第1話『誘惑』


「てゐ? てゐは居る?」
 永遠亭の廊下をせわしなく歩く影。鈴仙は近くの襖を開けたり閉めたりしながら、部屋にいる妖怪達に何かを聞き回っていた。
「何かあったんですか?」
「ああ、ちょっとてゐが……あ!」
 妖怪の一人に事情を話そうと思っていた矢先、鈴仙は廊下の曲がり角で見覚えのある姿が走っていくのを見た。
「待て、てゐ!」
 その姿を追って、鈴仙も走り出す。二人の間はかなり差が開いていて、なかなか追いつくのは難しい…のが普通であるが、鈴仙にはそんな事通用しない。廊下に罠を張り、まっすぐ進めない様にする。
「……捕まえた」
 そして、方向感覚を麻痺させて、ふらふらとこちらに近付いてきた所で、捕まえる。
「うぅー………」
 鈴仙に両肩を掴まれ、目を回しているてゐ。よろけが収まった所で、まず見えたのは鈴仙の怒り顔だった。
「…てゐ、どうしてこんな事されてるか…分かるわね?」
 ふるふる。
「……てゐ。いますぐ謝れば、何もしないから…」
 ふるふる。
「………」
 横に首を振り続けるてゐに、鈴仙の肩が震える。
「…そう。じゃあ、しょうがないわね―――」
「あっ!」
 突如、てゐの体が宙に浮く。…と言うより、鈴仙の脇腹に抱え込まれていた。
「やめて、レイセン様っ…」
「もう遅い…覚悟は出来てるね、てゐ?」
「ううーっ…」
 腕の中でじたばたと暴れているてゐを抑えつつ、鈴仙は誰も居ない事を確認してから、近くの部屋に入っていった。


  *  *  *


 ぱんっ ぱんっ
「あうっ、痛っ、痛いよっ!」
「素直に吐かないからこうなるのっ……さあ、ちゃんと言いなさい!」
「あぅっ……ご、ごめんなさい……レイセン様の部屋の障子に穴を開けたのは、私です…」
「……ふう…やっと言ったわね」
「う゛う~……」
 涙目のてゐを膝の上から下ろし、鈴仙はため息をついた。とりあえず、お仕置きの尻叩き(ただし、服の上から)は効果があったようだ。
「レイセン様…酷い」
「何言ってるの。てゐが素直に謝らないからこういう事になるのよ? 前にもこういう事があったでしょうに、どうして分からないの?」
「わ、分かってるよ! 私だって、そのくらい!」
「…じゃあ、どうしてそんなに聞き分けの無い事を……」
 鈴仙が、呆れた様に言葉を返す。すると、てゐは急に顔を赤くして、何やら呟いた。
「………」
「…ん? どうしたの、てゐ?」
「………だって、こうした方が、レイセン様と二人だけになり易いんだもん………」
「!!」
 その言葉を聞いた鈴仙の顔も、一瞬で沸点に達した。
「なっ……なっ………て、ゐ……」
 確かに、鈴仙はてゐにお仕置きする時は他者に見られない様に部屋を封印する。と言っても、強固なものでは無く、あくまで『入って来て欲しくない』という意思表示の為のものなので、入ろうとすれば出来ない事ではない。それでも、その方が遠慮無く出来るし、また、他の者に見せない事により、逆に見せしめになると考えたからなのだが…
「………」
 てゐが、鈴仙を見上げている。期待の籠もった目で。
「―――」
 鈴仙も、てゐの瞳を覗く。
 狂気に誘う鈴仙の赤い瞳は、使おうと思わなければ発動はしない。
 二人の目が、合った。
「レイセン様……」
「ぁ……てゐ…」
 てゐの手が伸ばされ、鈴仙の背中に回される。そのままてゐは鈴仙に体を預け、鈴仙もまた、てゐを抱きしめた。
「ん……」
「…ん……ふぅ……」
 そうして、口付け。互いの唇の柔らかさに目を閉じ、息をする事も忘れ、ただこの時を慈しむかの様に、ゆっくりと―――
「…はぁ……」
「んは……」
 口を離し、互いの顔を見つめる。そこにあるのはただ、純粋なお互いへの想い。
「てゐ……こんな事しなくても、私は」
「ん…分かってる、分かってるよ、レイセン様……でも」
「…でも?」
「何となく、こうしたかったから……」
「てゐ………しょうがないわねぇ…」
 鈴仙は、くしゃりとてゐの頭を撫でた。
「ぁ…」
「私はてゐの事が好きよ。てゐは、どうなの?」
「もちろん、レイセン様が好き…」
「…ありがとう。それで、充分だから」
 そう言って、鈴仙はもう一度てゐに口付けた。
 鈴仙にとって、この純粋な行為が、何よりも幸福な時間だった―――


  *  *  *


 それから少し経った、ある日。
「………」
「…てゐ?」
 鈴仙は、いつもの見回りの最中、部屋から現れたてゐが鈴仙の後をずっと尾けている事に気付いた。普段は亭内を跳び回り、勢い余って部屋の障子を破ってしまうくらい元気なのだが、その日はどうも大人しく、ただ黙って鈴仙の後を付いてまわっている。それが、どうにも怪しかった。
「てゐ…また何かやったの?」
「………」
 訊いてみても、首も振らないので分からなかった。
(さて、どうしたものか……)
 首を傾げ、考えを巡らせる鈴仙―――その時。
「………レイセン様………」
 てゐが、蚊の鳴く様な声で、鈴仙の名を呼んだ。そして―――そのまま、鈴仙に抱きついてきた。
「なっ…てゐ?」
 抱きつかれる事に関しては、大した驚きは無い。ただ、場所が場所である。こんな所を他の妖怪達に見られたら、変な噂が立ちかねない。
「レイセン様……」
 それを分からないてゐではないはずなのだが、今日に限って鈴仙から離れようとしなかった。
「…ああっ、もう…」
 困り果てた鈴仙は、周りに誰も居ないのを確かめると、更に近くの部屋にも誰も居ない事を確認し、てゐに抱きつかれたまま部屋の中へ入った。

「一体どうしたの? てゐ…」
 部屋に入り、落ち着く為に畳に腰を下ろす鈴仙。それでも、てゐは鈴仙にしがみついたままだった。
「………」
 てゐは、何も喋らない。ただ、鈴仙を抱く腕の力が強まっている。
「てゐ……いつも言ってるでしょう? ちゃんと言わなきゃ、何も分からないって…」
「………………」
 しかし、部屋には沈黙が流れる。
「ねえ……てゐ」
「レイセン様は」
 堪りかねた鈴仙が何か言おうとしたその時、やっとてゐが口を開いた。
「え? あ、ああ……何? てゐ…」
「レイセン様は、私の事、好き?」
「!?」
 鈴仙の胸に顔をうずめながらてゐが言った言葉は、鈴仙を驚かせた。…しかし、ちゃんと答えれば何の問題も無い。鈴仙の答えは、決まっていたから。
「ええ……もちろん、好きよ。てゐ、大好き」
「レイセン様…」
 そう言って、てゐは顔を上げた。
 ―――その瞳が潤んでいる事に、鈴仙は気付いた。泣いているのか、と思ったその矢先。
「レイセン様っ……!」
「んっ……!?」
 突然、てゐが鈴仙の唇を奪った。ただ、それだけだったら鈴仙もそんなに慌てずに、てゐを受け入れるだろう。しかし、ここで鈴仙を予想外の出来事が襲う。
「んぐっ……んっ……」
「んぅっ…!? ふぐっ、う、ん……!」
 てゐが、鈴仙の口内に舌を滑り込ませてきたのだ。その刺激に鈴仙は驚き、思わずてゐから唇を離してしまった。
「なっ……何をするの!? てゐ…!」
「………イヤ、なの? レイセン様……」
「うっ………いや…」
 再びてゐの瞳を見て、鈴仙は逡巡した。叱ろうにも、その目で見つめられると何も言えなくなる自分が、そこにいた。
「……いや、ちょっと…急にてゐがそんな事するから…びっくりしたの。だから別に、イヤ、って訳じゃあ、ないから……」
「…ほんとう?」
「ああ…本当。だから、急にそんな事…しないでね?」
「…うん…」
「だから……今度は、ちゃんと…」
「うん……」
 鈴仙は目を閉じる。そうして少し経った後、唇に柔らかいものが触れる感触…
「んくっ…」
「ぅ、ん……」
 それは、てゐの唇。その柔らかい唇は、しばらく鈴仙の唇を味わった後、その間から温かいものを出現させた。
「はむ、ぅ、ちゅ……」
「んう…は、ん、ちゅっ……」
 それは、てゐの舌。温かいそれが、鈴仙の口内に侵入してくるしかしもう、鈴仙はそれを拒まない。「はあっ……んっ…くっ…」
「ちゅぅっ……んぐ…ん……」
 てゐの舌が、鈴仙の口内を動き回る。ぬめるその感触が何だか堪らなく心地よくて、鈴仙はてゐの好きな様にさせた…いや、好きにさせられていると言った方が正しいのかもしれなかった。何せ、今日のてゐは随分と積極的だったから。
(てゐ……)
 鈴仙は、てゐの口撫に身を委ねながら、この上ない幸せを感じていた。

 ――――――その時。

「んくっ……こくっ……」
「んぐ――――――ぅ…?」
 何かが、喉を通る感触。
「え―――何…? て、ゐ……?」
「………レイセン、様………」
 鈴仙は、てゐに何かを飲まされたという事は分かった。しかし、それが何なのか…何の為にしたのかは、分からなかった。
「何を…したの? てゐ…」
「レイセン、さまぁ……」
「あっ…!?」
 鈴仙の疑問にてゐは答えず、ただ鈴仙を押し倒した。
「レイセン様……レイセン様ぁ……」
 仰向けになった鈴仙の顔を覗き込んで、うわ言の様に鈴仙の名を呼ぶてゐ。
「ちょっ……どうしたの、てゐ…?」
 とにかく鈴仙は、体を押さえつけているてゐの手を振り解こうとして―――しかし、そこで自分の体が思う様に動かせなくなっている事に気付いた。
「え……なに……? どうしたの、これ……」
 普通ならば跳ね除けられるはずのてゐの力も、今は万力の様に感じる。全身の力が抜け、何も出来ない―――
「レイセンさまぁ……好き………大好きぃ……」
「………て………てゐ………」
 てゐのこの行動―――まさか、自分が能力で狂わせたとも思えない。では、一体何故―――そう鈴仙が考えていた矢先。
「!!」
「レイセン、さま……」
 てゐの手が、鈴仙の服に伸びていた。


  *  *  *


 ぷつん、ぷつんとてゐの手によって鈴仙のワイシャツのボタンが外されてゆく。鈴仙は、その様子を見つめる事しか出来なかった。
「や……止めて………てゐ……」
 抗議の声を上げても、てゐは言う事を聞かない。熱にうかされた様な表情で、鈴仙の服を脱がしてゆく。
「レイセン様……きれい…」
「う……ぁ……」
 鈴仙の胸が露わになり、それを見たてゐは嘆息した。大きいとは言わないまでも、その整った形に、てゐは羨望の眼差しを向ける。一方の鈴仙は自分の裸を見られ、恥ずかしくて死にそうだった。
「いいなぁ……たぶん、私よりも大きい…」
「あっ……!」
 てゐの手が、晒された鈴仙の乳房に触れる。その感覚に、鈴仙は思わず声を上げた。
「レイセン様……私の手で、感じて……」
「う、くっ………てゐ……」
 てゐの手が、やわやわと鈴仙の乳房を揉みしだく。周りを擦る様に手を動かしながら、先端の突起に軽く触れ、くにくにと指先で弄る。
「っ、あ……! ん……うぅ……!」
 その手つきは何だか慣れているように思えたが、今の鈴仙にそこまで考える余裕は無かった。初めて味わうその感覚に、否が応にも体は反応していた。
(どうしてっ…!? 体が、熱いっ……!)
 このような経験は初めての鈴仙。なのに、この快感をすんなりと受け入れている自分の体に、鈴仙は疑問を持った。
「あぁっ……! ん、ふぅ……!」
 しかし、その疑問も快感の波に流されてしまう。まともな思考が出来ない。
「はむっ……ちゅっ…んぅ……」
「ひうっ…! あっ、んああぁぁああ……!!」
 そうしている間に、てゐは鈴仙の乳首を口に含み、口内で転がす様に舌で舐る。
「んちゅっ……あは……レイセン様、乳首勃ってるぅ……」
「あふっ……て、ゐ……」
 鈴仙の思考は、てゐの愛撫によって削ぎ落とされていった。体と心が、胸から送られてくる快感の波に支配されていく。
「レイセン様……下も、脱いで……」
「んぁ……」
 だから、てゐの手がスカートに伸ばされた時も抵抗しなかった。とっくに濡れている下半身ももう気にならない。秘部が、ひんやりとした外気に晒され、遂に鈴仙は何も身に着けていない状態になった。
「わぁ……レイセン様、もう濡れてる……」
 鈴仙の秘部を見て、てゐは目を輝かせる。湿ったそこに顔を近付け、ふんふんと匂いを嗅ぎ、口を近付け…
「ちゅっ…」
「!! んひゃぁあああぁぁぁああ!!」
 びくんっ!
 てゐが鈴仙の秘部に口付けた途端、鈴仙の体が跳ねた。
「あは……レイセン様、気持ちよかった…?」
「あ……ふぅ………う…ん……」
 てゐの言葉に、鈴仙は僅かだが頷く。それを見たてゐの顔が、明るくなる。
「よかったぁ……それじゃあもっと、気持ちよくするね…?」
 そう言って、てゐは更に鈴仙の秘部への愛撫を進めた。舌を挿し入れ、中をまんべんなく舐め、溢れ出る愛液を啜り、外襞をくちゅくちゅと噛み、指を使って奥の方をかき回す。
「はうっ! あ、ああぁあぁああん!! やっ、ひっ、んぁああっ、ぁあっ……!!」
「んぐっ……くちゅぅっ……ちゅる…ふぐぅ……ん、レイセンさまぁ……」
 びく、びく、と体が震える度、気付かぬ内に鈴仙は両足でてゐの顔を押さえつけている。てゐはそれに構わず、一心に鈴仙の秘部を舐め続ける。
「んひっ……あっ…てゐ……てゐ……!! 私、もう、何だか……!!」
「ん……レイセン様……イッちゃうの…? いいよ……思いっきり、イッて……?」
 てゐは、鈴仙の濡れきった秘部の上にある突起に舌を這わせる。ぴくぴくと震えるそれは、包皮の上からでも勃起しているのがよく分かった。てゐはそれを器用に剥いて肉芽を露わにし、軽く、歯を立てた。
「!!! あ、んあぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁあああーーーーーー!!!」
 ぷしゅっ!
 大きく体を仰け反らせ、鈴仙は達した。秘部から噴き出した愛液が、てゐの顔を濡らす。
「んぷぁ……はぅ……レイセンさまのおツユ、こんなにイッパイ……」
「ぁ……ぅぁ……んぁぁぁ………」
 てゐが顔を上げると、そこには脱力している鈴仙の姿があった。
「レイセン様……」
 絶頂の余韻を漏らす鈴仙の唇にキスをすると、てゐは静かに部屋から出ていった。


  *  *  *


「あ………」
 鈴仙が目を覚ますと、その部屋には誰も居なかった。あるのは素っ裸の自分と、畳に打ち捨てられた衣服。
「てゐ……」
 ぽつりと、想い人の名を呼ぶ。―――しかし、自分がこんな目に遭ったのは、紛れも無くその想い人の所為だった。
「どうして……」
 いくら考えても、分からない。てゐに、そんな性欲があるなんて思ってもいなかったのに。
 …もしかして、自分の所為かもしれない。いつも、キスだけで済ませ、その先まで行こうとしなかったから。
 本当は、体を重ね合わせたかったのに―――
「て……ゐ……」
 泣きたくなった。しかし、そこでまた自分の体が熱くなっている事に気付いた。
「てゐ…?」
 その名を呼ぶ毎に、動悸が激しくなってゆく。体の奥が―――疼く。
「どう…して……」
 どうしてこの指は、アソコに伸びているんだろう。どうして、この指は胸を触っているんだろう。

 どうして、私は。

「あっ……んっ……」

 自らを慰めてみても、脳裏に浮かぶのは彼女の姿だけだった―――


  *  *  *


「~~~♪ ~~~♪」
 鼻歌混じりに軽快に廊下を歩く音。てゐは顔に満面の笑みを浮かべながら廊下を歩いていた。
「あら……てゐ、どうしたの?」
「あっ、永琳様っ!」
 そこでてゐは、永琳にばったり出会った。
「何だかとっても嬉しそうね。何かいい事あったの?」
「はい! あの、レイセン様と―――」
「ストップ。…その話は、夜になったら私の部屋でじっくり聞かせてくれるかしら?」
「……はい!」
 てゐは勢いよくお辞儀をして、永琳の横を駆け抜けていった。
「………………」
 ふと、外を見やる永琳。

 一陣の強い風がざわざわと竹林を揺らし、雲を流して月光を遮っていた。










  続く













<後書きだけど続く>

 という訳で(?)続きます。永夜抄キャラ初書きです。うさぎかわいいよかわいいようさぎ。

 このお話は、柚子桃氏とネタを出し合って作っています。
 ああ、恐らく純愛路線にはなりません(何

 そう言えば、小学校の頃飼育委員でうさぎ飼ってたなぁ(続く


 書き続ける人:謎のザコ
 共犯者:柚子桃氏


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (1796d)