いきなりだけど悪魔を呼んでみることにした。
 といっても、大掛かりな準備を要するサバトとかじゃないの。極々簡単な、私一人でも十分に事足りる簡単な儀式でOKな方ね。

 理由? ・・・それは、口に出すのは恥ずかしいことだけど、率直に言えば私の性的な欲求を満たすため。そう率直に言えば・・・。

 だって仕方ないじゃない? 百年も本ばかり読んでいれば自然とこんな知識くらい付く。その知識を実践してみたいと思うのは、知識を探求する魔女として至極当然のことじゃあないかしら? 

 えっ? 遅いよって? それもまあ当然といえば当然ね。私は人間と違って永い時の中を生きているわけだし、自分の子孫を残すための生殖行動を焦る必要なんて少しもないわけだし・・・。それにまだ一人でやりたいこともあるしね。
 ・・・って、別に一人でずぅ~っと本を読み続けたいって意味じゃないけど・・・。

 とまあ、人間で言えば少女と呼ばれるくらいの年齢に、漸く魔女の私がなれたということかしらね。でも、だからと言って、偶にここヴワル魔法図書館を訪れる人間の少女が私と同じようにそういったことに興味を持っているとは限らない・・・。
 限らないけど、遅かれ早かれ、いずれはあの子も私と同じように性的なものに興味を持つ日がやって来ることだろう。

 ――コホンッ、それはさておき、うちのメイド長の咲夜はどうだろうか? 彼女は人間の年齢で見ればすでに成熟した大人の女性という感じ。・・・少し言い過ぎかしらね。ええと、大人のお姉さんって言い直した方がよさそうね。明らかに歳は私の方が上なだけに多少違和感のある言い方だけれども、まあ的は射ている・・・・・・と思う。

 少なくとも魔理沙よりかは年上なんだし、そういうことに興味がないわけじゃないとは思うんだけど・・・。でもまあ、咲夜くらいの歳で大体の人間は結婚して子供を作っているわけだから、興味がなくはない・・・気がする。

 ・・・あれこれと勝手な想像をするより、直接本人に「性的な行為に興味はある?」って聞いてみるのが一番ベストだけど、それだけは避けたい。

 「あの大人しくて真面目で病弱で取り澄ました上に知識と日陰の少女だなんて謳っているパチュリー様が何てことをぉぉおおをあっっ!?」みたいなオーバーリアクションを返されかねない。メイド長の平静が崩れていく顔が目に浮かぶ。それどころかそんな発言をした瞬間に、外で門番やってる子と紅魔館の中での立場が逆転しかねないのが非常に辛い・・・。
 そう、私は人間で言うなら完璧に仕事をこなす女史でなくてはならないのだ。間違っても頭の悪い質問をして、後ろ指を刺されるようなことがあってはいけない・・・。

 それなら身内でない魔理沙に聞いてみたいところだけど、そんなことに興味すら持っていなかったら、私はこれから彼女に会うたびに肩をバシバシと叩かれて笑われるような気がする。仮に知っていたとしても、そこはかとなく嫌な笑みを浮かべられ、以後、図書館の本は彼女だけ無断持出許可ということも有り得る。毎回きちんと返却には来てくれるからいいけれど、そうなったら今後はどうなるか分かったものじゃない。半永久的に貸し出しということになるのはご免だ。

 ・・・というよりも、魔理沙や咲夜に留まらず、端からそんな話を吹っかけれるような相手は私の周りにいないことに気付いた。


 博麗霊夢、・・・直にバカにされる。
 霧雨魔理沙、・・・もちろんバカにされる。
 咲夜、・・・今後の扱われ方が変わる。
 レミィ、・・・とても言えない。
 妹さま、・・・まだ早い。
 小悪魔、・・・立つ瀬がない。
 湖の氷精、・・・無理。


 ・・・・・・・・・。

 ・・・そもそも私は自分からそんな話を切り出せるほど社交的な魔女じゃないし、こんなこと考えること自体が全くの無意味。結局、何が言いたいのかというと、私くらいの歳(人間年齢換算)で性的なことに興味を持つのはおかしくも何ともないんじゃないのかなぁって・・・。

 ・・・分かった? 分かったわね? 普通よ、全然普通!
 絶対、間違いなく、確実に、私くらいの歳(人間年齢換算)の子はえっちなことにきっと興味津々なんだから!!! あ~もう、言ってて恥ずかしくなってきたわ・・・。

 まあ・・・そういうわけだから、結局のところえっちなことを試してみるのも自分一人でやるしかないのよね。もし、彼女ら(魔理沙やアリスって子)にそういう知識があるんだったら、一緒にサバトなんてやってみるのもいいかもしれないとは思うんだけど、彼女らの性格を考えるにそれは実現しそうにない。それに、サバトをやるには魔女の人数が少な過ぎる。幻想郷にはいろいろといるけれど、魔女の知り合いなんて最近になってやっと出来たばかりだし・・・。
 まあ、仮に人数がいたとしても私の方が彼女たちを誘う事に臆するに違いない。はぁ・・・、いずれにしても、結局私一人で事を進めていくんでしょうね。今までだってそうしてきたし、きっとこれからもそうに違いない・・・。


 *

 知識を得ること、実践すること、それらが生きることに意味を齎さなければ、それはただの自己満足でしかない。しかし、その自己満足こそが生きる上で多大なウェイトを占めていることは間違いない。生きていく中で、自己満足の多くは相対的に見て無駄だ。その無駄の上に無駄を重ねて生きていくのが人間。それに輪をかけて無駄を重ねているのが、人間に比べて圧倒的に寿命の長い私たち上位種の者ではないだろうか? 例えばここ数年でこんな事例があるわ。

 ―――日を閉ざす霧。
 ―――老桜の開花。
 ―――地上の密室。

 どれもこれもが事を起こした本人たちにとっての自己満足でしかなかった。
 幻想郷全域を霧で覆わなくてもレミィは生きていける。桜は満開にならずとも冥界の幽霊嬢は生きていける(正確には亡くなっているが)。地上を隔離しなくとも月の咎人であったらしい女は、実は生きていけた。
 各々簡単に分析してみると、大体が自分の我を通すためにやったことのように見受けられる。そんな自分一人が得をするためにそんなことをやっても、その他大勢から反発を受ける事は目に見えているわけで、あの人間たちに彼女らの目的を潰されたことはほとんど必然だったと言っても過言ではないだろう。
 ・・・そうなってはもはや自己満足にすらなっていないが、一応彼女たちの行動理念には自己を満足させようといった意志があった。結果的に彼女たちの行動は無駄になっているが、これらの事例からも、私たちが如何に他人に関係なく自己を満足させようとして生きているかが伺えると思う。 

 ・・・そもそも、彼女らは私と違って寿命なんてない。彼女らのやろうとしたことは客観的に見ればまぎれもなく自己満足。人騒がせなだけでやるだけ無駄なことだった。でも・・・だからいいのだ。無駄だからいい。無駄なことはえてして本人にとっては楽しいものだ。例えば、魔理沙は何に使うのか知らないが何処ぞからかガラクタを拾っては集めるという犬のような趣味がある。私からすれば明らかにその行為は無駄なことだけれども、本人にとってはこの上なく楽しいものに違いない。
 逆に、私が本ばかり読んでいるのだって、他人の目から見れば大いに自己満足に映るだろうってこと。要するにまあ、無駄なことをするのが生きている証ってことかしらね。事件を起こした御三方もやっているときはすごく楽しかったのだろうし・・・。寿命が永遠に等しい彼女たちは、これからも一見無駄とも思える自己満足を繰り返して生きていくのだろうか…。

 
 ・・・っと、つまりね、私が言いたいのは・・・。
 あ~、その・・・、えっと・・・・・・、凡そ無駄とも思える知識の実践も生きていく上には必要なことなのよ・・・と。

 そう自分に言い聞かせて、私は生まれて初めて自慰行為なるものをやってみたのだった。

 事の発端は図書館で偶然その手の内容がくわしく載っている本を見てしまったから。いつもなら理性的に行動出来るはずの私も、このときばっかりはただただ本能のおもむくままに貪るようにしてその本を読んだ。
 読みながら、うっすらと自分の下着が湿っているのを感じて、最初は嫌悪感を抱いたものだったが、やがてそんな感情はすぐに吹っ切れて、自分から本を片手に下着越しに自分の秘部をまさぐったのだった。

 あのときの興奮ったらなかった。ぽぉっと顔を真っ赤にしながら荒い息遣いで本棚にもたれかかりながら無我夢中で自分の性器を弄る。場所が場所なだけに、その行為に幾度となく背徳感を覚えたが、下着の上から擦る度に訪れる強い快感の前にはもはや抗う術はなかった。

 くぐもった吐息を何度吐いたか分からない。
 やがて、頭の中が真っ白になったみたいな強烈な快感に襲われて、私は百年あまり生きてきた中で初めての絶頂を迎えたのだった。その刺激があまりにも強かったのか疲れたからなのかは分からないけれど、コテンと軽く気を失ってしまった。
 
 ・・・その後の事は今でも思い出すとゾッとする。
 軽くとは言ってもそこそこの時間意識がなかったようで、偶々その時間帯に図書館の掃除に来ていた咲夜に揺り起こされたのだ。

 「・・・さま・・・・・・ぱ・・・・・・さま・・・・・・・・・パチュリー様!」

 ガクガクと体を揺すられ、パッと目を醒ましたときは本当に心臓が止まるかと思った。瞬時に自分の格好を見て、淫蕩な行為に耽っていたかどうかがバレてやしないかと思ったが幸いにしてそれはなかった。臭いの方も、その日実験で作ってみた香水を体に振り撒いていたおかげで感付かれていないようだったので助かった。

 「・・・あ、咲・・・夜・・・・・・おはよう? ・・・えっ、っと・・・あれ?」

 先の服装の確認行動はほとんど体の反射みたいなもので、一瞬で行えていたけれど、言葉を口にするのはどうにもちぐはぐになっていた。そこのところはやっぱり突然のことだったから錯乱していたんだと思う。

 「もう~、こんなところで眠られてはお体に障りますよ? さっ、お休みになられるのでしたらベッドの用意をしますから・・・。さぁ、お立ちになってください」

 そう言って咲夜は私の手を取ろうとしたが、私は何とか状況を頭の中で整理してその申し出を断った。
 ・・・今立ち上がるのは拙い。ひじょ~に拙い。服装の乱れは寝ていたということで誤魔化しも利くが、流石に汚れてしまったであろう床にだけは幾ら何でも気付かれてしまうだろう。そうなれば状況からして私が『そういうこと』をしていたのは明白だ。言い逃れなんて通用する相手でもないし・・・。

 「・・・と、ごめんなさい。ちょっと本を読んでたら転寝しちゃって・・・。まだ途中までだったし、せっかくだからここで読んでから部屋に戻るわ」

 そうですかぁ? と咲夜は困った顔をしていたが、何とか作り笑いをして窮地から逃れる事が出来た。もしあのとき掃除をするからどいてくれとでも言われていたらどうなっていたことだろう。
 ・・・今でもそれを考えると恐いけど、もしかすると私の『行為』に気付いていたが知らない振りをしてくれたのかもしれない・・・。確か例の本もそのときは開きっぱなしになって床に落ちていたし・・・。
 そう考えると少し鬱になるけれど、実際のところは何も分からないから何とも言えない・・・。

 咲夜が図書館から出て行ったのを確認すると、私はそぉっと自分が寝転んでいた場所から体をずらした。下着の湿っぽい感じがこの上なく不快だったので、どうなっているんだろうと思ってネグリジェを捲くって見てみると、私が自慰行為の最中にさんざ分泌した体液による湿りでビショビショだった。・・・まるでおもらしでもしてしまったようで複雑な心境だった。
 
 体をずらした場所を見てみると、案の定床はビショビショとまではいかないが私の体液で汚れていた。こんなの見られなくて良かった・・・とホッとすると、私はとりあえず本を元の場所に戻してから自室に汚れを落とす薬を調合しにいった。下着の方はまさか咲夜に洗ってもらうわけにもいかなかったので、早々に処分した。

 薬を作ってから急いで現場に戻ると、私は脇目も振らずにそれを使って汚れを一瞬にして蒸発させた。分量を間違えたのか少しだけ床が焦げてしまったけれど。
 その後は、ぺたんと床に崩れるようにして座り込んで、自分のやったことを思い出して改めて赤面した。いくら刺激が強かったにせよ、こんなところであんなことを・・・と。

 少し気持ちを落ち着けると、私は例の本と同じような内容の本を探し、何冊かを自室に持ち帰ってから朝まで自慰行為に耽っていたのだった。途中で咲夜が食事に呼びに来た時は口から心臓が飛び出そうになるほど驚いたけれど・・・。

 それからだろうか、私がそういう行為に興味を持ちのめり込むようになった切っ掛けは。こんな行為は、実際には生きていく上に必要はない。知らなければ知らなかったで全く問題はない。どんなに強い快楽が得られようと、突き詰めればこれもただの自己満足でしかないのだから・・・。

 ・・・私はさっき言った。無駄なことをするのは生きている証だと。
 だったら、この自己満足さえも私の生きている証だと言えるのかもしれない・・・。
 それでも私は・・・・・・それでも私は・・・この行為に『意味』を持たせたい・・・・・・。


 *

 少しずつ、少しずつ、私の行動はエスカレートしていった。
 始めは下着の上から申し訳程度に自分の陰部を擦る程度だったのだが、やがてそれだけでは満足出来なくなったのと、やる度に下着を汚してしまうのが嫌になったために直に触れるようになった。

 最初は直に触れることがグロテスクな感じだったけど、行為を続けていくうちに段々と抵抗はなくなっていった。むしろ、どうして今まで下着をつけたままでやっていたんだろうとさえ思うようになっていた。順応というのはちょっと恐い。

 そんな今では、下着はおろか服すらも着ないで行為に耽ることが多くなった。端に性器を弄るだけでなく、自分の胸をちょっと痛いかな・・・? というギリギリのラインで刺激するとそれが快楽に転化されることを知ったからだった。それも始めは当然服の上からやっていたことだったけど、同じように直にした方が快楽の度合いが増すと気付いてから、自慰行為はほとんど裸同然の格好でするようになった。

 こんな風にして、自慰行為が私の一日のいくつかの割合を占めるようになってからは、この行為を頻繁にやっていることを紅魔館の住人に気付かれないよう、少しばかり対策を立てておく必要があった。
 一番の問題はやっぱり咲夜だろうか。食事の呼び出しはまあ別に何ということもないのだけど、厄介なのは私を起こしに来るときとベッドメイキングの時間。・・・その時間の間やらなければいいじゃないという話になるけど、一度やりだすと満足の行くまでずっとし続けてしまうから自分でもどうかと思う。とりあえず、急に入ってこられても構わないように気配がしたらお布団を被る算段は整えている。臭いの方はお香を焚いているから、まあ気付かれはしないだろう・・・。
 実際、咲夜が急に入ってくるということは何度かあって、その度に肝を潰したが何とか間に合って今のところバレてはいない。気分が悪いとでも言えば、私が病弱なのを知っているので咲夜も無理にお布団を剥がそうとはしないからだ。

 「そうですか・・・。それじゃあもうしばらくお休みくださいね」

 そんな感じに言って、軽く部屋の掃除をしてから会釈をして出て行く咲夜を見ると非常に申し訳なく思うのだけど、こっちも必死だったりする・・・。
 でも、そうやって咲夜を誤魔化しているうちに、バレたらどうしようからバレても構わないという気持ちも芽生えてきた。自分のやっていることがバレそうだという危なっかしい状況のドキドキ感が、そのまま快楽に置換していたのだった。もちろん、そんな気持ちも漠然とあるだけで、バラすつもりなんてさらさらないけれど・・・。

 こんな危ない気持ちになるのは何でだろう? と考えてみたが、やっぱり自分のやっている行為をただの快楽を得るだけの自己満足に終らせたくないからというのが一番しっくりときた。
 それはどういうことか? つまり、私の行っている行為を自分一人で終らせたくない。他者を交えて行ってみたいという気持ちが私の中にあるからなのだろう。すなわち性交だ。しかし、本によれば普通性交とは異性同士でやるものらしい。中には例外もあるようだが、私の周りの人間がその例外であるとは考え難いし、何よりも自分自身がその例外ではない。かといって異性の知り合いがいるわけではないし・・・。

 でも、有体に自分の気持ちを言うと、異性・同性なんて関係なく、私のやっている行為とそこから得られる快楽を誰かと共有してみたい。一人で完結したくない、ただの自己満足で終らせたくないのだ・・・。回りくどいようだけど、きっと私は他者と分かり合うといったような明確な『意味』をこの行為に求めているに違いない。

 そんな考えを抱くようになってから、私の自慰行為はやや変質的なものへと変わっていった。より他者と他者同士の性交に形を近づけるために、異性の性器を象った張り型を使用するようになったのだった。
 けど、魔女は処女を失うとその魔力を失うという話を聞いたことがあるので、それを自分の性器に挿入するというようなことは止めておいた。代わりに、私は後ろの・・・お尻の方に使ってみることにした。

 ・・・そっちの方も前と同じように快感を得ることが出来ると知ったときは少なからずの衝撃を覚えたように思う。始めは自分の指でお尻の穴を弄るなんてことはとても無理だと思ったけど、やっているうちに私は自分で自分の排泄器官を弄っているんだという背徳感と羞恥心からくる快感に病み付きになっていった。

 そこを弄るようになってからは、陰部から分泌される体液の量が増えたように思う。どうやら私は、羞恥的な思いをすると普通よりも興奮するといった性質であるらしかった。そう、思えば咲夜がいきなり部屋に来たとき、冷や冷やしながらも実際は興奮していたのではなかったか? 咲夜が出て行った途端に、いつも以上の動きで指を動かしたのではなかったか? 
 ・・・なんだかんだと自分の行動に理由付けをしていたが、結局は私の性癖がそういうものであったということなんじゃないだろうか。まあ一概にそうだとは断言出来ないけど・・・。

 うふふふ、でもそうは言っても、ほら、今もこうして私は自分の肛門に指を突き入れて悦んでいる。張り型を挿入して快楽に喘いでいる。そして誰かに見られているのでは・・・という妄想を勝手にして股間を濡らしている・・・。


 あはははは、本当にどうしようもない・・・。
 これじゃあただの色情狂じゃない・・・。
 あら、この涙は何かしら・・・。
 何か悲しいことがあるっていうの?
 ・・・うん、そう。きっとそう・・・。


 きっと私は―――寂しいんだ。


 *

 ・・・気を紛らわすためだったのかもしれない。

 こうして室内の床に逆五芒星の魔方陣を魔法の塗料で書いて、五つの燭台に囲まれながら魔方陣の中心に全裸の私が横たわる。悪魔召喚の儀式だ。
 元々は自分の性欲を満足させるため、自慰行為の更に上の段階に行こうという理由で魔界から悪魔を呼ぼうとしたのだが、それは何だか違うように思えた。

 私は・・・寂しい。

 だから、全く知らない悪魔を呼んで一緒に快楽を共有出来たらどんなに素晴らしいかと思って、悪魔召喚に踏み切ったのだ。魔理沙もレミィも、それに咲夜だって、私のこんなあさましい姿は見たくないに決まっている。仮に見られたとしたらきっと彼女たちは引いてしまうことだろう。
 それなら、その場限りとはいえ、私と快楽を共にしてくれるパートナーを呼び出すのも悪くはないと思ったのだ。縁も所縁もない悪魔なら、私の寂しさを紛らわす一時の友人になってくれると・・・そう思って。

 ・・・儀式自体は簡単だ。
 まさか私自身を生贄にするわけにはいかなかったので、私を生贄にしたという見立てでもって悪魔を呼ぶ。恭しく私は魔界の神々の名を口にし、最後にエノク語で呪文を唱え、召喚の儀式を終了させる。

 その途端に、燭台の火は全部掻き消え、室内は漆黒になる。私はまるで生きながらにして魔界に堕とされたかのような錯覚を覚えた。

 「私を呼んだのは貴方?」

 姿は見えないが、確かにそんな声がした。
 悪魔・・・悪魔だ・・・! 儀式の方はどうやら成功していたらしい。
 でも、声からして呼び出したのは女性型の悪魔だったらしいのは少し残念だった。儀式の方法が拙かったのだろうか・・・。

 「え、えぇ・・・そうよ。私が、・・・私が貴方を呼んだの」

 とりあえず返事をする。まあ女性の悪魔なのだとしても、やることはあまり変わらないだろうから問題はないだろう。

 「・・・望みは?」

 どうせ全く知らない相手だ。
 そう思って私は普段なら決して他人に口にしないようなことを言った。

 「わ、私と少しの間で構わないから、・・・その、交わって欲しいの」

 「交わる? それは私と性交したいという意味?」

 「そ、そう・・・。そのために、貴方を呼んだのよ・・・。いい・・・でしょう?」

 「いいも悪いも・・・それが貴方の望みなら私は構わない。・・・でも、どうして?」

 「・・・えっ?」

 と、返してそれはそうかと思った。悪魔にしてみればいきなり性交したいなんて言われてもどうしてなのかさっぱり分からないだろうし・・・。

 「それは・・・その、寂しいから・・・じゃ駄目かしら?」

 「寂しい?」

 「えぇ、とても、とても寂しいわ。今じゃこんなこと知らなかったらよかったって思うくらい寂しい。やればやるほど、自分は孤独なんだって思わされる・・・。それが嫌なの・・・」

 「だから私と? 一緒にしたいって思ったの?」

 ・・・誰でもよかったのかもしれない。でもそれは口にはしなかった。

 「そう・・・ね。どんなに気持ちがよくても、それが一人で終っちゃうのが寂しい。ただの自己満足は嫌。私は自分の行動に『意味』を持たせたいの。一人でするなら自己満足でも、二人でするならそれは何だか違う気がする。・・・だから」

 「貴方、面白いわね」

 「えっ? ・・・あ」

 悪魔は私の唇を塞いでいた。
 口腔に侵入してくる彼女の舌はとても心地のいいものだった。

 一人では味わえなかった快感にうっとりとしていると、悪魔は私の唇から顔を離して、次は私の胸を責めていた。
 乳首を指と舌でコリコリと愛撫され、私は思わず声を漏らしていた。これも一人では絶対に味わえない感覚だ。自分でするよりも数倍はイイ。

 「・・・んぁ・・・・・・ふ・・・ぅ・・・」

 「ふふ、どうかしら? こういうのがしたかったの?」

 そういう・・・わけじゃなかったけど、気持ちよすぎて何も考えられない。

 「・・・ゃ・・・そんなこ・・・・・・ひゃぅっ!」

 「あらあら、ここはもう凄いことになっているわね。私が慰めてあげるから、貴方は大人しくしていなさい・・・ね?」

 こくこくと頭だけ振る。
 それから、悪魔は凄いことになっているらしい私の秘部をこれでもかというくらい舌で愛撫し始めた。

 「はぅ・・・ん・・・あっ、あっ、・・・ん・・・んん・・・・・・」

 「ふふ、すごい息遣い・・・。それじゃあこっちの方で楽しみましょうか?」

 「・・・ふぇ?」

 ふふふ、と笑ったかと思うと、急に悪魔は愛撫を止めて、手に私の分泌した体液を塗りたくった。それから何をするのかと思いきや、お尻にずぶずぶと彼女の指が侵入してくるのを感じて私は仰け反った。

 「ひゃっ!? ちょっ、やメ・・・テ・・・って、・・・・・・んっ、んぁぁああああ!!!」

 私の体液で滑りのいい悪魔の指は激しく私のお尻の中で上下のピストン運動を繰り返していた。自分でするときは少し恐いのもあって、なぞるようにゆっくりと指なり張型なりを動かしていたのだが、彼女は他人のお尻ということもあってか私以上のスピードで指を動かしている。ほとんど犯されているような状態なのに、私はこのとき途方もなく感じていた。

 あまりの快感で体中がひくひくと戦慄いていたが、構わず悪魔は私のお尻を責め立てていた。一本しか入っていなかった指は何時の間にか二本になっており、直腸の中でその指を閉じたり開いたりされたときは瞬間的に来た強い刺激によってイってしまった。恐ろしいまでの快楽、これなら悪魔を崇拝する人間がいるのも頷ける。

 「それじゃあこれでフィニッシュね」

 悪魔は私がイったのを見て取ると、私のお尻の中に入れていた指をゆっくりと焦らすように引き抜いた。そのときの快感もまた強烈で、排便をするときの何倍もの快楽を受けて再度絶頂を迎える。
 そのときにおしっこだか潮だかを垂れ流したが、二度も連続で絶頂を迎えた後の余韻の前ではどうでもいいことだった。

 「・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・ふぅ・・・・・・すご・・・く、良かった・・・わ・・・・・・。今度は・・・私にも・・・させて、もらえるかしら・・・?」

 正直彼女を満足させてあげられるかは微妙だったが、このまま彼女を魔界に返してしまってはいつもの自慰行為と変わらない。それだけは願い下げだった。

 悪魔はくすりと笑う。

 「私を満足させるのは難しいわよ? ・・・パチェ」

 えっ? と言葉に出す前に私は体を起こしていた。名前なんてお互い名乗っていないし、悪魔だからという理由で私の愛称を知っているとは考え難い。いや、一人だけその愛称で私を呼ぶ悪魔を私は知っている・・・。

 体を起こした先には血の如く赤い瞳だけが目に映る。ああ、もしかしなくてもこの悪魔は・・・。私の友人であるレミィことレミリア・スカーレットではないのか。

 「レ、・・・レミィ!? どうして・・・? 儀式は成功したはずじゃ・・・」

 すると赤い瞳が左右に動く。どうやら頭を横に振っているらしい。

 「はぁ・・・。あのねぇ、パチェ、本ばかり読んでた貴方が知らないのも無理はないけど、魔界は以前霊夢たちに滅茶苦茶にされているから今は機能していないのよ。っていっても、一応魔界の神は健在らしいけどね・・・。でも、今は魔界は復興中だからいちいち魔女の呼び出しに構っちゃいられないってことよ」

 唖然。それなら成功したと思った儀式は・・・?

 「・・・まあそういうわけだから、偶々近くにいた悪魔の私が召喚されたってことでしょうね。吃驚したわよ? 外に出ようとしたらいきなりわけ分かんないとこに飛ばされて、しかも裸の貴方がいるんだから」

 かぁっと顔が上気する。
 そんなことも知らずに私は、悪魔召喚に成功したと思い込んで、あろうことかレミィに性交渉を迫っていたなんて・・・。ああああああ、もう!! 最悪・・・。

 「ああ、さっきのことなら気にしないで。私も別に満更じゃなかったし。普段とは違うパチェの一面が見られて良かったとさえ思っているのよ? そうでなきゃパチェにさっきみたいなことしないわよ」

 「ほん・・・とに?」

 「ええ。だって私は悪魔と言っても吸血鬼なんだし、血が吸えれば実際のとこ男だろうが女だろうが関係ないしね。それに、吸血鬼にはサキュバスの力が備わっているものだから、さっきみたいなことも多少は慣れっこよ」

 多少・・・にしてはえらくテクニシャンだった気がするけど、それは私がまだまだそういうことに全然精通していないからなのだろう。考えてみればレミィは単純に私の五倍は長く生きているわけだし、その間にああいう経験が何度かあったとしてもおかしくはない。でもまあ、一方的に呼び出されて・・・・・・というのは今回が初めてのことなんだろうと思う。

 「それにしても良かったわね」

 「えっ? 何がかしら?」

 さっきの行為のことだろうか・・・? と思って顔を赤らめたが、レミィは全然違うことを口にする。

 「あれよ、もしパチェが呼び出したのが私じゃなくてフランとかだったりしたら、たぶんとんでもないことになっていたわよ」

 それを聞いてサッと血の気が引いた。
 確かに、あんな状況で妹様なんかを呼び出して、私と交わってみたいなことを口走っていたら、状況がよく飲み込めなかったであろう妹様はきっと滅茶苦茶をやっていたに違いないのだ。まあ、運がよかったということで・・・。

 「ふふ、まあそうはならなかったのだから良しとしましょう。・・・パチェもこれで寂しくなくなったんだったらめでたしめでたしってことでいいじゃないの。」

 「・・・えっ?」

 「一時とはいえ、私も貴方も快楽を共にしたんだから、私たちのした行為は貴方の言うただの自己満足で終ってはいないでしょう? それに、貴方の全く知らない相手じゃなくて、他でもない友人のこの私が相手をしたんだし・・・ね?」

 友人・・・そう聞いて私はどこか救われた気がした。

 「でも・・・私はこんな・・・・・・ことを・・・。いくら友人だからって・・・」

 レミィは首を振った。

 「違うわパチェ。こういうことは友人だからこそ許されるんじゃないかしら? ・・・もし、パチェがきちんと悪魔の召喚に成功して、それからさっきみたいなことをしたとしても決して私はパチェの寂しさは消えることはなかったと思う」

 「そう・・・かしら」

 「そうよ。そういうのは恋人のいない男が娼館に行くのと同じ。確かに相手をしてもらっているときは寂しさは紛れるかもしれないけど、事が終ってしまえばそれっきり。そしたら・・・また寂しいでしょう?」

 「・・・・・・・・・」

 「だから、私としてよかったのよ。こんなことで私は貴方の事を友人じゃないなんて思わないし、むしろ今回の事でより仲は深まったと思うけどね」

 「レミィ・・・」

 レミィを見つめるように視線を送る。
 暗くて表情は分からなかったが、照れくさそうにしているのが何となく分かった。

 「でも、パチェに限ったことじゃないけど、人間でも結構いるみたいよ」

 「いるって・・・、何が?」

 「ん~、その、寂しさを紛らわすために性行為に走るっていうのかしら? 大抵そういうのは身内の愛情が不足しているかららしいんだけど、パチェも似たような感じだったのかなって思って」

 少し・・・違う気がするけど、大体は合っている気がした。元々、性的なことに興味を持ったのは全くの偶然で、もしかしたら知らないままずっと生きていたのかもしれないけど、私はあのときに知ってしまったのだ。
 そうして、知ってしまったこの行為を続けていくうちに、快楽に溺れていくうちに、段々としていることが一人で完結しているように思えてきて嫌になったのだ。とても孤独にそれを感じたのだ。
 このことを分かり合える相手が欲しい・・・。でも、既存の者たちとの関係を壊したくないという思いから、私は見知らぬ相手になら・・・という理由で悪魔を召喚しようと考えたのだった。
 しかしそれも、レミィの言う通りにただの寂しさの連鎖で終っていた・・・いや、ずっと続いていたのかもしれない。
 
 なら、これでよかったのか・・・。

 「まっ、身内って言い方はおかしいけど、少なくとも同居人である私が貴方の寂しさに気付かなかったっていうのはちょっと問題だったかもね」

 「・・・レミィ、そんなこと、そんなことないわ・・・。たとえどんなに恥ずかしくても、私と貴方は友人なのだからきちんと言えればよかったのよ。・・・でも」

 でも・・・、そんな話を切り出す勇気は私にはなかった。

 「いいのよ、結局貴方は言えたじゃないの。だったら、先だろうと後だろうとそれは大した差ではないわ。そうでしょう?」

 ああ、こんなにもレミィは私のことを考えてくれていたのか。
 ということは、私はレミィのことを友人と思いながらも心の中ではどこか他人のように見ていたのかもしれない。だからだろうか・・・。そんなことだから、私は変な孤独感のようなものを感じていたに違いない。こんなにも私のことを思ってくれる友人がいるというのに・・・何てバカ。

 「レミィは、これからも私のこと好きでいてくれる?」

 暗がりの赤い瞳はきょとんとしたようだったが、すぐに返事をする。

 「もちろんよ。それとも、パチェは私のことが嫌いになったのかしら?」

 冗談・・・。そんなこと、あるわけ・・・ない。
 めいっぱいの笑顔で私は答える。

 「いいえ、私がお婆ちゃんになってもきっと貴方のことはずっと好きよ」 

 「ふふふ、お婆ちゃんになっても・・・か。悪くないわね、それじゃあその証に今度はパチェが私を満足させて頂戴」

 誘うような赤い瞳が私を見据えた。
 恐らく、今後私とレミィが体を交わらせることはないだろう。
 そして、そんなことをする必要はもうない。

 
 だって、私はもう、寂しくはないから―――。






























 ◎9ヶ月ぶりくらいにネチョロダに投稿してみるテスト。コンセプトはパチュリーの心理描写だったのだけど、所詮は俺の妄想か・・・。話が分かりにくくて、読まれている最中にあ? あ? って感じのところがあったかもしれませんが、とりあえず最後まで読んでくださって有難う御座います( ´∀`)アリガトー

 
 書いた切っ掛け

 遥か昔に見た絵で、パチュリーは自慰が似合うといった感じのコメントがあったので、なるほど道理と思ってキーを叩いてみた。後何となくパチュリーは無駄なことは嫌いっていうイメージが個人的にあったりして、最初無駄を肯定しつつもやっぱり私は・・・という方向に話をもっていきたかったのがあるからかな。


 ◎SS書くスピードはしょぼしょぼですが、また機会があったら何かしらの話を書いてみたいと思います。機能しているか激しく疑問なへたれサイトですが、メールなりWeb拍手なりでご意見・ご感想などいただけたら幸いです。後ネタm(ry


 HP URL:http://www.geocities.jp/osaki_fox/index.html


                            書いた人:オサキ狐


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2301d)