(リリカが家に来るようになって、もうどれくらい経つだろう……)
屋根を叩く雨音を聞きながら、アリスは紅茶の準備をしていた。
2階にあるアリスの部屋からは、木の床を踏む音がひっきりなしに聞こえてくる。
いつものようにリリカがあちこち部屋を見て回っているに違いない。
あの日出会ってから、リリカは毎日のように森の広場に来るようになった。
「アリスお姉ちゃん、今度家に遊びに行ってもいい?」
「いつかね」
別れ際に繰り返されるやり取り。「いつかね」が「いいわよ」に変わったのはいつの事だったか。
魔理沙が旅に出てから、既に数週間が経っていた。
初めのうちは一緒に紅茶を飲みながら、ぽつぽつと会話するだけだった。

そのうち庭に出てハーブの手入れをしたり――
『綺麗な紫……。これ、何て名前なの?』
『これはキランソウ。煎じると風邪に効くのよ』
『ふーん。あ、メルランお姉ちゃんが鼻風邪ぎみなんだ。少しもらっていいい?』

人形の作り方を教えたり――
『うー、人形作るのって難しいなあ』
『まずイメージするのが第一歩ね。リリカはどんな人形が作りたいの』
『アリスお姉ちゃんの……じゃ駄目かな?』

いつの間にか、買い出しにも行くようになった。
『あ、荷物持ってあげるよ』
『そう。じゃ、今日は一杯買おうかな』
『アリスお姉ちゃんの意地悪!』

露店のクレープ屋を通りがかった時の事。
買い食いなどした事がないと渋るアリスに、リリカは強引にクレープを手渡した。
『リリカ、これどうやって……あっ』
歩きながら食べるのに慣れていないアリスは、中身を石畳に落としてしまった。
『あー。……いいよ、アリスお姉ちゃん、私の一口食べさせてあげる』
そう言うと、リリカは自分の分を差し出した。
『駄目だよ、もっと大きく開けてかぶりつかないと……』
次の瞬間、リリカのクレープは半分以上アリスの口に消えていた。どことなく得意げなアリス。
『あー、ずるいアリスお姉ちゃん!』

お湯に漬けておいたミルクポットを取り出すと、アリスはふふっ、と笑った。
いつも独りでいる私が、誰かと町を歩く? クレープを食べさせあう?
魔理沙との付き合いは長いが、そんなことをしたことは一度も無かった。
魔理沙がこの事を知ったら、どんな顔をするだろう。
臆面無く接してくるリリカと過ごすうちに、自分の中で何かが変わっていく。
いや。変わっていくというよりも、思い出すという方が正確かも知れない。
自分らしくないような気がして何かくすぐったいが、不愉快ではない。
「魔理沙」
最後にポットを一揺すりすると、アリスはリザーブポットに紅茶を注ぎ終えた。
(悩んでいる? 私が?)
自分には心が無いと思っていた。迷いなど無いと思っていた。
それなのに今、心にひっかかっているものは何だろう。
自分自身でも分からぬまま、アリスは盆を持って2階へ上がった。
「紅茶淹れたわよ」
部屋に明かりは点いておらず、窓から入ってくる静かな雨音だけが満ちていた。
「リリカ?」
「……アリスお姉ちゃん」
窓際の机に座っていたリリカが、振り向かずに答えた。
「どうしたの? 明かりも点けないで」
アリスは盆をテーブルに置いてリリカの傍に近寄った。
そしてリリカの肩越しに、机に置かれているものを見た。それはしまい忘れていた日記帳だった。
「アリスお姉ちゃん、魔理沙さんのこと好きだったんだね」
いきなり言われ、アリスの顔にさっと血が上る。日記を読まれたことよりも、リリカの一言に対して。
「やっぱり。私、お姉ちゃんたちは付き合ってるんじゃないかなーって、思ってたんだ。
 だって魔理沙さんの髪、アリスお姉ちゃんと同じ香りがしたから」
肯定も否定もせず、アリスは押し黙ったままだ。
「ずっと気になってたんだ。どうしてアリスお姉ちゃんは寂しそうなんだろう、って。
 あの時……初めて魔理沙さんに会った時だけど、アリスお姉ちゃん、魔理沙さんを見ても
 全然態度が変わらなかった。私まだよく分かんないけど、普通待ち合わせの相手が来たら、
 もっと嬉しそうにするんじゃないのかな?」
「それは」
「ごめんなさい、アリスお姉ちゃんが下にいる間、ついここにあった日記を読んじゃった。
 それでもっと不思議に思ったんだ。どうしてあの日私にキスしたのかなって」
「それは」
リリカは椅子から立ち上がると、口ごもるアリスの手を取った。
「もう答えは分かってるんだ。実を言うと、私あの日お姉ちゃんたちと…その…上手くいかなくて……
 家を飛び出してきちゃったんだ。そして森を走ってたらアリスお姉ちゃんと出会ったの。
 アリスお姉ちゃんは私の様子を見て、ついキスしちゃったんでしょ?
 自分の寂しさと、その、共鳴したっていうか」
「リリカ」
うまく言葉が出ない歯がゆさに、アリスは自分の手を包み込む白い指先だけを見つめていた。
「ごめんねアリスお姉ちゃん、困らせるつもりはないの。ただ、魔理沙さんと一緒にいるのに、
 どうして寂しそうなのかが知りたいの。力になってあげたいの」
まっすぐに気持ちをぶつけてくれるリリカ。
アリスは顔を上げると、意を決して口を開いた。
「……魔理沙と私は身体だけの関係なの。普通の、恋人同士の関係じゃなく。
 気が向いた時に待ち合わせして、お互いの家に行って身体を重ねるだけ。
 束縛することもせず、相手に本当に好きな人が出来たら自然に終わる……そんな関係。
 私は他人との拘わりを避けて、ずっと独りで生きてきた。そんな私を、魔理沙が求めてくれるのが
 嬉しかった。たとえ身体だけでも、私はその関係に満足してた」
「それは嘘だよ」
「え?」
「アリスお姉ちゃんは、満足なんかしてなかったでしょ。だから私と」
「! 違うのリリカ。私は」
リリカは舌をぺろっと出した。
「また意地悪言っちゃった。私を魔理沙さんの代わりにしていないってことは分かってるつもり……。
 ほら、私がこの前キスしてっておねだりした時、してくれなかったでしょ」
「………」
「お姉ちゃんの気持ちは伝わったよ。だから、今はキスしてくれなくて良かったなぁって思ってる。
 ああアリスお姉ちゃんの心にはもう魔理沙さんがいるんだなあって。
 ほら、トイレ借りようとしてドアを開けたら先に魔理沙さんが座ってたって感じ」
「何、そのたとえ?」
アリスが思わず笑うと、リリカも微笑んだ。
「やっと笑った。アリスお姉ちゃんは想いを言葉にするのに慣れてないんだよ。
 一生懸命色々メッセージを送ってるのに。魔理沙さんも相当鈍感だね」
「メッセージ……」
「私にはちゃんと分かったよ。でも、言葉に出さなきゃ、相手には伝わらないよ。
 ……アリスお姉ちゃんが、今度魔理沙さんに会った時に、今みたいに正直になれるように
 おまじないをしてあげる。アリスお姉ちゃん、目を閉じて」
「え?」
「いいから、早く!」
少し躊躇った後、アリスは目を閉じた。
椅子を引きずる音がして、次の瞬間アリスはリリカに抱きすくめられていた。
息が出来ないほど強く、強く。
「キスすると思った? 駄目だよ、私からはしてあげない……その代わり、勇気をあげる。
 アリスお姉ちゃんがもういいって言うまで、このままでいてあげる」
「リリカ……」
アリスはリリカを抱きしめ返した。リリカの胸に顔をうずめたまま呟く。
「ごめんね、リリカ、ごめんね」
「アリスお姉ちゃん、これからも友達でいようね?」
「……うん」
暗い部屋の中で、アリスとリリカは紅茶が冷めてしまうまで抱きあっていた。
いつの間にか、雨は止んでいた。



「それでリリカは、独り寂しく風呂場で泣いてたってわけね」
「別に泣いてなんかいないよっ」
幽霊屋敷の浴室。いつまでたっても出てこないリリカを心配してメルランとルナサが入ってみると、
リリカは椅子に腰掛けたまましゃくりあげていたのだった。
「ムリ言わなくていいの。久しぶりに裸の付き合いしてるんだから、本音で話そうよ」
軽く押さえるようにリリカの髪を洗いながら、メルランが言った。
「うん……アリスお姉ちゃんの家にいる時は何とも無かったのに、うちに帰ってお風呂に入ってたら
 なんだか急に悲しくなってきて……」
「うんうん分かるわー、その気持ち。私もトイレで何回も泣いちゃったことあるもん」
「嘘つけ」
湯船につかっていたルナサが、頭の上のタオルを直しながら呟いた。
「まあ、人生経験を積むのはいいことだ。
 この屋敷以外の世界に触れることで、リリカの演奏にも深みが出るだろう」
「ルナサ姉さん、今は演奏の話じゃなくて恋愛の話よ。
 リリカが傷ついて泣いてたのに、姉としてかけてあげる言葉はないの?」
「むー……姉として、か……」
ルナサは顔半分を湯に沈めた。
恋愛経験の殆ど無いルナサは、こんな時にどうアドバイスしたら良いか分からないのだ。
「まー私の経験だとね、アリスを好きな気持ちを忘れる必要は無いわね。
 そのまま友達でいてあげればいいんじゃない? 別にエッチしちゃったわけじゃないし」
「………」
アリスを誘惑したことはずっと黙っていようと、リリカは心に決めた。
「ただ」
メルランが妙に真面目な顔つきになる。
「アリスと魔理沙の仲を応援するって決めたんなら、間違っても嫉妬とかはしないことね。
 その気持ちのまま2人と会うのは辛いだけだから。それだったらもう会わない方がいい。
 そうしないと、いつか2人を傷つけちゃうよ」
「嫉妬とか、よく分かんない」
シャンプーが入らないように目をつむったまま、リリカはメルランを振り返った。
「でも、アリスお姉ちゃんにはもっと笑って欲しい。……それだけ」
「お子様なリリカには早かったかな? ま、あんまり深く考えないことね。
 思ったとおり素直に行動すればOKよ。素直なのはリリカの一番いい所なんだから。
 じゃ、今度は身体を洗ってあげる」
「え、先に頭のシャンプー流してよ」
「後で一緒にすればいいじゃない。さ、ルナサ姉さん手伝って」
「あー、うん」
ルナサが浴槽から立ち上がった。
メルランはスポンジを泡立たせると、リリカの小さな肩に押し当てた。
「姉さんは前を洗ってね……リリカ、背中はちゃんと洗わなきゃ駄目よ。
 すぐ吹き出物が出ちゃうんだから」
「リリカ、腕を出してくれ」
メルランとルナサはくるくると円を描くように、リリカの全身にスポンジを滑らす。
久しぶりに姉たちに身体を洗ってもらって、リリカは満足げに肩をすくめた。
「胸、少し大きくなったんじゃないか? リリカ」
からかいと羨ましさが混じった口調でルナサが言う。
「そ、そうかな……?」
リリカは、ルナサのスポンジがふくらみかけの胸を持ち上げるのを感じた。
「駄目よ姉さん、ここもちゃんと洗わないと……」
「ひゃっ!」
リリカは声を上げた。いきなり胸の先端が指で摘まれたのだ。
そのまま転がすように見えない指は小さな乳首を泡立てる。
「メ、メルランお姉ちゃ……!」
振り返ったリリカの唇が塞がれた。
「ん………ちゅ……」
後ろからリリカの背中を抱きかかえたまま、メルランは唇をこじあけるとリリカの舌を絡めとった。
「ふ、んん……うっ」
「あー……」
ルナサは人差し指で額を押さえた。
半ば予感はしていたが、予想通りの展開には少し頭が痛くなる。
とりあえずリリカの足を開かせると、ルナサはお腹から太ももにかけて泡をつけていく。
「あ……ぁふ……」
舌全体を柔らかく吸われながら、リリカの身体から力が抜けていった。
そのままメルランにもたれかかる。
メルランは舌を動かしたまま、両手でリリカの胸を掬い上げるように揉んだ。
ぬるぬるとした感触が胸をなで上げ、時折乳首を弾く度にリリカはくぐもった声を漏らす。
「……な…んぁ……メルランお姉、ちゃん……」
リリカはじれったいような、むず痒い気持ちに、太腿をもじもじさせる。
今ルナサはふくらはぎを洗っている。そこが終われば……。
「は……ああっ!」
リリカはメルランから唇を離し、大声を上げた。
ルナサの髪が太腿をくすぐったかと思うと、ルナサの唇があそこに押し当てられたのだ。
「ああ……ルナサ……おね……んあぅ……」
「この間はリリカだけ仲間外れにしてしまったからな」
「あはっ、ノッてきたじゃない姉さん」
仰け反ったリリカの首筋にキスしながら、メルランが言う。
「これは……姉としての……」
閉じようとする両足を押さえながら、ルナサはあそこに唇を上下させる。
ルナサの唇から逃れようとするように、リリカの襞はゆるゆると蠢いた。
「やっ……あっ………ふ…お姉ちゃん……いい………!」
自分でするのとは全然違う初めての感覚。
ルナサの愛撫にリリカが腰を浮かせた拍子に、腰掛け椅子がお尻の下から滑り出た。
メルランの冷たい身体に背中を預けたまま、リリカはずるずると浴室の床に横たわった。
「ん……」
ルナサは首を傾けると、リリカのあそこに舌を差し入れた。
奥から流れ出てくるものを音を立てて啜り上げる。
「あ……やだ…お姉ちゃ……そんなに、音、立てちゃ……」
弱々しく抗議するリリカに構わず、ルナサは激しく舌を使い続ける。
負けじとメルランはリリカの背中に自分の乳房を押し付けると、指に挟んだ乳首を細かく震わせた。
「……ああっ………!」
息詰まるような感覚の中、リリカは誰かの指があそこを広げるのを感じる。
つるん、とリリカの小さな芽が顔を出した。
「ああーーっ! そこ、だめぇっ……!」
指の腹で芽を撫で上げられながら、リリカは悲鳴を上げた。
一番感じるところを刺激される度に、腰が勝手にひくついてしまう。
逃れようと身をよじっても、指は吸いついたまま一定のリズムでリリカの芽を擦りたてる。
「やぁ……! やめ……なんか……私………!」
ルナサの舌と、メルランの指にリリカは我を忘れて喘いだ。宙を掻くリリカの両手が握り締められる。
きつく乳首を摘まれ、強く芽を吸い上げられた瞬間、リリカの脳裏に火花が散った。
「はあっ、はっ、あ…だめ……いっちゃ……いっ…あ、ああぁああんんんんんっ!!」
大きく足を開いたまま2度、3度と腰を震わせると、リリカはぐったりと力を抜いた。
「ふぃー、いい汗かいたわー」
「メルランお姉ちゃんのえっち……」
ルナサばりのジト目でメルランを睨むリリカ。
リリカが達した後、3人は仲良く湯船につかっていた。
「自分でするよりも良かったでしょ?」
悪びれた様子もないメルラン。
「それはそうだけどって、何で知ってるの!?」
「ふっふっふっ。お姉ちゃんは何でも知っているのだ!
 リリカが週何回ひとりえっちしてるか、どんな風にしてるのかも」
「もー! メルランお姉ちゃん私の部屋覗いてるでしょ!」
「当たり前じゃない。私の貴重なズ・リ・ネ・タ、だもーん」
「お姉ちゃん……」
呆れるリリカ。その頭から、思わずタオルがずり落ちる。
(強くなれリリカ。姉として私たちができるのは、これくらいなのだからな……)
浴槽の縁にもたれながら、ルナサはお湯をかけ合う2人を微笑ましげに眺めていた。



翌朝、幽霊屋敷に意外な来訪者が訪れた。霧雨魔理沙であった。
魔理沙と連れ立って森に歩いていくリリカを見送りながら、メルランがルナサに囁いた。
「大丈夫かなー」
「何がだ?」
「相手はあの魔理沙よ。修羅場よ、三角関係よ、グッチャグチャのドロドロよ!
 いきなり弾幕合戦になったらどーするの!?」
メルランが両腕を広げて天井を仰ぎ見る。それを無視して、ルナサは言った。
「そうはならんさ。リリカの心はもう芯が通っている。大丈夫だ。
 ……昨日偉そうにアドバイスしたのはお前だろう」
「あー、そうだったっけ。じゃ、いいか。それよりルナサ姉さん」
いきなり表情を変えると、メルランはルナサにしなだれかかった。
「昨日はリリカばっかりイッちゃって、私不完全燃焼気味なんだ……だ・か・ら」
「こら、腰を擦りつけるな。まったく朝からお盛んだな」
「へへへ……」
大きくため息をついたルナサは、メルランをびしっと指差した。
「よし、それじゃ今日こそはお前をヒイヒイ言わせてやるから覚悟しろ!」
「はぁーい。お手柔らかにおねがいしまーす」
鈍く光る手錠を後ろ手に隠しながら、メルランはルナサの後について階段を上っていった。


魔理沙は無言で小道を歩いていく。リリカは離されないように、必死に後を追った。
やがて森の広場に出ると、魔理沙は突然足を止めた。
「私が……」
魔理沙は振り向かないまま、話し始めた。
「私がアリスに出会ったのも、ここだった。魔法薬に使う茸を探しに来た時だったかな。
 あいつ、いつも寂しそうだった。町中でもそうだし、偶然お前たちの演奏会で見かけた時も、
 隅っこの方でぽつんと座ってた。あいつの気持ちは何となく分かるんだ。
 私は魔法を使うってことで昔から距離を置かれてたし、あいつはあいつで故郷から離れたこの森で、
 皆の間に溶け込めずにいたから。だから、思い切って話しかけてみた。
 それからかな、あいつと一緒に過ごすようになったのは。
 きっかけは忘れたけど、気がついたらいつの間にかそういう関係になってた。
 恋人じゃなく、いわゆるセックスフレンド。……リリカに分かるかな?」
「うん、分かるよ」
「最初の時に約束したんだ。今の関係はかりそめのもの。お互いの寂しさをごまかすためのもの。
 気になる相手が出来たら別れようって決めたんだ。あれからもうだいぶたつのに、
 まだ2人とも気になる相手が見つからないんだ。だから、私もアリスもまだ処女なんだぜ。
 ……笑っちゃうだろ?」
魔理沙の背中を黙って見つめていたリリカが、手のひらをぎゅっと握り締めた。
「しばらく旅に出てる間、私はアリスとの関係をもう一回考え直してみたんだ。
 そしたら、考えれば考えるほど、今のままじゃ駄目だと思ったんだ。
 お互いの傷を舐めあってる私より、本当にアリスのことを思ってくれる人と……
 一緒にいたほうがいいんじゃないかって。だから…アリスは……リリカと……」
「魔理沙お姉さん」
突然、リリカが強い口調で魔理沙の言葉を遮った。
「リリカ」
魔理沙が振り返った瞬間、帽子が飛んだ。軽く宙を飛んだ魔理沙は思わず尻餅をついていた。
「これは、アリスお姉ちゃんの分だよ………!」
魔理沙の頬を張った姿勢のまま、リリカが顔を真っ赤にして肩を震わせる。
「何がセックスフレンドよ! 何がお互いの傷を舐めあうよ!
 違う! 魔理沙お姉さんはアリスお姉ちゃんの心を傷つけようとしてる!
 アリスお姉ちゃんの気持ちも知らないで、今の関係が壊れそうだから、怖いから、
 私にアリスお姉ちゃんを譲るふりして、逃げ出そうとしてる!
 初めてお姉さんたちに会った時、2人とも大人っぽいなーって憧れたけど、
 私がなりたかった大人ってそういうものなの? 自分の気持ちに嘘ついて、
 言いたい事も言えないで、苦しくなったら逃げちゃうの?
 魔理沙お姉さんは子供だよ。ううん、お子様の私よりまだタチ悪いよ!」
魔理沙をとがめるリリカの瞳に、憐れみが混じる。
「アリスお姉ちゃんだけじゃない。魔理沙お姉さんもかわいそうだよ。
 もしこの先、アリスお姉ちゃんに新しい友達が出来たら、今みたいに嫉妬するの?
 アリスお姉ちゃんに友達が一杯できるのは本当は嬉しいはずなのに、
 反対に魔理沙お姉さんは苦しくなっちゃうなんて、おかしいよ……。
 私、アリスお姉ちゃんの日記読んじゃったんだ。魔理沙お姉さんのこと、いっぱい
 書いてあった。お姉さんとは何回かしか会ったこと無いけど、アリスお姉ちゃんを
 好きってことは私にも判ったよ。アリスお姉ちゃんが魔理沙お姉さんを好きってことも。
 どうして? どうしてアリスお姉ちゃんに気持ちを伝えて、本当の恋人になろうとしないの?
 今のままならアリスお姉ちゃんも魔理沙お姉さんも立ち止まったままだよ。
 このままだと2人とも駄目になっちゃよ。私、そんなの嫌だよ……!」
じんと痺れる頬を押さえ、魔理沙はリリカの瞳から流れる涙を呆然と見上げていた。
リリカが言うことは全部本当のことだった。だから、一言も言い返せなかった。
「アリスお姉ちゃんの気持ちって、考えたことある?
 魔理沙お姉さんがいない間、アリスお姉ちゃん、出窓に魔理沙お姉さんの人形飾ってた。
 普通、人形が痛むから窓際には人形は飾らないよ。なのにお姉ちゃんは人形を置いてた。
 それは、魔理沙お姉さんに早く帰って来て欲しかったからだよ。
 アリスお姉ちゃんの庭、何でハーブと全然関係ないキランソウが植えてあるか判る?
 キランソウの花言葉は『あなたを待っています』、だよ。
 アリスお姉ちゃんは魔理沙お姉さんが勇気を出してくれるのを待ってるんだよ。
 魔理沙お姉さんと同じで、自分の気持ち伝えるの下手だから……。
 好きでもない人と、一緒になんかいないよ! ましてセックスなんてしないよ!」
袖で涙を拭うと、リリカは魔理沙に右手を差し伸べた。
「これは、私の分。アリスお姉ちゃんに自分の気持ちを正直に言えるのなら……私の手につかまって。
 アリスお姉ちゃんが好きなら、私の手を取って!」
リリカの瞳に、魔理沙は自分が失った光を見た。自分より小さなこの少女がやけに大人びて見える。
いや、自分なんかよりよっぽど大人に違いなかった。
うじうじと悩んでいた自分が急に馬鹿らしくなって、魔理沙は自嘲した。
帽子を拾い上げると、魔理沙はリリカの手を握りしめてゆっくり立ち上がった。
「……ありがとう……」
「礼を言わなきゃならないのは私の方だぜ、リリカ」
そう言うと、魔理沙は照れ隠しに苦笑いした。
「にしてもさっきのビンタ、どんなスペルカードよりも効いたよ」
「ごめん、思いっきり叩いちゃって」
「いいんだ。私のようなヘタレはあれぐらいじゃなきゃ、目が覚めなかっただろうからな」
2人は手を握ったまま、お互いを見つめあった。もう言葉はいらなかった。
「……それはそうと」
急にリリカは目を輝かせると、悪戯っぽく魔理沙に尋ねた。
「魔理沙お姉ちゃん、私とアリスお姉ちゃんがキスしてたの、見てたでしょ?」
「え?」
「見てたでしょ」
「う、うん」
「日記に書いてあったんだ。ヤキモチ焼いてくれて嬉しかったって書いてたよ」
「な! アリスのやつ」
「へへへー」
顔を赤くした魔理沙の反応を楽しみながら、リリカは鼻の頭を擦った。
「魔理沙お姉さん、これからどうするの?」
「……アリスの家に行って、私の気持ちをぶつけてくる。断られることなんか考えてないぜ。
 たとえ断られたとしても、押して押して押しまくってやる。そして前へ進むんだ……私もアリスも」
迷いの無くなった魔理沙の表情を見て、初めてリリカはにっこりと微笑んだ。
「じゃ、私はここでさよならするね。いってらっしゃい、魔理沙お姉さん」
「ああ。本当にありがとう」
広場の出口で、魔理沙が振り返った。
「最後に……どうして私のこと、お姉さんって呼んでくれたんだ?」
「それはね」
リリカは小さく手を振った。
「魔理沙お姉さんが本当のことを私に言ってくれたから。
 少しでもウソついたら、ベーゼンドルファー喰らわすつもりだった♪」
魔理沙は頷くと、それ以上何も言わずに森の奥へ消えていった。
リリカは魔理沙を見送ると、広場の真ん中にある岩に飛び乗った。
「はぁ」
ひとつため息をついて空を見上げるリリカの髪を、風がそよがせる。
(これで、これでよかったんだよね……。
 心から笑えるようになるといいね、アリスお姉ちゃん。
 しっかりしなきゃ駄目だよ、魔理沙お姉さん)
リリカが手を振ると、宙に羽の生えたキーボードが現れた。
目を閉じ、精神を集中させると、キーボードはひとりでに鳴り出した。
それはあの日、アリスが口ずさんでいた名も無きメロディーだった。
「じゃあね、アリスお姉ちゃん……」
森に旋律が吸い込まれ、辺りに静寂が戻る頃、リリカは既に走り出していた。




こうして、リリカの淡い初恋は終わったのだった。
余談だが、この時の経験から、リリカは自分の言葉が人を動かせるということを
自覚し始めたようである。だがそれはもっぱら姉たちにのみ用いられ、
他人、特にリリカが大切に想う人に対しては、生涯使われることは無かったという。



おしまい





――――――――――――――――――――――――――――
あとがき…のようなもの

こんにちは、妹よーかんです。

読みづらくてすみません。「リリカ必死だな」と思っていただければ幸いです。

「良い文章とは」と考える内にハマったり、生まれ故郷の魅魔様スレが消滅してヘコんだり、
ストーリーに迷って何回も書き直すうちに……こういうラストになりました。

せっかく書いたので(?)別バージョンのあらすじを載せておきます。

魔理沙がいない寂しさに、リリカの誘惑にのってしまったアリスはリリカと関係してしまっていた。
旅から帰った魔理沙はふとしたことからそのことに気づき、嫉妬に狂った魔理沙は誓いを破って
アリスの処女を奪ってしまう。それでも魔理沙とリリカを選べないアリスに、魔理沙は囁く。
「見せてやればいいじゃないか、私たちの関係を」
アリスの家で睡眠薬を盛られたリリカは地下室に連れ込まれ、許容量を超える媚薬を投与された上に
身動きできないよう人形たちに拘束される。そのリリカの目の前で、アリスと交わる魔理沙。
「これが本当の私たちなんだ。お前も仲間に入らないか?」
涎と涙でぐしゃぐしゃになったリリカは、焦点の定まらない瞳で呟いた。
「……ひぇ………へ……ひ、ひぃれ……へ……おねぇ…ひゃぁぁぁん……」
それから3人の爛れた日々が始まった。
そしていつしかアリスはどちらのとも知れぬ子供を身ごもってしまい……。

と、言う訳でバッドエンドです。
前回の「それは悪魔のささやきだった」はここへつながる訳ですが、さすがにやめました。
え? こっちの方が良かった? それだけは言わないでください……。


このSSを書き終えるまでネチョスレ離れ&禁オナを誓って早1ヶ月近く。長かった。
その甲斐あってか、謎のザコさんの『騒霊三姉妹の一週間~金曜日』でイッた(失礼)時は
腰 が 爆 発 し た か と 思 い ま し た
謎のザコさん、ごちそうさまでした。

2004.6.17 妹よーかん


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2298d)