~桜花の恋塚~


 その日、本当に珍しく、紫は朝早くに目が覚めた。二度寝しようとしても何故か眠れず、仕方無しに朝ご飯でも食べようかと思い居間に行くと、式神達が大層驚いて迎えてくれた。

 もちろん、紫の分の朝食は用意されていなかった。


  *  *  *


「ここも変わってないわね」

 午後。
 紫は昼食を軽く済ませると、久し振りに白玉楼へと足を運んでいた。暇だったのが最大の理由だったが、たまには彼女の顔を見に行くのも悪くはない、と思ったからだ。

 季節柄、咲き誇る桜並木を抜けていると、そこに彼女の姿はあった。

「………くー………」

 正確に言うと、眠っていた。大きくそびえるその桜の木にもたれかかって、幽々子は夢の世界に旅立っていた。
「しょうがないわねえ。寝てばっかりいちゃ、ダメなんだから」
 己の式神が聞いたら複雑な顔をしそうな台詞を言って、紫はそっと彼女の横に腰を下ろした。そのまま寝ている幽々子の頬を、少し突付いてみる。
 むに。
「………」
 むにむに。
「………………」
 ぎゅう~~~………
「………………………ふえ………ふぁ?」
 ついつい頬を引っ張ってしまった所で、間延びした声を上げ、幽々子が目を覚ました。
「………ふぁえ? はんへゆふぁひはほほひひふほ?」
「あら、ごめんね幽々子。面白い感触だったから、つい引っ張っちゃったわ」
 慌てて引っ張る手を離す紫。幽々子は伸びた頬をさすると、今の言葉をもう一度言う。
「…あれ? 何で紫がここにいるの?」
 幽々子は首を傾げ、紫の顔を覗き込んだ。
「ええ、ちょっとね。久し振りに早起きしたから、久し振りに遊びに来たの」
「ふぅん」
 紫の言葉に、まだ少し眠そうな声で幽々子は頷いた。…というか、まだ明らかに眠そうな素振りで、頭を前後させている。
「ちょっと、大丈夫? だいぶ眠そうだけど」
「……うん……大丈夫…よ…」
 あまり大丈夫でなさそうな返事をして、幽々子は紫の胸の中に収まってしまった。
「あ」
「……ん……紫の体…温かい……」
「…幽々子の体だって」
 亡霊に体温なんてあるのだろうか、などと思ったりもした紫だったが、この際どうでもいい事であった。
「眠いの? 幽々子…」
「んー…少し……」
 紫の胸に顔を埋め、幽々子は呟く。その声は、やはり眠そうであった。何だか、紫まで眠くなってしまいそうだった。
「紫…何か、目の覚める様な事、ないかしら…?」
「え? どうして?」
「…だって、久し振りに紫が来てくれたんだもの。ちゃんと、起きてたくて…」
「…幽々子」
 幽々子のその言葉を聞いた紫は、彼女の頭を撫でる。そして、おとがいに手を添えた。
「何? ゆか―――」
「―――」
 そのまま、唇を重ねた。
 幽々子の目が一瞬見開かれたが、すぐに瞼がゆっくりと閉じられた。


  *  *  *


「…目、覚めた?」
「ええ、びっくりしちゃった」
 すっかり眠気の去った二人は、大きな桜の木の下で寄り添い合ったまま、散る花弁を眺めていた。
「ねえ、紫…」
「ん? 何?」
「たぶん、すごく久し振りよ。紫にキスされたの」
「…そうなの? どれくらい、久し振りなのかしら」
「んーと、たぶん、両手で数えられるくらい?」
 それは微妙な数ね、と紫は頷き、ふと思いを巡らせた。
(―――そう、私、そんなに幽々子としてないのね)
 隣には、ゆったりと座っている幽々子の姿。その姿を見て、紫は堪らなく―――
「―――幽々子」
「ひゃっ」
 堪らなくなって、紫は幽々子を抱きしめた。その拍子に幽々子の帽子が脱げ、地面に落ちる。近づけた顔の側からは、幽々子の髪のいい香りがした。
「…何? どうしたの? 紫…」
「……急にごめんね、幽々子。でも私、今日は何だか久し振りに、あなたとしたい気分なの」
「…ふふ、珍しいわね、紫がそんな事言うなんて。早起きしたから、寝ぼけてるの?」
「そうかも」
「んっ」
 くす、と笑った後、紫はもう一度幽々子の唇を奪う。今度は舌を突き出し、幽々子の舌を求める様に動かす。
「ん―――ン―――」
「……ちゅっ………んん……」
 少しだけ戸惑う様に差し出された幽々子の舌を、紫の舌は絡め取っていく。
「はっ……あ、ふ……ん…」
「んくっ…ちゅるっ……ちゅ……」
「はっ…あっ……あ―――んっ!」
 うっとりとした顔で、紫の舌による口腔への愛撫を受け取っていた幽々子が、不意に体を震わせる。
「ん…? どうしたの、幽々子…」
「もう、紫…キスしてる時に胸触るのは、反則よ……」
 紫の手は、幽々子の服の隙間からその中へ入り込んでいた。
「そう…? でも幽々子、こうされるの、キライじゃないでしょう…?」
「……それは……そうだけど………っ!!」
 幽々子の僅かな抗議を無視しつつ、紫は更に手を動かす。
「嫌な訳ないわよね…? ほら、もう先っぽがこんなに硬くなってきてる…」
「や―――そんな事、言わな……」
 その言葉を最後まで聞かず、紫は幽々子を押し倒した。
「きゃっ…」
「ほら…服なんて邪魔なだけよ…? 脱いで…」
「うん…」
 紫の言葉に、幽々子は静々と従い、その肌を露わにしていく。その透き通る様な白い肌に、紫は指を這わせていく。
「あっ…紫も……脱いでよ…」
「ふふ…そうね」
 幽々子の指摘に紫も頷き、服に手をかける。きめ細やかな肌が、陽光に光っていた。
「ほら、脱ぎました…」
「うん……紫……来て―――」
 寝転んだまま、幽々子は紫へと手を伸ばす。紫はその手を握ると、ゆっくりと幽々子と体を重ねていった。


  *  *  *


「はっ……んっ…ふ……ぁ―――」
 ぴちゃぴちゃという小さな水音が、幽々子の体を支配してゆく。その体を這う紫の舌は、幽々子の肌を薄紅に染め、艶めいた声を上げさせる。
「ん…んふ……どう……幽々子…気持ち、いい…?」
「ぁ…う、ん…」
 紫の問いに、こくりと頷く幽々子。その顔を満足そうに見た紫は再び舌による愛撫を始める。
「あふっ…! ん、んん……! あ、ゆか、り……!」
「んっ…ぴちゃっ……ちゅっ……」
 胸を食む様に、二の腕を擦る様に、指を吸う様に。丹念に幽々子の体を舐り尽くすと、紫の指は幽々子の花弁へと向かっていった。
「っ……! やっ、はあっ!! そっ…こ、はぁ……!!」
「幽々子……濡れてる……」
 紫は、幽々子の耳元でうっとりとした声で囁く。ふぅ、と息を吹きかけると、幽々子はびくりと体を震わせた。
「はっ……やっ…分かってるから…言わない、でぇ…」
「どうして…? 幽々子のココ、もうこんなにぐしょぐしょになってるのに…?」
「ひぃっ……あっ……いや……そんなの、嘘よぉ……」
「嘘…? 嘘なんかじゃないわよ…? ほら…耳を澄ませて……? ………ね? くちゅくちゅ、っていってるでしょ…? 幽々子のアソコ、私の指に弄られて、こんなにエッチなおツユを出してる……」
 そう言って、紫は幽々子の愛液に濡れた指を、幽々子の目の前に持ってくる。
「あ……ぁぅ………」
 幽々子は更に顔を真っ赤にして、俯く。紫はくすりと笑うと、指を再び花弁へと戻した。
「はうっ……! んあ、あぁぁあ……!!」
 幽々子の体が仰け反り、嬌声が上がる。それを見た紫は、幽々子の背中に手を回し、その体を抱き上げた。
「ふあっ…! 紫……何……?」
 顔に疑問符を浮かべた幽々子の唇を、紫は塞ぐ。そのまま舌を強引に絡ませ、更に指を激しく動かしてゆく。
「んんっ!! はぐっ、んぐ……!! ひ、んううぅうぅぅ……!!」
「んっ……は……幽々子…見て……私のココも、濡れてる…」
「あ―――ゆか、り―――」
 紫は閉じていた股を開き、赤みの強い果肉を晒した。
「幽々子…来て…」
 両手を広げ、紫は幽々子を誘う。それに幽々子は頷き、既に濡れそぼっている自らの花弁を、紫の花弁に重ねた。
「っ……あ……!」
「っく…はぁ……!」
 じゅく…
 湿った音を立て、重なる肉。重なる甘い吐息。
「幽々子…動いて……」
「うん……私も…我慢出来ない…」
 二人は、ゆっくりと腰を動かす。その律動毎に甘美な刺激が全身を駆け巡り、二人は恥ずかしげも無く声を上げる。
「はうっ……あっ……!! 紫っ……紫っ……!!」
「うぅっ…ん……んあぁぁ……!! ゆ、幽々子っ……!!」
 その動きが二人を酔わせ、その鼓動が二人を昂ぶらせる。
「あっ…! あ、んぁぁあああ……!! はああぁああ……!!」
「んんっ……ふっ、ぅん、んぅぅうぅううう……!!」
 二人はきつく抱き合う。最後のその時まで、決して離れぬ様にと―――

「「んあ、あぁぁああぁあぁあぁあぁあぁああああぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」

 びくっ! びくんっ……!

「………あ……ん……紫ぃ………大好き……」
「私も、よ………幽々子…」
 絶頂後の虚脱感の中、二人はどちらともなく深い口付けを交わした。


  *  *  *


「ねえ…紫…」
「ん? なぁに…?」

 行為の後、二人は桜に木に寄り添って座っていた。
「今日の紫…何だか激しかったわ…」
「…そう?」
「…そうよ?」
「……」
 そう言われた紫は、思わず考えてしまった。何故自分はこうも激しく幽々子を求めたのか、と。

 …簡単な事だ。
 桜の木の下で眠っていた幽々子の姿が、生前の彼女と重なって見えたから。
 今ではもう彼女は思い出せない、生前の紫との思い出。それが思い出せる自分は、一人だけ取り残された様で。
 せめて、今の彼女を―――

「何だか、みっともないわね」
 溜め息をつき、紫は空を見上げる。目に入ってくるのは、無数の花びらと、眩しい光。
「……く~~」
「………」
 そして、紫の隣で呑気な寝息を立てる幽霊一人。
「…何だか、悩んでる自分が馬鹿みたいね…」
 少し笑った紫は、木の裏に声を投げかけた。
「出ていらっしゃいな。もう、終わったから…」
「………!!」
 木の裏にいた人物は、驚きの声を上げて紫へと走ってきた。
「こんにちは、妖夢」
「こ………こここ、こん、こん、こん………」
「…狐?」
 顔を真っ赤にして俯いている妖夢に冷静なつっこみを入れ、紫は微笑む。
「あ………あの……こ、こん…にちは……」
 どこか気まずそうに妖夢は喋る。そんな妖夢を見て、紫は更に微笑んだ。
「別にいいわよ。外でする以上、あなたに聞かれる事くらいは予想出来るもの」
「は……はあ……」
 呆気に取られる妖夢を横に、紫は幽々子の寝顔を見る。
 安らかな寝顔。きっと人間、死ぬ時はこうでありたいと人間は思うのかもしれない。
(って、幽々子はもう死んでるのに…)
 我ながら間抜けね、と紫は思った。
「妖夢ちゃん」
「は、はい!」
 急に紫に呼ばれた妖夢は、背筋を正す。

「…これからも、幽々子をお願いね…」
「え―――は、はい!」

 はっきりとした妖夢の声に、紫は安心して、幽々子の頭を撫でた。

 その顔が微笑んだ様に見えたのは、気のせいではないだろう。








  了








<まあ後書き>

 実は以前、某氏のゆかりんネチョSSをリクされた時はこの話を書こうと思ってたけど、
 先方からの要請により前回の紫×霊夢になったというどうでもいい裏話。

 そんな訳で今回は適当に。まあSSの練習にもなるし、いいか(ぉ


 まあ書いた人:謎のザコ


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2302d)