レミリアの能力


 テラスに足を踏み入れると、オレンジ一色に染まった世界が視界一面を覆った。
 暗所に慣れた目を外に順応させると、白い椅子に腰掛けて優雅にティーカップを傾けている館の主であるレミリアが目に入る。
 咲夜は軽く腰を折り、お辞儀をするとレミリアに向かい報告した。

「霊夢をお連れいたしました」

レミリアは物憂げに視線をこちらに向け、咲夜の後ろに自分の求める人物の姿を見て取ると、表情をみるみるうちに明るいものへと変えた。

「来てくれたの?」

「まあ……、ね……、この前約束したしね」

「霊夢が来てくれるって言うから、昨日からずっと楽しみで、今日は何しようか、そればかり考えてたのよ」

椅子から飛び降りて霊夢の元へとレミリアは駆け寄り、手を取ってテーブルへと引いていく。

「座って、座って。すぐに咲夜にお茶を入れさせるから」

「わかったから、そんなに手をひっぱらないでよ」

「だって、せっかく霊夢が遊びに来てくれたのに、のんびりなんかしていられないもの」

困り顔の霊夢の様子を気にすることなく椅子に座らせると、自分の席に後ろ向き軽く跳ねて腰掛ける。

「咲夜。早く霊夢にお茶をお出ししなさい。それから私にもおかわりをお願い」

「かしこまりました」

咲夜はレミリアに命じられて、あわててお茶の用意に取り掛かった。
万事において疎漏のない咲夜にとって、命じられて始めて仕事に取り掛かるなど、常には無いことだった。

(お嬢様があのようなお顔をされるなんて……)

 頑是無い子供のような表情で、霊夢に甘え、戯れるレミリアは、咲夜が夢想だにしなかったもので、実際に目の前で起こっている光景なのに脳が事実を拒否して理解を拒んでいた。
500年という年月を生き、紅魔館の主として皆に恐れられているレミリアが、無邪気に遊んでいる。
そんなことを誰が信じるものか?
目の前で見ている自分自身信じられないのに……。

「お待たせいたしました」

レミリアの前のカップを下げると、新たにおかわりを入れたものをすばやく置く。
手が霞むほどの速度で動かしたにもかかわらず、カップの中は波一つ立たなかった。

「咲夜、どういうつもり?お客さまである霊夢に先にお出しするように言いつけたはずだけど」

「申し訳ございません」

 紅く輝く瞳に見据えられ、あわてて咲夜は謝罪する。
見詰められているだけで、無意識に体が震える。人間の原初の恐怖をそのまま呼び起こす視線。
無邪気な表情を見せてはいても、やはり人とは異なる種族だと、紅い目は咲夜に告げている。

「私が後でも別にいいわよ。それぐらい気にしないわよ」

「まあ、霊夢がそういうのならいいけど……」

 そう言うとレミリアは咲夜から目線を外した。
咲夜の体をその場に縫い付けていた視線が逸らされると、痛いほどに冷たく感じていた外気が熱気を取り戻した。
咲夜は服が背中に張り付く感覚に、自分がどれほど汗を掻いていたのかを知った。




「こんな日の当たる場所でのん気にお茶なんて飲んでて、あんた大丈夫なの?」

 意外そうな顔で尋ねる霊夢に、レミリアはうれしそうに答える。

「別に大丈夫よ。夕日を浴びるぐらいなら、目ざましがわりにちょうどいいくらいよ」

 夕日を浴びながらのお茶会。
咲夜はレミリアの後ろに控え、その様子を眺める。

「それに、前に霊夢の家に行った時もお昼間だったでしょ。日傘差してだけど」

「そうだった?」

「もう、忘れたの?」

「忘れた」

友達同士がするような他愛のない会話が続く。
一人は吸血鬼。一人は人間。
全く接点を持たないはずの二人がこうして向かい合って談笑している。
本来なら人間など食料に過ぎないはずのレミリアが、興味をもって対等に付き合っている、博麗神社の巫女。
夏の事件で自分を倒し、主であるレミリアも倒してのけた人間。
レミリアが惹きつけられたのと同様に、咲夜にとっても何故だか妙に気になる存在になっていた。

霊夢がカップを持ち上げ、紅茶を飲む。
紅茶を口に含んだ時に目を軽く閉じるくせ、喉の嚥下する動き、揺れる前髪、汗に濡れた襟元。
 咲夜の視線は霊夢に引き寄せられ、そんな一つ一つの部分にすら見入ってしまっていた。

「ねえ、咲夜」

「はいっ」

 じっと見詰めていたのがばれたのかと、霊夢に話かけられると咲夜は身を固めた。

「何かご用でしょうか?」

震えそうになる声を押し隠し、なるべく平静を装う。

「このお屋敷はお茶菓子用意してくれないの? 久しぶりに日本茶以外のお茶を飲むのもいいけど、お茶請けがないとね」

 自分の行動がばれていなかった。ほっとしながら笑顔で返事をする。

「ちょうどよい頃合です。そろそろケーキが焼きあがるはずですから……」

「今日のケーキはどんなのなの?」

 ケーキと聞いてレミリアが横から口を挟む。

「霊夢でも食べれられる”普通の”紅茶のケーキにしてみました」

「普通の?」

「はい。紅魔館特製ではないほうの紅茶です」

「そうね。霊夢と一緒に食べるのなら、そのほうがいいかも」

「はい。そのように思いましたので、普通のほうを用意いたしました」

「普通のでもなんでもいいから、早くお茶請けが欲しい」

 咲夜が目の端で霊夢を伺ってみると、どういう意味の会話だかわかっていないようだった。

 丁度会話の途切れ目を待ってたかのように、ガラガラと何かを転がす音がこちらに向かってくるのが聞こえた。

「失礼いたします。ケーキが焼き上がりましたのでお持ちいたしました」

 扉が開き厨房担当のメイドがカートを押してテラスに入ってきた。

「やっとお茶菓子が来た」

 霊夢が待ちきれない様子で上半身を伸ばしてこちらの手元を覗き込んでくる。
 後は自分がやっておくと軽く手でメイド達に合図すると、ケーキにかぶせられたふたを取る。

 ふんわりした生地の中央に穴が開いた、紅茶のシフォン。
 香ばしい生地の焼けた甘い匂いと紅茶の上品な香りが混じりあい空中を漂って、テーブルに腰掛けたままの霊夢とレミリアの元にまで届いた。

「咲夜。はやくはやくっ」

 レミリアが甘い香りに待ちきれなくなったのか咲夜をせかす。

「すぐにお出しいたします」

 均等に16分に切り分け、そのうちの一つをレミリアの前に差し出した。

「お客さまにお出しする前に味見をお願いいたします」

 咲夜が言い終える前には、もうレミリアはケーキを口に入れてしまっていた。
大好物のケーキが目の前に出されると、お客さまの方が先、ということはどうでもよくなったらしい。
 レミリアに先に出すために言い訳までした咲夜は思わず苦笑いする。
霊夢も先ほど咲夜を叱りつけたのを見ているので、その様子に呆れぎみだった。
レミリアは二人のことなど気にも留めずに、もぐもぐと口を動かしながら霊夢に早速感想を述べ始める。

 「霊夢。このケーキはなかなかいけるわよ。紅茶と紅茶のケーキってどっちも紅茶で合わないように思えるでしょ? でもね……」

 一塊、フォークで切り取ると口に入れる。

 「ごくんっ。おいしい……。紅茶だけのシンプルな味付けのおかげで香りが引き立ってるのよね」

どうやら食べている間に、先ほどの解説の続きはどこかに行ってしまったみたいだった。

「あははっ。『でもね』の続きはどこにいったのレミリア?」

 霊夢はケーキに夢中のレミリアがおかしいのか笑い出す。

「どうぞお待たせしました」

咲夜はそっと霊夢の前のテーブルにケーキの入れた皿を置いた。

「やっとお茶菓子が来た」

黒髪が波打ち、霊夢がこちらに振り返る。
振り向いた瞬間、結んだ髪の先が眼前の空間を撫でてゆき、咲夜の鼻に甘い霊夢の匂いを届けた。

(これは……。霊夢の匂いかしら……?)

 思わず、そんなことを考えてしまう。

「ありがとう、咲夜。おいしそうなケーキだわ」

笑顔のまま霊夢が礼を言ってくる。
 屈託のない笑顔。だが咲夜はこの笑顔の持ち主の体臭を嗅いでしまったことで、笑い顔を向けられているだけなのに胸がどきどきし始めた。

(ああ……。霊夢……)

「咲夜?」

霊夢の表情が怪訝なものに変わる。
 あわてて表情を取り繕うと咲夜は返事する。

「なんでもありません。霊夢にそう言っていただけると作ったかいがあります」
「それじゃいただきます」

 霊夢はフォークを手に取るとケーキに突き刺した。




レミリアからの要求に応えてあれこれ世話を焼く間も、咲夜の視線は自然に霊夢に向いてしまう。

「咲夜、ケーキもう一つちょうだい」

「お嬢様、大丈夫ですか? もう三つ目になりますよ。普段はもっと小食なのに……」

「大丈夫よ。これぐらい。今日は霊夢が遊びに来てくれているから、いつもよりもケーキがおいしく思えるわ」

「それならよろしいのですが……」

レミリアにケーキのおかわりを出しながら、ちらりと横目で霊夢を見る。
熱いお茶を飲んで汗を掻いたのか、額を手で拭っていた。

(霊夢すごく汗掻いてるわ。もし今近づいたらさっきよりずっと……)

 咲夜の胸がまたどきどきとし始める。

「ふうー。またお茶、空になっちゃった。おかわり、いい?」

「はい」

 カップを受け取ると、震えそうになる手を必死で押さえながら、おかわりをカート上で入れる。

 ゆっくりと霊夢に近づいて行って横に立つと、髪に唇が触れるぐらいに身を寄せた。
霊夢の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

(これが霊夢の匂い……)

 汗に濡れた髪の匂い。一日中外にいたのか、太陽の匂いがした。
ほんの一呼吸の間だけですぐに離れて、テーブルの上にカップを置く。
 中身のお茶は少しだけ波紋が立ってしまっていた。

「ふうー。いくらお茶を飲んでも喉が渇くわ。ここのお屋敷は暑すぎるんじゃないの?」

 早速出されたおかわりを飲みながら、レミリアに霊夢が文句を言う。

「そうかしら? 私は別に暑いとは思わないけど」

 レミリアが涼しげな表情のまま、皿に残ったケーキを口に入れる。

「あんたは単に暑さを感じないだけでしょ?ぜんぜん汗かいてないし」

 額を流れ落ちてくる汗を霊夢が拭うと、手で押さえたためか前髪が濡れて額に張り付いた。

「そういえば汗って掻いた記憶がないわね」

「ほんとなの?」

「それに咲夜も人間だけど汗を掻かないから、そういうものがあるって、霊夢を見て久しぶりに思い出したわ」

「ほんとなの?」

 霊夢が咲夜に首だけ向き直り、尋ねた。
胸の激しい動悸を抑えようと手を胸元にあてて深呼吸していたところに、霊夢にいきなり話かけられたため咲夜は思わずびくりと飛び跳ねる。

「ええ。私は汗をあまり掻かない体質のようですから」

 なんでもないような顔をしながら答えると、一呼吸置き、今度はこちらから質問した。

「れ、霊夢は、汗をよく掻くほう……な…なんですか……?」

 平静を装ってはみたものの、声が少し震えてしまった。

「ん。汗掻くほうかな? 今も結構べちょべちょの汗まみれだしね」

「ごくりっ」

 先ほど嗅いだ匂いのことを思い出し、生唾を飲み込む。

「ほんと、早く夏が終わって欲しいわ」

「幻想郷全体を霧で覆えば涼しくなるわよ。霊夢がいいなら、すぐにでもするけど?」

「それは却下」

「私は霊夢がここに遊びに来てくれるなら、わざわざそんなことしなくてもいいけどね。」

 咲夜の耳にはもう二人の会話は届いてはおらず、突っ立ったまま、何度も何度も霊夢の「べちょべちょ汗まみれ」という言葉だけを頭の中で反芻していた。

(髪の匂いだけであんなに頭がくらくらするぐらいに魅惑的だったのに、汗まみれた体はさっき以上の匂いがしてる……の……かしら?)~


 咲夜は霊夢の匂いを想像するだけで体が熱くなり、下腹部になんとも言えない熱気が溜り出すのを感じた。

(霊夢、霊夢……。全身からあんな素敵な匂いを出しているのね)

 巫女の袴風のスカートから伸びる細いふくらはぎを始点に、視線をだんだんと上へと動かし、全身を舐めるように見てゆく。

ほつれた後ろ髪が張り付いた、汗に濡れた首筋にまでたどりつくと、ついに欲望を押さえ切れなくなり――――――――時間を止めた。

(霊夢、ごめんなさい)

 心の中であやまると、霊夢の結ばれた髪を手で取り除け首筋を露出させる。
 日の光りを浴びていないそこは想像以上に白く、汗に濡れている様は少女のものと思えぬほどになまめかしい。
霊夢の肌を見ているだけで、口の中に唾が溢れそうなぐらいに溜まっていき、胸の動悸も抑えられぬほどに高まる。

「いまから、ここの匂いを嗅ぐのね……」

 一言呟くと鼻先を近づけ、立ち昇る芳香を胸いっぱいに吸い込む。

「くっ、くはっ」

 あまりの濃厚な香りに、噎せて鼻を放してしまう。

「はぁはぁ、も、もう一度」

 今度は鼻先を首にくっつける。濡れた肌は、しっとりとしていて、予想に反して冷たかった。

「すー、はー、すぅー、はー、はぁー」

 濡れた皮膚を感じながら、ゆっくりと深呼吸するように、あせらずに香りを少しずつ吸い込む。

「甘い……、はぁ、あ……、霊夢の匂い、すごく甘くって……あぁ」

 霊夢の匂いは、乳臭い子供の匂いと思春期に向かう少女の少しだけ女を感じさせるものが混じりあった、不思議な香りだった。
汗の匂いは咲夜にどこか高級な焼き菓子を思い出させる。

「霊夢……、あぁ、霊夢……、汗でべとべとだけどぜんぜん臭くないわよ……、ううん、すごくいい匂いよ」

 しがみつくように霊夢に抱きついたまま、咲夜は匂いを嗅ぐ。
鼻先で首の皮膚を擦りながら存分に汗の匂いに耽溺する。顔をうなじに沿って往復させていると、汗でぬちゃりぬちゃりぬめって、鼻と肌とが水音を当てる。

「本当に素敵な匂い。ずっとこのまま嗅いでいたいわ」

 首筋を後ろから周り込み、喉元を探るように上に向かいあごに着くと、折り返してまた降りていく。

襟ぐりは顔から流れる汗を吸い込んで黒っぽく染まり変色している。そこも鼻でキスするようにくっつけたまま離れずに、匂いを味わう。
一日中動き廻った肉体を包んでいたそれは、汗だけでなく体臭もしっかり吸い込んで、肌から匂いを嗅ぐのと変わらぬ興奮を咲夜に与えた。

「はぁはぁ、霊夢……、あなた……、服にまで匂い染み込ませているのね……、はぁ、くっ、ふぅぅ、んっ、あぁ……」

 咲夜は時間を止めて体臭を嗅ぐという変態行為の上に、服に染み付いた匂いまでも貪欲に吸い取ろうとする。

「あぁ、こんな……、服の匂いまで……私……。でも……やめられない。いけないのに……やめられない……」

思いと裏腹に鼻を擦りつける動きを止めることが出来ずに、首元から肩口へと進めていく。

「はぁぁぁっ、くっ、くぅぅぅっ」

 服の袖の部分が切り離され、むき出しになった肩に唇を触れ、匂いを嗅いだとたん咲夜は呻き声を上げて身を反らせた。

(なに? 何なの? いままでの匂いとぜんぜん違う)

 原因となった場所を見据える。
肩が直接外気に晒されているだけで特に変わった様子はない。
もう一度肩に鼻を近づけてみると、先ほどの匂いがはっきり感じられる。

(この匂い……。なんだか凄いわ)

 くんくんと顔を突き出しながら肩を眺めていると、あることに気付いた。
袖が胴体部からまるまる切り離されているということは、腕の上部だけである肩だけでなく、下のほうも同様に露出しいるということ。

それに思い至ると、体が押さえきれぬほどに震え出し、下腹部に溜まっていた熱気が股間に降りてゆくのを感じた。

「ああ、まさか……、この匂いは……、匂いは……」




「霊夢、ここに引っ越してこない? 家の外に出なけれは涼しくて快適よ」

「家の外に出ないって、あんたみたいな夜にしか活動しないのと一緒にしないでよ」

「じゃあ、夏だけでもいいわ。別荘として使ったらいいわ。家には居候がもういるから、霊夢一人増えても大丈夫よ」

 何事もなかったかの用にレミリアと霊夢の会話は続いている。

「霊夢だったらお客さまとして大事にするから、一日中お茶を飲んでぼーっとしててもいいのよ」

「あんたは私がどういう人間だって思ってるのよ」

 咲夜は二人が会話しているのも耳に入らずに、震えそうになる自らの体を抱きしめ、必死になって押しとどめていた。
あの後、集中力が切れて時間を止めたままでいることが出来なくなり、あわてて何とか時が動き出す前に、レミリアの後ろのいつもの立ち位置に戻っていた。
しかし、咲夜の意識だけは霊夢の体に縫い付けられたまま離れられずにいた。

(はぁ……、あの……匂い……、早く……嗅ぎたい……)

 こうして視線を霊夢に向けて、先ほどのことを思い出しているだけで、下腹部がうずくのがわかる。
股間からも愛液が流れ出して、ショーツがぴたりと性器に張り付いているのが感じられる。
今すぐにでも時を止めて、霊夢の体臭を味わいたい。
 でも先ほど長く時間をいた為にすぐには時を止められない。苛立ちとうずきを抱えながらじりじりと再び力が満ちるのを待つ。

「霊夢は境内の掃除して、お茶を飲むのだけが日課だって聞いたもの」

「そんなこと言うのは誰よ」

「霊夢なら想像つくでしょ」

「どうせ魔理沙でしょ」

「当たり、霊夢にはお茶さえ出しておけばいいって言ってたわ」

 身を乗り出し話すレミリアと対照的に、霊夢のほうは腕を突いて黒めがちの目を眠そうに瞬きを繰り返している。

「確かに私はお茶好きだけど……。お茶さえ出しとけばいいってものじゃないわ」

「お茶請けも欲しいというわけね」

「いや、そういうのじゃなくて」

 「ふうー」とため息をついて霊夢が前髪をかき上げると、二の腕と胸に巻かれた白いサラシが咲夜の目に入った。
 ほんの一瞬、持ち上げられた腕の隙間から見えただけ。
 それでも咲夜の欲望を押さえ切れなくするのに十分な刺激だった。

「霊夢っ」

 時を止め霊夢の元へ駆け寄る。

椅子に腰掛けた横にしゃがみこむと、鼻面を持ち上げられた腕の隙間に押し込む。
とたんに”ツン”と鼻を刺す匂いを感じる。
空気に触れずにずっと濡れていたそこは、腕が持ち上げられたことで風が流れ込んで汗が乾き始めていた。

「ああっ、腋の匂い……。あんっ、さっきからずっと匂いたかった」

 腋が空気に触れ、どんどんと汗の匂いの成分が揮発していく。

「すごいっ、またっ、ああ……、また匂いが濃くなった……」

 酸味の効いた匂いが鼻腔を通過するごとに咲夜の体はますます熱を帯び、性器も熱くなって、今にもその部分からとろけていってしまいそうになっていた。
すぐにでも指を突っ込み、ぬめってどろどろのそこを掻き回したい。

「霊夢っ。ああっ。ほんとはすぐにでも匂いを嗅ぎながらオナニーしたいの。でも、だめ。もっとあなたの体の匂いをすみからすみまで味わって……、それから……」

 濃厚な甘い体臭と汗の沁みるような臭い。
全く異なる匂いが造る刺激に咲夜はのめりこんでいく。

「霊夢の腋の匂い……、臭い。汗臭い。でも、臭いのにいい匂いなの……。はぁー」

 無我夢中で咲夜が匂いながら霊夢の腕を上へ上へを押し上げていくと、腕が完全に上がりきる頃には、丁度濡れた腋の窪みが咲夜の顔に向かって突き出される形になった。

「ごくりっ」

 汗が溜まって光る窪みを目の前で見ると、口の中に唾が溢れてくる。
欲望に押されるがまま、舌を伸ばし濡れ光る肌に触れる。

「ふっ、うぅぅぅぅぅん」

 びりっと舌先が麻痺する。
 舌を押し当てたまま固まっていると、だんだんと痺れが薄れていくに従い、味覚が戻ってくる。
塩辛い汗の味。
 でもただしょっぱいだけじゃない。口から鼻腔に伝わっていく甘みと酸味の利いた刺激臭が味覚にも影響を与え、ただの塩辛味だけでない独特の味わいへと変化させる。
かなり癖のある味だが咲夜には霊夢らしい味だと感じた。

「霊夢……、いつも腋を出した服を着て……、誰かにこうして欲しかったのよね? 他のみんなは気付かなかったんだろうけど、私は気付いてしまったわ……、だからこうして霊夢の全てを味わってあげる」

 汗が溜まっていた窪みに日が当たり、光る。
咲夜の舌が汗の上を滑り、拭い取った汗を唾液に置き換えていく。
びちゃびちゃを音を立てながら汗の膜を舐め回して、毛穴一つ一つを味わい、代わりに粘りつく唾で埋めた。

「霊夢の素敵な匂いは私が貰うわ。おかえしに私の匂いを付けてあげるわ」

 幾度も舌が上下し、回り、あるいはこねくりほじくり返すようにしながら、狭い腕の付け根を這い回り、踊る。
腋はすっかり咲夜の唾液に覆われててらてら輝き、窪みに溜め切れなかった水気が体の線に沿って流れ、胸を締め付ける純白のサラシにまで染みを作るほどになっていた。

「ああ……、もう霊夢の匂いが消えてしまったわ……、私の唾でどろどろに汚れて」

 荒ぶる呼吸を抑えようともせずに、なおも露出した肌を舐めたくる。
自分の口の周りも霊夢の腋も、透明な唾液が濁り白くなるまで嘗め回しても
咲夜の欲望は満たされない。
いや、それどころか匂いを嗅げば嗅ぐほど、味わえば味わうほどたがが外れていく。

 「こんなのじゃ物足らないの、もっともっと霊夢を感じたい。だから一番大切な場所を」




 舌を霊夢に押し付けたまま、下へ下へと移動していく。
 埃っぽい臭いに、ざらざらする服の生地。
赤い服に黒い濡れ染みの線を作りながら、スカートの最下部まで来ると、裾を持ち上げ中に潜り込む。

むっと蒸れた匂いが咲夜を包んだ。
汗を掻いているにもかかわらず、風を通さない厚い布地囲まれた内部は熱がこもり、湿度が高く、饐えたような匂いで溢れかえっている。
噎せかえる空気の中、霊夢の太腿から上を包むドロワーズはじっとりと重く湿っていた。

咲夜は内股を覆う柔らかな木綿を頬に感じながら、足を大きく開かせていく。
 
「んっ、んんっ、ふぅ、ん、ちゅっ、んっ、あっ、あんっ」

太腿にもたれかかるように頬擦りしながら、時折ドロワーズにキスをする。
手は布地の感触を味わいながら指先で探るように太腿をまさぐり、もう片方の手は自らの内腿を撫で擦り徐徐に秘処に進めていく。
湿る布地は決して気持ちのいいものではない。霊夢の太腿に張り付き、思う様に撫で回すことも出来ない。だが湿った下着は肌に密着し、人の身体の持つ熱気と湿り具合を余すことなく伝えてくれている。

「んあっ、ああん、んっ、んんっ、ん」

 霊夢の足が開ききる頃には、咲夜の指は己の秘処を擦り始めていた。

「霊夢のここ、見せてもらうわね……」

 被っていたスカートを跳ね上げ、日の元に晒されたそこに鼻先が触れるぐらいに近づいてまじまじと見詰める。
 汗をすった肌着が股間に吸い付いて、プックリとした肉付きのよい秘処の周りの盛り上がりがくっきり浮かび上がっている。
 咲夜は顔を埋め込み、鼻を鳴らしながら、今だ誰からも触れられたことがないであろう少女の未発達な性器の香り味わう。
 
「くんくんっ、あっ、うっ、うぅぅ、霊夢の、あそこ、の、匂い」

 肉の土手を指で挟みこみ、くにくにと柔らかさを楽しむ。
 霊夢の肉厚な恥丘が咲夜の指の狭間で形を幾様にも変化していく。
 その間にも鼻は性器の匂いを嗅ぐことを忘れない。

「もっともっともっと、霊夢を感じさせて……」

 割れ目に沿うように顔を動かしていると、鼻がまるで吸い込まれるかの様に秘裂に飲み込まれる。

「この匂い……、ちょっとツンとした、おしっこのにおい……、霊夢は処女なのね……」

 うっとりと呟く。
 霊夢の膣からはアンモニア臭が漂ってくる。
 未通の処女の証。

「ここも腋と同じ様に私の匂いで埋めてあげる。私の唾液で汚してあげる」
 
処女の秘部を汚す。

 舌先にたっぷりと唾を乗せ、割れ目に塗った。
 
「べちょ、べちょ、ん、ねちゅっ、ちゅっ、ああっ、べちょっ、ぺちょっ」

 目的は味わうのではなく、汚すこと。
 自らの匂いを塗りつけること。
 だから一気に舐め廻すようなまねはしない。
 一舐めごとに動きを止めて、口の中に唾液をため、たっぷりと唾をしたためた舌で塗りつけていく。

「あんっ、くんっ、いいっ、あっ、あぅぅぅぅ、くんっ、あっ、あぁん」

 指で自分自身の陰部を弄る動きと霊夢のものを舐める動きを合わせると、二人一緒に快楽を貪っている気がする。
 人差し指と中指を揃えて、指の腹を使い、舐めるようにねっとりと撫で上げる。
 愛液で濡れたショーツが指に引きずられて動くたびに、繊細な絹目が舌先を咲夜に思い起こさせた。

「ねちゅっ、ちゅっちゅっ、ん、ちゅっ」

 舌が往復するたびにドロワーズは透けていき、霊夢の性器が白い布地の下から浮かび上がってきた。

「霊夢の……、んちゅ、ぺちょ、んっ、あんっ、見えてきてるわ……」

 襞の隙間に舌を押し込み、舐める。右側が終われば左の襞を。一つ一つの部分をしっかりと舐め、布の上からでもはっきりと見通せるぐらいまで舌で蹂躙し、唾液を塗りこむと、次へと移る。
 割れ目も恥丘も、肉芽も、あまさず唾液まみれにしてしまう。

「ああ……、かわいい……、ピンクで、毛ひとつ生えて無くて、まるで赤ちゃんみたいで……」

 濡れたドローワーズ越しに見る処女の性器は、直接に見るよりも何倍も淫猥でいやらしかった。
 
「それに……、こうして濡れた下着が性器に張り付いてると、オナニーしてべチョべチョになったみたい……、赤ちゃんみたになアソコなのに」

 一本筋で襞も未発達の性器が濡れているのは、本来ありえない光景。咲夜はそれを唾液で汚して作り上げたのだと思うと、ついに抑えられなくなり二本の指を自分の内奥に押し込んだ。

「あっあっあっ、これっ、これぇ、ずっと欲しかったの、あん」

 押し込んだ指を抽送させながら奥へ奥へと向かわす。
 指はショーツを巻き込んだまま、肉穴の内部を擦り立てている。
 咲夜の膣はさらさらとした絹の感覚まで捉えるぐらいに敏感になっており、往復させているだけでも今にも達してしまいそうだった。

「あんっ、指を突き込んで掻きまわしたかった。くっ、くぅぅっ、んっ、あんっ、霊夢……、ねえ、あなたの匂い嗅いだときから、あんっ、あなたの匂い嗅ぎながらこうしてオナニーしたかったの」

 咲夜は中で指先を曲げ、膣内でもっとも感じる場所を引っかくようにした。

「あんんっ、くはっ、くんんっ、ここっ、ここがすごく感じるぅ、はんっ、あうっ」

 一掻きするごとにショーツでは吸いきれなくなった液体が、外へと掻き出され地面に向かい落下する。
 手が動くごとにジュプッジュプッと湿った音が静止した世界に響き、股間から愛液がシャワー状になって降り注ぐ。
 咲夜の足元から周りにかけて水滴が飛び散り、濡れた床と身体からは牝の匂いが立ち昇る。

「あううっ、ぅううぅうぅ、あっ、もうっ、あぅ、もうっ、いくっ、あうぅぅ、いくっ、あんっ、あっ、イクッ―――――――――――」

 霊夢のスカートを歯でかみ締め声を抑えながら、ぶるぶると上半身を痙攣させた。

「くっ…………、っ…………、ん……、ん…………、あんっ、ん………………」

 ビクッと咲夜の意思に反して身体が跳ねるのが収まるまでしばらくの間、霊夢の太腿に突っ伏してやり過ごす。

「はぁ――――、はぁ――――――、はぁ――――、はぁ―――、はぁ――――――――」

 軽く震える程度にまで痙攣が落ち着いてくると、咲夜の視線はまたも肉の色が透けて見えている霊夢の股間に向かう。

「今度は霊夢も一緒に……、気持ちよく……」

 時の動かぬ世界で身体が反応するわけは無いけれど、霊夢にも自分と同じ様に感じて欲しくて思わずそう呟いた。

 舌を伸ばして目の前の割れ目に突き立てる。
 同時に指を再び自らに埋没させた。

「くふぅぅん、うっ、うぅぅん、くぅぅん、くっ、くぅぅぅん」

 膣の前壁のこりこりとした部分の指先で探り当てると、二本の指先を交互に動かす。

「くぅぅっ、んっ、つぷっ、くっ、くぅぅっっ、くぅぅっ、つぷっ、はぅっ、ちゅっ、じゅぷぷぷっ」

 舌を使って霊夢の中に下着を押し込んでいく。
 奥へ奥へとドロワーズの布地が巻き込まれるように飲み込まされる。
 舌の出し入れを繰り返すうちにかなりの量が中に入り込み、股間部の周りの布はたるみが消えて、ピンッと張り詰めた状態になる。

「はぁ、くぅぅぅん、じゅっぷっ、くぅん、くんっ、ちゅぷっ、くぅん、んっ、ちゅっちゅぷっ、くぅん」

 あえぐ声と唾にまみれた舌を霊夢の中に突きこむ音が混じって響く。
 甘く鼻を鳴らしながら、なおも霊夢の陰部に舌の抽送を咲夜は続ける。
 咲夜は愛液を撒き散らし、下着からスカートまでをべとべとにしながら、指のリズムを霊夢の中を掻きまわす舌に合わせて動かす。

「はぁ、霊夢、くぅぅ、もうっ、またっ、くぅぅん、いきそうっ、いくっ、あんっ、くぅぅん、いっしょに、あぅ、くぅぅぅぅん、あぅっ、イク――――――――――――――」

 痙攣と同時に愛液とも小水とも区別の付かぬ液体が咲夜の股間から溢れ出た。
 
「くっぁぁっぁぁっ、くぅぅぅぅぅぅぅっ、くはぁぁぁぁっ、くうぅぅぅぅっ」

 快感の頂点で震え、今にも意識が飛びそうになりながら、咲夜は手を、舌を、止めずに動かす。
 舌を伝って口の中に溜り溢れた唾が、霊夢の中に流れ込む。
 唇の端からも大量の唾がこぼれ、糸を引いて垂れ落ちた。

「はうっ、くぅぅぅぅぅぅん、くぅぅぅ、くぅぅぅぅぅぅ、うぅぅぅぅぅ」

 霊夢の匂いと自分の愛液と唾液の匂いが辺り一面に漂い、咲夜の身体に纏わり付く。
 咲夜は絶頂の中で二人の交じり合う匂いを感じた。
 あまりの快感に咲夜の視界が白く染まり、頭の芯が沸き立ち、何も考えられなくなる。

「はうっ、くぅぅぅ、れいむっ、あっ、くっ、くぅぅぅぅぅん、くぅん、あうぅ、イクッ、イクッ――、イクッ――、イク――――――――――――――――――――」

 一声大きく叫ぶと咲夜は霊夢の足に身を預けて目を閉じた。




「霊夢の好きなだけお茶菓子食べさせてあげるから、明日の朝まではうちにいて。ね、いいでしょう?」

 レミリアのおねだりに霊夢が眠そうなまま返事をする。

「今日はお茶会に来るだけって約束でしょ。泊まるのはまた今度にしてよ。今日はまじめに境内の掃除したから眠たいの。あんたは夜行性だからどうせ寝かせてもらえないんでしょう?……………あっ」

 霊夢の目が見開かれる。

「なんで? あっ……、やだっ、あっ……、やだっ、とまら……ないっ」

 大きく開かれた股の間からは黄色い液体がとめどなく流れ出していた。

「あっ、やっ、おねがいっ、やっ、とまってとまって、やぁ、おしっことまらない」

 こわばった顔のまま叫ぶが、身体は霊夢の意思とは裏腹に小水を排出を続ける。
 
「いやぁ、おもらし、してるっ、わたしっ、お漏らししてるっ」

 必死の叫び声に咲夜は意識を取り戻し、横に視線を向けるとドロワーズの中央部からおしっこが溢れ出てくるのが目に入った。
 あわててもたれていた霊夢の足から身を起し、その様子を凝視した。

「あっ、なんで……、そんな……、あっ、やだっ、ぐすっ、やっ、やだっ、ぐすっ」

 霊夢の泣きそうな声が頭上から聞こえてくる。朦朧とした思考で、自分が時を止めて舐めていた刺激でお漏らししてしまったのだろうと想像する。

「うっ、ううううう、うっ、うっ、うっ」

(霊夢、ごめんなさい……、私がアソコ弄ったから)

 いい年をしておしっこを漏らしてしまったのがくやしいのか、顔を歪め霊夢は涙を零す。
 足元に咲夜がしゃがみこんでいることすら目の入らない様だった。
 下から泣く霊夢を見上げながら咲夜の頭を占めていることは”泣いている霊夢もかわいらしい”ということだけだった。

(でも、でも、おしっこ漏らして泣いている霊夢を見ていると……、また)

 咲夜はまた陰部から愛液が流れ出し、痛いほどに下半身が疼き出すのを感じた。

 泣く霊夢とは反対に、レミリアは涙を流して嗚咽をこらえる霊夢の様子が気に入ったのか、笑顔でその様子を眺めている。

「あら? 霊夢、おもらししちゃったの? おトイレにも行かずにお茶をおかわりばっかりしてるからよ」

 うきうきとした声を抑えようともせずにレミリアは跳ねるように歩き、霊夢を後ろから抱え込む。

「泣かなくてもいいわ。私とお風呂一緒に入って綺麗にしたらいいわ。え~と、着がえは……、そうね、霊夢と同じ年頃のメイドがいたはずだから……、霊夢ならメイド服もきっと似合うわ」

「…………………ぐすっ」

「霊夢お風呂に入ろっ。メイドの服着たからって、うちで働けって言わないから安心して。くすくすっ」

 霊夢の肩を抱いて椅子から立ち上がらせながら、上機嫌なレミリアのおしゃべりはとまらない。
 とぼとぼ顔を落として歩く霊夢を引きずって行く。

 テラスの敷居を跨いだところでレミリアは立ち止まると振り返り、
「よくやったわ、咲夜」
とだけ言うと前を向き再び歩きだした。

後に残された咲夜は、指を霊夢の作った湯気の立つ生暖かい池に浸したまま、呆然としていた。

「まさか……お嬢様……?」














―了―









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咲夜がオナニーするそういう話です。

ただ、他の幻想郷の住人と違うのは時を止める能力があること。
そうこの能力を使えばエッチないたずらがし放題です。

本当ならネチョいことをもっといろいろ出来そうなもんですが、
完全で瀟洒なメイドの誇りにかけてオナニーのおかずにする以上のことはしません。

まあ、霊夢の腋の魅力に負けて、匂ったり舐めたりしてるようにも思いますが、
アレぐらいは咲夜にとってはオナニーの一部です。



書いた人  奈利


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2301d)