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ そんな日が二、三日続いた後、私の番が来た。~ 歓声の中、最萌トーナメントの舞台に立つ。~ 舞台の上には、私の対戦相手である冥界の姫。~ その傍らには、彼女に付き従う二刀の剣士。~ ~ そして私の傍には……………誰も居なかった。~ ~ ~ ~ ~ ~ 結果は負け。僅差だったらしい。~ だけど、そんな事も、負けたこと自体も、何もかも、どうでも良かった。~ ~ ~ ~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 呼び出しがかかるまで、裏最萌の事もすっかり忘れていた。~ 仕方が無い。覚悟を決めて、西行寺の姫の部屋へと向かう。~ ~ ~ ~ ~ ~ 「いらっしゃい」~ 「…さっさと用件を済ませて貰えるかしら」~ 「あら、そう。ならとりあえず服を脱いで」~ ~ そら来た。~ 時間をかけず、さっさと服を脱ぎ去ってしまう。~ ~ 「それじゃ、しばらく目を閉じてて」~ ~ 言われた通り、目を閉じて待つ。~ 特に何も起こる風は無い。一体何をさせたいのだろうか。~ ~ しばらく待っていると、戸の開く音に次いで、足音がした。~ 足音は私の前まで来て止まった。~ ~ 「もういいわよ、目を開けても」~ ~ ~ 目を開いた私の前に飛び込んで来たのは……~ ~ あまりにも意外で、あまりにも見慣れた顔。~ ~ ~ ~ 「咲……夜…?」~ ~ ~ ~ 何故?~ 疑問符がいくつも走るが、ともかくそこには咲夜が居た。~ ただ、その顔は無表情で、少し怒っているようにも見え……~ ~ びしゃ。~ ~ 咲夜の顔が、服が、赤く染まった。~ ~ それからまず、胸に激しい痛みを感じて、~ 胸に刺さった銀のナイフが目に入り、~ それが咲夜の手に握られているのを確認し、~ 腕をたどってもう一度咲夜の顔を見て、~ やっと、それが自分の血だと認識した。~ ~ ~ 声も出なかった。~ 事態を認識したものの理解できないまま、第二撃が振り下ろされる。~ ~ ~ 「がっ……!!」~ ~ 考えるのを止めて、再生に全力を傾ける。~ 銀で負った傷を治すのは結構な労力だ。~ だけど、その間も咲夜の手は止まらなかった。~ ~ ぐさっ、ぐさっ、ぐさっ…~ 「あっ!! ぐっ!! ぎっ!!」~ ~ 痛い。~ 痛い。~ 痛い。~ どうして。~ どうして。~ ~ 「どうして…」~ ~ 一旦、咲夜の手が止まった。~ 今まで黙っていた、亡霊の姫が口を開く。~ ~ 「どうして?~ 心当たりが無いとでも言いたいの?~ 貴方が彼女に何をしたのか、覚えてないとでも言うのかしら?」~ 「そ、それは…」~ ~ ざくっ。~ 「!!!!!」~ ~ 「彼女に声をかけてみたの」~ 「え…」~ 「私は勝った。24時間、彼女を好きにできる。この機会に復讐しないかってね」~ 「そ、そんな…」~ ~ どすっ。~ 「ぎぃ!!」~ ~ 咲夜の手が、また動き出した。~ ~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 最初に出会った時は、闘いだった。~ ~ 「貴方、面白いわ」~ ~ 破れた彼女を自分のメイドにした。~ ~ 「何時でもかかってらっしゃい」~ ~ 紅魔館では禁じている銀の刃物を、彼女にだけは持つ事を許した。~ 挑発の意味を込めて。~ 久し振りに味わう刺激に、私は大いに喜んでいた。~ ~ …けれど。~ ~ それ以降、その刃先が自分に向けられる事は一度も無かった。~ 彼女は私のメイドになり、~ 友人になり、~ 家族になり、~ そして、いつしか恋人になった。~ ~ それと一緒に、銀のナイフの持つ意味も変わっていった。~ 私はもう、彼女を全く警戒していない。~ 今の彼女であれば、私の寝首を掻くことも容易だろう。~ ~ ~ ~ けれど、彼女がその刃を私に向ける事はもう絶対に無い……はずだった。~ ~ ~ ~ ~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 傷を再生するのを、やめた。~ ~ ~ ようやく気付いた。~ 非道い目にあわせたから、咲夜は私に刃を向けたのでは無い事を。~ 私が咲夜を信頼していたように、咲夜も私を信頼していたのだ。~ 私が咲夜の信頼を裏切ったから、咲夜はその信頼の証を私に突き立てたのだ。~ ~ 咲夜になら、殺されても良かった。~ むしろそうなるべきだと思った。~ ~ 「…分かってない」~ 突然、亡霊の姫が口を開いた。~ 同時に、咲夜の手が止まる。~ ~ 「本当に、分かってないのね、貴方」~ 「…な…にが」~ 「本気で、彼女が貴方に復讐するなんて思ってるの?」~ 「…え?」~ ~ 亡霊の姫は溜め息を一つつくと、やや語気を荒げて話し出した。~ ~ 「私が彼女をそそのかした時、彼女はなんて答えたと思う?~ 『私はお嬢様を愛している。私はお嬢様を信じている。そんな事ができるはずがない』~ って言われて、追い返されたわ」~ ~ 「…!」~ 「だから、ちょっと身体を乗っ取らせて貰ったのよ」~ ~ ~ 信じられなかった。~ 私は咲夜を裏切ったのに、咲夜はまだ私を信じてくれているなんて。~ 胸が痺れるように熱くなる。~ 嬉しくて、涙が出てきた。~ ~ 「ようやく分かったみたいね」~ ~ 私は頷いた。~ 咲夜を裏切った挙句、目に見える物に騙され、咲夜の心を理解していなかった自分を恥じた。~ 同時に、咲夜に会いたいと思った。~ 声が聞きたかった。自分の不実を詫びたかった。~ ~ ~ 「お願い…」~ 「何?」~ 「咲夜に、身体を返して…」~ 「いいわよ」~ ~ 彼女の笑みが不自然な事に、私は気が付かなかった。~ ~ ~ ~ ~ ~ 咲夜の目に、はっきりとした光が戻る。~ それから、自分の手を見て、~ 服を見て、~ 周りを見て、~ 私を見て…~ ~ 「あ…あ…」~ ~ 咲夜の顔が歪んだ。~ …!~ ~ 「うわああぁぁぁぁああああぁあああ!!!!!!!」~ ~ しまった。~ 咲夜は叫びながら床へ崩れ落ちる。~ ~ 「咲夜っ!」~ 「ーーーーーーー~~~~~!!!!!!」~ 頭を壁に打ちつけ、奇声を発する咲夜に、私の声は届かない。~ そのまま咲夜は、血に塗れたナイフを自分の首に当て…~ ~ 「待って、咲……」~ ~ ~ 真っ赤な血の海。~ ~ ~ 目の前に広がった光景を、私は信じられなかった。~ 否、信じたくなかった。~ 認めれば、それで全てが終わってしまう気がした。~ 咲夜が。~ 咲夜が。~ 咲夜が咲夜が咲夜が咲夜が咲夜が!!!~ ~ くすくす…~ 亡霊の姫が笑っている。~ 「こうなる事ぐらい予想できなかったのかしら?」~ ~ きっ、と彼女を睨みつけた。~ 胸の中で暴れ回る、処理できない感情を、まとめて彼女へ向ける~ ~ 「よくも…よくも咲夜を!!」~ 「あら、まるで私が彼女を殺したみたいな言い草ね」~ 「…普段の彼女なら、自刃するよりは私に刃を向けたんじゃないかしら?」~ 「うるさいっ! 咲夜を、咲夜を返して!!」~ 「彼女の心を弱らせたのは、貴方」~ 「ぐ…」~ 「彼女自身に刃を向けさせたのは、貴方」~ 「…それ以上言うなっ!!」~ 「彼女を殺したのは……貴方よ」~ 「違う! 違う!! 違う!!!」~ ~ ~ 「何とでも言いなさい。どの道、もう彼女は貴方の元へは帰って来ない」~ 「…!!」~ ~ ~ 駄目だ。~ 耐えられない。~ 心がみしみしと悲鳴を上げるのが分かる。~ 涙を止められない。~ 壊れてしまう。~ 助けて。~ 助けて…咲夜…~ ~ ~ ~ ~ ~ ____________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「お嬢様?」~ ~ 私の心がまさに砕けようとした時、聞き慣れた声が耳に入った。~ ~ 振り向けばそこには、確かに、目の前で、死んだはずの咲夜が立っていた。~ 「え…?」~ 「…ふふ、面白い見世物だったでしょ?」~ ~ 咲夜の姿はすぅっと薄くなると、何時の間にか人魂の姿になり、亡霊の姫へと吸い込まれて行った。~ よく分からないけど、私はまた騙されていたらしい。~ でも、そんな事より。~ ~ 「咲夜は…無事なのね?」~ 「言ったでしょ? 私は追い返されたのよ」~ ~ 身体中から力が抜けた。~ 咲夜が生きている。~ 咲夜がまた、私の傍に戻ってきてくれる。~ それだけでもう、何も要らなかった。~ ~ 「さっさと彼女の所へ帰ってあげなさい。それが最後の命令よ」~ ~ 私は服を着ると、ろくに整えもせずに部屋を飛び出した。~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ 「ねぇ妖夢、貴方が私のお気に入りの着物を破いてしまった時の事、覚えてる?」~ 「はい」~ 「私は怒りに任せて、ひたすら貴方を打ち据えたわ」~ 「はい」~ 「それで、目を覚ましてみたら、貴方の姿はどこにも無かった」~ 「…もう、お傍には置いてもらえないと思いました」~ 「あの時の私は、きっとあの悪魔みたいな目をしてたのね」~ 「…そして、あのメイドが私と同じだと?」~ 「森で倒れていた貴方を見付けた時、貴方は何と言ったか覚えてる?」~ 「もう一度、お傍に置いてください、と」~ 「私が馬鹿だったわ。~ 妖夢が居なくなったら、一番悲しむのは私なのに。~ 私が居なくなったら、一番悲しむのは妖夢なのに。~ それなのに、私は、貴方の事なんて考えもせずに…」~ 「…幽々子様、もうその話は止めましょう~ 私はこれからもずっと、幽々子様のお傍に居ます」~ ~ ~ 「ねぇ妖夢」~ 「はい」~ 「今夜は一緒に寝て欲しいな」~ 「…どこへでもお供します」~ ~ ~ ~ ~ ___________________________________________________~ ~ ~ ~ ~ ~ 「咲夜っ!」~ ~ 私はノックもせず、咲夜の部屋の扉を開けた。~ 返事は無い。~ ~ 「咲夜、咲夜っ!?」~ ~ 何度も呼ぶが、反応は無い。~ 先程の悪夢の光景が浮び、背筋が寒くなる。~ もう咲夜は、二度と私の前に現れないのではないか。~ ~ 違う。~ 違う。~ そんな事があるものか。~ でも、咲夜は何処に…あ…!~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 「お帰りなさいませ、お嬢様」~ ~ やっぱり。~ 咲夜は私の部屋に居た。~ いつもと変わらぬ姿で。~ いつもと変わらぬ笑顔で。~ ~ 「咲夜…その…」~ 「私はもう大丈夫です。お嬢様」~ ~ 涙で前が見えない。~ 私は目を閉じて、思いきり咲夜の胸へと飛び込んで行った。~ ~ ~ ~ ~ おしまい~ ~ _____________________________________________________~ ~ ~ あとがき~ ~ 最後まで読んでくれた人、ほんとにごめんねごめんね。~ 本文読まずにあとがきだけ読んでる人、萌えさいたまを考えた人は天才と馬鹿の境界に居ると思います。~ ~ 裏最萌全盛期の頃から考えてた話です。~ 死を弄ぶ幽々子様の事、当時はこれぐらいやってくれそうなイメージだったのですが…~ 永夜抄のあれは何ですか。馬鹿(失礼)ですか? 白痴(失礼)ですか? 星辰病(失礼)ですか?~ 従者に「うるさい」とか言われてるし…~ なけなしのカリスマもどこかへ飛んで行った幽々子様に乾杯。むしろ完敗。~ ~ 次はえろえろよー!なのを書けるようにがんばります。~ ~ 書いた人:達磨源氏
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