~咎桜(トガザクラ)~


「身のうさを 思ひしらでや やみなまし…」
「あ、まだ起きてたの?」


夜の博麗神社、その境内。この日この場所では、ほんの数刻前までは花見と称した大宴会が行われていた。
しかし現在ではこの二人―――一人と一体?―――を除き、全員が酔いつぶれている。
酒豪の紫までが酔いつぶれているあたり、どれほどの騒ぎであったかは推して知るべし。

「あらあら。まだ飲む気なの、霊夢? あいにくだけど、肴はもう切らしちゃったわよ」
「ん?いいっていいって。昔の人はこう言った。『春は夜桜、夏は月―――、』」
「『秋は紅葉、冬は雪。それで酒は十分美味い』、でしょ?」

霊夢は満足そうに頷くと、手に持っていた猪口を傾けた。散った桜の花弁とともに熱い酒が喉を通り、思わず目が細められる。
そして大きく息をつくと―――、

「そう、魂魄妖忌。…覚えてる?」
「酷いわねぇ、忘れるわけがないでしょう?生きている時からの馴染みだもの。」

生きている時からの、と幽々子は言った。それは、つまり―――、

「幽々子、あんた―――、記憶が戻ってるわね?」

低く、はっきりと言い切り、真顔で幽々子へと向き直る。
その顔に酒気はなく、視線は容赦なく幽々子の後姿を射抜く。それは本人も知らないであろう、博麗巫女の貌(かお)だった。

「…戻った、という言い方が正しいのかどうかはわからないけど。」

ややあって、幽々子が振り返る。その表情は、普段の『頭が春』と揶揄された微笑みではなく。
困ったような、哀しいような…過ちが思わぬ災厄を招き、泣きそうな子供のそれにも似た…複雑な表情。
―――もしかしたら妖夢でさえ、このような幽々子は見たことが無いかもしれない。霊夢はふと、そんなことを考えた。

「確かに、あの時…私が生きていたときのことは解ったわ。

けど、それは『解った』だけ。それらが自分の経験だって実感がわかないの。~

 ―――何も知らないままでの、亡霊暮らしが長かったせい、なのかしらね…。」

この亡霊少女はついこの間まで、冥界の妖怪桜『西行妖』の封印を解くために幻想郷中の春を集めていた。
決して咲かぬあやかしの桜。その根元には何かが封じられているという。
幽々子はその『何か』に強く引き付けられ…それは、偶然というにはあまりにも皮肉すぎ、運命というにはあまりにも哀しすぎた。
結局、西行妖の封印は守られたということになっている。だが、実際には封印の一部が解け、『何か』は顔を覗かせたのだ。
西行妖を封じるための、人柱が―――。

「…やっぱり、あれは…」
「そう、わたしの遺骨。」

音が―――止んだ。
控えめに鳴いていた虫たちの声に代わって耳に届くのは、静寂ゆえの耳鳴りのみ。
『死に誘う程度の能力』…。彼女の居る場所はすべて黄泉平坂となり、見えぬ軍(いくさ)たちが生者を冥界へと引きずりこむ。虫も、妖怪も、―――勿論、人間も。
しかし黄泉の風も文字通りどこ吹く風と、霊夢はその場に小揺るぎもせず立っていた。

「ま、実は私にもいくらか責任はあるのよ、今回の件はね」
「え…、」
「幻想郷の守護が、博麗の責務だから。桁違いにヤバそうなことについては、一通り聞いてるわけ。
 ―――まぁ妖忌から直裁頼まれてたのは、先代だけど。」


―――妖、忌…。

水滴が一つ二つ、幽々子の足元に落ちる。次いで一陣の風が桜を揺らし、幽々子を隠すかのように桜吹雪を仕立てた。

「なんだ、実感あるんじゃない。
 でも、いいんじゃないの?『西行寺』として西行妖を護るのも、『幽々子』としてお気楽に暮らすのも。どっちでも、好きに選べば」

霊夢の言葉はそこで途切れた。
一瞬の空白。そして息苦しさ。胸にかかる、柔らかな重み。

「ごめんなさい…。ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
泣きじゃくる少女。それは霊夢にか、妖忌にか。あるいは、死を無駄にしかけた生前の自分へか―――戯れに命を奪った、生者たちにか。
霊夢にはそれが『幽々子』であるという実感は持てなかった。

―――いや、もしかしたらこれが、生前の幽々子なのかもね…。

優しくその背を撫ぜながら、霊夢は幽々子の生前に思いを馳せた。
自分とて、平和な生活をしていたわけではないが…生まれながらに『死』を傍に侍らせるなど、まともな神経で耐えおおせるものではないだろう。
大切な人々を、いつ死なせるとも限らない。けれど孤独にも耐えられない。ならば―――自ずと答えは決まっている。
あの時、幽々子の弾幕が身を掠めるたびに流れ込んできた感情、そして情景。霊夢は弾幕によって、幽々子の想いの一端を理解していた。

「…ごめんなさい、霊夢。もう、『わたし』は消えるから。明日からは、また能天気な『天衣無縫の亡霊』に戻るから―――、」
「無理、しなくていいのよ?」
「大丈夫。でも、その前に―――」

         みれん  け
―――『わたし』の寂しさを、癒してほしいの…。




 * * * 




衣擦れの音が、寝室に響く。ややあって、幽々子はその豊満な肢体を霊夢の前に晒した。霊夢はとうにサラシとドロワーズのみである。

「…むぅ。なんか敗北感…すっごい柔らかいし…」
「あらあら。弾力のある一口サイズというのも、需要はあるのよ?」
「…なんかどっかの妖怪に、同じこと言われたような気がする…」

幽々子は苦笑し、やや膨れる霊夢を今度は両手で抱きしめた。
柔らかな一対の膨らみが圧迫され、汗に滑ってその形を変える。
しばらくして、硬いしこりがそれを妨げるようになった。

「あは…幽々子、もう乳首が硬くなってる…」
「あら、そういう霊夢はどうなのかしら?」
「…え、ちょっ、心の準備が~!」

するすると、何故か慣れた手つきでサラシを取り去る幽々子。そしてそのまま、抗議の声を上げる霊夢の口を自分の口でふさいだ。
その素早い動作とは裏腹に、おずおずと舌を差し込む。霊夢がそれに応え、二人の舌が互いを往復するまでにはそう時間はかからなかった。

「…ん、もう。意外と上手なのね、霊夢って」
「あー、まぁ…いろいろと。」

たっぷり四半刻。互いの口腔を味わい、息苦しくなりながらも、互いを抱き寄せる手の力は緩めない。
実体ではない幽々子の心音が聞こえるような錯覚さえ覚えるほどに、二人は身体を密着させたまま口付けを重ねた。

さらに、どれほどの時が経っただろうか。とうとう霊夢は根を上げ、口を離すと布団へと仰向けに倒れこんだ。
激しく息を切らす霊夢に、しかし幽々子は休む暇を与えない。

「あらあら…でもまだ、休ませてあげない♪」
「ちょっ…私もう息が続かな…っっっっっつ!!」

不意にドロワーズの上からは強烈な刺激を、胸からは先端の擦れる甘い快楽を送り込まれ、霊夢は悲鳴とも嬌声ともつかない声なき声を上げた。
このまま絶頂へ―――と思いきや、幽々子の愛撫は要所要所でポイントを外し、霊夢を焦らす。手馴れたものだった。
とうとう霊夢は涙を浮かべながら懇願する。しかし幽々子は淫蕩な笑みを浮かべ、今度は言葉攻めを始めた。

「幽々子~…もっと、そこ、触ってよぉ…」
「そこって…どこかしら?ここ?」

後ろの菊門を押さえられ、未知の感覚に霊夢はのたうった。
慌てて言い募るも、それとて幽々子の手のひらの上。

「ちがっ…!もっと、前ぇ…!!」
「あらあら、じゃぁ、ここ?」
「ひううっ!?」

今度はへそを撫でられ、霊夢は悲鳴を上げながら仰け反った。
幽々子は予想通りの展開に、内心舌なめずりをしている。

「ちゃんと、言葉にしてくれないとわからないわよ~?」
「お…ぉ…こ…」

真っ赤になり、消え入りそうな声でそれを口にする。が、幽々子はわざと大げさに聞き返した。

「え?どこかしら?」
「お…んこに…」
「もっと大きな声で言ってくれないと聞こえないわ~。わたしはもう十分だし、ここでもう終わりにしちゃう?」
「そ…んなのって…!!お願い、おま○こ触って!!おま○こが…切ないのっ…!!」
「はい、よくできました」
「え、ひゃうぅーーーっあぁぁあぁぁぁ!!」

いきなりドロワーズ越しでなく直に秘裂を撫でられ、痙攣めいた反応をする霊夢。強烈な快感に肺が大量の酸素を求めるが、再び口を塞がれてしまった。
そのまま陰核を探し当てられ、同時に攻められる。もはや霊夢は息も絶え絶えだった。

「むぐ…っは、だめ、もう、んぐっーーーーーーー!!!」
「あは、イっちゃいなさい…!!」

―――――――――――――――――――――――――!!!!!!

霊夢の頭の中で光がはじけ、続いて暗くなる。それが酸欠による気絶であることを、霊夢は妙に冷静な頭で認識していた。

―――あー…ヤバい。本気で逝っちゃうかも…。





 * * * 





「それじゃ、世話になったわね。またちょくちょく来るわ」
「当分こなくていいわよ…」

結局、窒息死は免れたわけだが。まだ身体に痺れと、強烈な疲労は残っていた。
全員を送り返し、ため息をついて―――なぜか目の前には能天気な亡霊がにこにこと笑っていた。

「あんた、帰ったんじゃなかったの…」
「ちょっと忘れ物を、ね」
「じゃさっさと取りにいきなさいよ…っ!?」

唇に、柔らかく甘い、昨夜何度も味わった感触。

「『わたし』から最後の忘れ物。それじゃあね~」
「二度と来るなこの煩悩権現ーーーーー!!!」

顔を真っ赤に染め、ぷんすか箒を振り回す霊夢の後ろから、何やら大量にキノコの入った籠を抱えてやってくる、黒い人影があった。言わずと知れた魔理沙である。

「おーい、昨夜渡すの忘れてたんだが、これこの間の土産…」

<<To be Continued?>>


トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS