「――何と、おっしゃいましたか」
 思わず、聞き返していた。
 というのは、それはまったく、初めて耳にした言葉であったから。
「“パチュラチオ”」
 不機嫌そうに、彼女は繰り返した。
 どうやら、私の聞き違いではなかったらしい。
「パチュラチオ――ですか」
 私は小首を傾げた。共に傾く頭の羽根。
 彼女、パチュリー・ノーレッジ師は博識である。
 この広い書斎じゅうの本をすべて読破しているのではないか、いやそれどころかこの辺境じゅうの書物に目を通しているのでは? と思うほどに。
 だから、彼女が知っていることを、私が知らない、というのはよくあることだった。
「それは――なんでしょう」
「ああ」
 彼女は眉をひそめながら、リボンをくるくるとこね回す。
「知らなくても無理はないわ。なにしろ、私もついさっき、知ったばかりの言葉なのだから」
 それは、と私は苦笑した。「私が知らないのも、道理です」
「まあね」
「その――パチュラチオとは、いったいなんでしょう」
 別に興味があったわけではない。
 しかし、彼女がいかにも聞いて欲しそうだったので、尋ねた。
「まぁ、そうね、たいしたものじゃないわ」
「そうですか」
「でも、いや、じっさいに体験してみれば、早いかもね」
「はあ」
 妙だな、とは思った。
 いつもの彼女らしくもなく、いやに――なんというか、しつこい。
「では――ええ、体験してみたいものですが」
 そう、答えざるを得ない雰囲気だった。
「ああ、それじゃ」
 彼女はうなずいた。「それなら、仕方が無いわね」
 らしくもない熱っぽい口調に、私は妙な気配というより――不安を感じていた。

「パチュラチオというのは」
 書斎の主は、私に椅子に腰掛けるよう命じてから、講義するように手を振り、
「ヒトの身体のなかに溜まった老廃物を取り除き、肉体を清らかにするのが目的よ」
「はあ」
「まあ、要するに健康法ってやつね」
「はあ」
「そこでまず、あなたは服を脱ぎなさい」
「はあ…………えっ?」
 唖然とした。
 いきなり、そんなことを命じられようとは思わなかったのだ。
「何してるの」
 苛立たしげに、パチュリー師。「さっさと脱いで頂戴」
「それは、でも」
 躊躇う。
「健康法なんだから、脱がなきゃ試せないでしょ」
「……わかりました」
 力ある魔女の機嫌を損ねるのは、賢明ではない。
 私は言われるまま、衣服を脱ぎ、畳んで机に置いた。
「これで――よろしいでしょうか?」
「……まぁまぁね」
 彼女はなにやら不満げだった。
 もしや、下着まで脱げと言うことだろうか。
「それじゃ、始めるわよ」
 パチュリー師は私の目前まで来ると、ふいにひざまずいた。
 そして、手を伸ばし――
「……っ!?」
 彼女の手は、私の、股間へ伸びて――
 触られる。
 そこは、いまだ誰の手も、触れていないのに。
 思わず、身体を引こうとした、その時。
「う……あ!?」
 私は、異様な感覚にうめいていた。
 魔女の手は、私の下穿きに触れるか否かのところで、止まっている。
 だがその手は、何かを、握っているかのよう。
「なかなか、立派だこと」
 からかうような言葉とともに、彼女が手を動かす――
 と、私の股間から、不可解な、しかし激しく痺れるような感覚が、駆け上がってくるのだった。
「あうっ!? う、うっ、あ、あ……っ」
 彼女の手が前後するたび、私を刺激する、これは――まごうことなき、快感。
「私が握っているのは、貴女の霊的な器官。さしずめ魔根か妖根というところね。これを触っていると……エーテル体を直接刺激して、蓄積した不純物を排出させることができるというわけ」
 そんな説明も、半分ほどさえ頭に入らないほど、私は激しい感覚に――愉悦に、痺れていた。
「あふっ! あ、あ、ああっ、あっ、あ、うううう~~っ!」
 小さな手が虚空を握り、さすりあげ、きゅっきゅっと力をこめるたび、私は下半身が弾け飛びそうになる。
 まるで神経に指を突っ込まれ、直にかき回されているような、そんな感触。
「そろそろ出そうかしら」
 手を休めず、そう囁いてくるパチュリー師。
「で……出る? うううっ! はっ、あっ、うあ、あ、あっ」
「そう、エーテル体の不純物質が出てくるはずよ。こみ上げてこない?」
「わ、……わかり、ま、せん……あ、ああっ!!」
 実際、わからなかった。
 身体の奥――臓腑よりも深いところで、何かが疼いているのは感じた。
 だがそれはまだ疼きにすぎず、形になるまでにはいたっていない。
「フム……それじゃ……っ」
「んんんっ!?」
 ふと、手以外の感触が走った。
 熱く、潤ったものが、私の不可視の器官の先端を撫でていく。
「じゅ……ちゅ、ぴっ、ちゃ……」
「あ、ああっ、はぁぁ……っ」
 鋭敏な器官の表面をなぞっていく、パチュリー師の舌。
「どうかしら」
 上目遣いに、視線を送ってくる。
 普段からは想像もつかないほど、熱く濡れたまなざし。
 身体の芯で、波立つものがあった。
「どうなの? まだ、出そうに無い?」
 小ぶりの紅い舌をチロチロとうごめかせ、見えない棒状のものを舐め上げていく。
「あうっ! あっ、ああっ、はああああ……っ、ああっ!」
 私は容赦なく襲い来る愉楽にすすり泣きながら、彼女の舌使いに身を任せるほかなかった。
「ン……少し、にじんで来たようね」
 顔をしかめる彼女。
 どうやら、透明な霊根にも出口があり、そこから何かが出てきたらしい。
「はぁ、あ、あ……っ、すみま、せん……っ」
「……気に、しなくていいわ」
「あうっ……う、あ、はぁ、はぁっ、あぁあぁぁ……」
 なお、熱心に見えざるものへ舌を這わせる彼女。
「ちゅっ、ちゅっ、じゅる、じゅるる、ちゅぱっ、ちゅぱぁ、じゅずずうぅ……ぷはぁぁ……はぁ、はぁ、あぁ……苦い、苦いわ……はぁ、ふぁぁ……」
 ダラダラと顎へとしたたる涎や滴をいといもせず、一心に舐め続けている。
 心なしか、その頬が紅く染まってきていた。
 その光景に、私の奥底でうねっていたものが、ひとつに固まり……せり上がってくるのを感じる。
「う、あっ、ああっ、ぱ、パチュリー師……っ、私……っ、私……」
「なぁ……に? もう、出すの? もう、出しちゃうの?」
「は、い……っ、何かが……何か、がっ、もう、もううっ!!」
 ぶるるっ、と全身に、戦慄が走り……
 ふと、手と舌の動きが止んだ。
「はぁ、はぁ……っ、はあああああ……?」
「そんなに、あっさり出しちゃ……惜しいでしょ?」
 先ほどまでと異なり、じりじりと、焦らすかのような手つきで宙を撫でていく。
 一方で、口内に溜まった唾液と滴を入り混じらせ、ごくりと飲み込む。
「ふうう……効くわ……」
 紅くぬめった舌で唇を舐める様子は、いつもの物静かな彼女とはまるで異なった気配を漂わせている。
「ふふふ……っ、貴女のこれ……一回りは大きくなってるみたいね? いやらしい子……」
 淫らに微笑みながら、見えない器官にほお擦りする。
「そ、それは……パチュリー師が……っ」
「私のせい? ヒトのせいにするのは、感心しないわね」
「で、でも……う、あ、あん……っ」
 根元をすりすりとさすられ、私はたまらず声を漏らす。
 下着は、もう取り返しがつかないほど――湿りきっていた。
「そんな、悪い子は……んっ……ちゅぷ……っ」
「うあああっ!?」
 生暖かい粘膜が、私の妖根を、包み込んでいた。
 手で触れられるのとはまったく異質の、ぬめりと熱さ、心地よさ……。
「んぐ……むぐぐうう……」
 小さい口をいっぱいに開き、見えざるものを咥え込み、喉奥まで深々と迎え入れていく……。
「ああっ、あ、うわ……ああ……ああーーっ……」
「むぅーっ……ふぅぅーーーっ……んっぐ……じゅじゅる……」
 限界まで口内へ器官を収め、うっとりとした面持ちで鼻息を漏らす、日陰の魔女。
「じゅず、ずずう……じゅずずず……ぷふううっ、はぁ、ふうーーっ……」
「あうふうっ!」
 じっくりと味わうように頭を引き、いったん口から離す。
 粘ついた滴が、べっとりと糸を引く。
「ふううーー……すごい……すごく……クルぅぅ……はぁぁぁ……」
 そう喘ぎながら、先端をピチャピチャと舐め上げていく。
「ふあああっ! あ、あっ、ああああっ、ううううう~~~~~っ!!」
「んじゅぷ……じゅる、くちゅう……じゅっぱ、じゅぱ、んじゅうう……」
 再度咥え込み、今度は先だけを含んで、舌で裏側を舐め回す。
 たっぷりと湿り潤った口腔粘膜に優しく覆われ、私の不可視器官は喜悦にうごめき、法悦の涙を漏らして彼女の舌技に悶えている。
「ちゅるっ、じゅるるっ、ちゅじゅじゅうーっ、じゅううーーっ」
「ひっ、あふああっ、あっ、やっ、んあああーーーっ……」
 もう――もう、限界だった。
 たぎりたった深淵の焔を吐き出さなければ、私自身が、焦げてしまいそうだった。
「もぉ、もぉぉっ、ダメ、ダメですっ、もぉぉぉぉ……ダメぇぇぇぇ……」
「んちゅ……いいわよ、もう……出しても」
 彼女は私の器官を大事そうに両手で包み込むと、穂先を小刻みに舐めだした。
「ちゅちゅっ、ぴちゃっ、ぴちゃちゃあ、じゅぱぱぱっ、じゅっぱぱぱぱ……っ、ちゅじゅじゅっじゅっじゅっじゅっじゅっ」
「あああああうううううっ!!!」
 その刺激が、最後の境界を越えさせた。
 高まりきった激情が、奔流となって、駆け上ってきて――
「あああああっ! で、出るっ! 出るっうっ! 出ますぅぅぅぅぅぅっ!!」
「ぴちゃ、ちゅぱっ、ちゅぱぱぱぱぱっ、じゅじゅううっ!」
「うああああああああああっ!! 出る……ううううううっ!!」
 びゅくっ! びゅくるるるるるるっ!! びゅるるるるるるうううっ!!
 猛烈な勢いで噴出した濁液が、パチュリー師の顔といわず髪といわず服といわず、降り注いでいく。
「んぶうううっ!! れろっ、れろ、れろぉぉぉ……」
 ずびゅるっ! びゅっ、びゅびゅっびゅうううう……!!
「ふああああっ!? ああ、うあ、うわあああああ……あああ……」
 飛び散る濁流を浴びながらも、彼女は先端を舐め続け、敏感な箇所を刺激し続けた。
「ちゅぱ……びちゃっ……んぐぅ……ふううう」
「あああ……ふわぁ……あああーーーっ……」
 おかげで、射出が終わるまで、私の悦楽は持続し、すべてが止むころにはもはや精も根も尽き果てて、ビクビクと四肢を震わせることしかできなかった。
「ふうううう……んぐ……はぁぁぁ……ああああ……」
 総身に濁液を浴びながら、パチュリー師は満ち足りたかのように、ぼんやりとその場にへたりこんでいた……。

「――スッキリ、したかしら」
 コトが済み、後始末をすっかり終えた後、パチュリー師が尋ねてきた。
「ええ……おかげさまで」
 と答えたものの、じっさいはスッキリよりもグッタリの感が強い。
 三日分くらいの魔力を使い切ったような、そんな脱力感。
 むしろ彼女のほうが、血色もよく、スッキリした様子だ。
 とはいえ、あの感覚、あの快感は。
(……癖になってしまうかも)
 そう思うと、いささか、身震いするものがあった。
「それにしても、パチュラチオ……ですか。勉強に、なりました」
「え? ええ……そうでしょうね」
 何故か歯切れ悪く、師は口ごもった。
「よろしければ、今度は、私が」
 そう申し出ると、彼女は慌てて手を振って、
「あ、ええと、あれは――そう、魔界の住人にしか効果がないのよ」
「そういうものですか」
 私は小首を傾げたが、あまり深く追求はしなかった。
 何しろ、疲れていたのだ。


(……危ないところだった)
 小悪魔が床についたのを見計らって、パチュリーは深い息をついた。
(まさか、悪魔の精が喘息に効く、とは言えないものね)
 それにしても、と彼女は思い出し笑い。
 いくら作り話とはいえ、パチュラチオはないな、と。
「……ん……」
 気がつくと、手が知らず知らずのうちに、秘め場所へ伸びていた。
(今度は……そうね……)
 指を噛みながら、彼女は思いにふける――
(パチュリトリス……って言うのはどうかしら?)
 ちょうど、指がパチュリトリスを探り当てた瞬間であった。

(了)

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*備考
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*パチュリー・ノーレッジ(東方紅魔郷4面ボス+東方紅魔郷エキストラ中ボス)×小悪魔(東方紅魔郷4面中ボス)のネタ。

*『パチュラチオ』という語感がなんかアレだったのでソレしてみました。何。

書き手:STR


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