注意 読んでみて自分に合わない内容だったら忘れる!
   忘れられない人は読まない!
   上を満足しててもお子様は読んじゃ駄目!
   いや、そんなにキツイのを書いたつもりはありませんが。
   …あと、あまりエロくないです。申し訳ない。









「129対167、勝者、紅美鈴!」

 おおぉぉぉぉぉぉぉ…
 会場が沸き立つ。
 拍手をする者、踊る者、がっくりと肩を落とす者、畜生酒だ酒持ってこいなどと叫ぶ者、様々である。

「や、やった…勝ったぁ!」
「ふぅ…負けたか…」

 そんな中、ステージの上の二人の反応もまた、それぞれであった。
 だが、余韻にひたる間もなく、二人はステージを追い出される。
 何せ、次の試合はもう数十分後に控えているのだ。
 過ぎてしまえば何事も無かったかのように、あっさりと一つの試合が終わった。








「藍様…負けちゃったね…」
「ああ、負けたな」
 藍と橙は同じ控え室を使っていた。橙がそう望んだためである。
 ちなみに紫は、スキマを通って自室で寝泊りしていたので、控え室自体が必要無かった。
「普通に戦ったら、藍様の方が絶対強いのに…」
「そうかもしれないな。だが、橙」
「何?」

「どんな方法であれ、勝負は勝負。それを受けた以上、勝ちは勝ち、負けは負け、だ」

「しゅん…」
「しっかりしないか。次はお前の試合だろう?」
「うん。私、藍様の分も頑張ってくるから!」
「ああ、しっかりな。それから、残念だが私はお前の試合を応援してやれないんだ…」
「えっ、どうして?」
「ちょっと大事な用事があって出かけなきゃならない。1日ぐらい帰って来れないかも知れないから、明日は一人で寝てくれ」
「そうなの、残念…」

「日程が続いてなければ良かったんだけどな」

 …本当に、良かったのだろうか?
 むしろ、この日程だった事が幸いしたのでは無いのか?

「じゃあ、行ってきます、藍様!」
「ああ、行って来い!」



 ばたん。



「そう、負けは負け…だ」
 橙が去った部屋の中、藍は一人、そうつぶやいた。
「ともかく、寝ておくか…」
 明かりを消すと、既に24時間以上起きていた藍の意識は、早々と闇に沈んで行った。



______________________________________________



 翌日、正午を待たずして、部屋を出た。
 向かう先は、昨日の対戦相手、紅美鈴の控え室である。

 こんこん。

「は~い…あら?」
 扉を開き、美鈴が顔を出した。
「お早いお着きですね」
「早いほうがいいさ…」
「まあまあ、どうぞ入ってください」

 美鈴の控え室は、特に藍のそれとと代わり映えはしなかったが、
 備え付けの棚の上には、本人の趣味だろう、中国茶を淹れるための一式が置いてあった。
「お茶、淹れますから、掛けて待っててください」
「あ、これはどうも…」
 程なくして、湯呑みが二つ、テーブルに並んだ。


「…24時間、よろしく頼む」


 裏最萌、と呼ばれる、最萌トーナメントのもう一つの顔。
 負けた者は、24時間、勝った者の言う事を何でも聞かねばならない。
 勿論、命を奪うような命令や、辺りにも被害を撒き散らすような結果を招くものは御法度ではあるが…
 大抵の場合、敗者には恥辱と屈辱の24時間が待っている。
 

「そんなに固くならないで下さい。まずはお茶をどうぞ」
「あ、ああ、いただきます」

「どうですか?」
「…美味い」
 美鈴がにっこりと微笑む。
「そう、お口に合って良かったです。お茶受けもありますよ」
「では有難く…じゃなくて!」
「はい?」

 一瞬の沈黙。

「…その、私は…何を、されるんだ? 何をすればいいんだ?」

 もう一度、一瞬の沈黙。

「…ああ、その事ですか」
 重苦しい雰囲気の藍に対して、美鈴はさらりと答える。
「私、乱暴なのは好きじゃないんですよ」
「へ?」
 いささか間の抜けた声で、藍が返す。


「咲夜さんの事もありますし…」
「咲夜…ああ、あのメイドか。あれは酷かったな…」



 最萌一回戦第一試合。
 まさかの大番狂わせでリリーに負けた咲夜は、犬としてリリーに飼われる事になった。
 悪夢の24時間の後、咲夜の精神はボロボロになってしまっていた。
 特に、味方だと思っていたレミリアが、リリーと一緒になって咲夜を苛めた事がこたえたらしい。
 しばらくはレミリアを見るたび逃げ出すわ泣き出すわで大変だった。
 流石にレミリアもやりすぎたと思ったらしく、その後の紅魔館メンバー全員の努力によって精神を回復してはいたのだが…



 部屋の空気が一気に沈む。
 それを振り払うように、努めて明るく、美鈴が切り出した。
「それじゃ、お茶でも飲みながら、お話でも聞かせてくれませんか?」
「話?」
「ええ。マヨイガって所の話とか、貴方のご主人様や、あの可愛い式神の話とか。
 私、いつも門番だから、あまり人と話をする機会って無いんですよ」
「…そんな事でいいのか?」
「ええ」

 ほっ、と藍は小さな安堵のため息をついた。
「そうだな、じゃあ何から話そうか…」


________________________________________________


 それから経つこと数時間。
 二人は時間も忘れて談笑していた。
 マヨイガの話。紅魔館の話。紫の話。レミリアの話。紅白や白黒と戦った時の話などなど。


「…で、どうしてもって言うから憑けてやったんだが、案の定力を制御できなくてな。
 家中飛び跳ねて暴れ回ったさ。自分から風呂に飛び込んで式が落ちたから、被害は少なかったけどな」

 
 そして今は、橙の話で盛り上がっていた。

「本当に、橙ちゃんの事が好きなんですね」
「ああ、私にとっては…娘と言おうか妹と言おうか…とにかく何者にも代え難い存在だ」
「…あまりに可愛いから、実はもう『食べちゃった』とか?」

 ぼっ。藍の顔が赤くなる。

「なっ、何を言う! そんな事をするものか!」
「じゃあ、あの子の事を想って、毎晩自分で慰めたりとか…」
「しないしない!」
 声を大にして否定する。
 事実、藍は今までそのような目で橙を見た事は無かった。
「ふふふ、冗談ですよ」
「全く、からかうのはやめてくれ…」

「…本当に、そんな事しちゃ駄目ですよ?」
「しないってばっ!」

「それに、しっかりついていてあげないと、ひょっとしたら外でえっちな事を覚えて帰ってくるかも…」
「それは…無い、と思うな…」

 それよりも紫様の方が心配だ、と藍は思った。
 特に酒でも入っていようものなら本気でやりかねない。
 大体、普段からして何を考えているのか分からないからなあの人は…寝てばっかりだし。

「無防備に空を飛んでると、悪い野良紅白とかに手篭めにされるかも…」
「それは…うーん、だんだん心配になって来た…」


________________________________________________



「………………うん…?」
 気がつくと、藍は椅子に座ったまま眠っていた。
 体には毛布がかけられている。

「あ、起きました?」

 美鈴の声で、はっきりと目が覚める。

「私は…寝てたのか?」
「ええ。私がお茶のお代わりを淹れて来たら、うとうとしてましたから…」
「それで毛布を…ありがとう、とんだ迷惑をかけた」
「いえ…お互い、昨日は疲れましたからね」

 藍は、ずいぶん長い間寝ていたような気がした。

「私は…どれくらい寝ていたんだ?」
「結構寝てましたよ。もう夜です」
「そんなに…」

 ゆっくりと立ち上がる。
 椅子で寝ていたせいか、体がだるい。頭も何だかぼーっとしている。

「ずいぶん長い間お邪魔してしまった。そろそろお暇する…って、それは私の決める事じゃ無かったな」
 当然、まだ24時間は過ぎていない。
「私ならもういいですよ。部屋に帰ってちゃんとお布団で寝てください」
「ありがとう…そうするよ」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ…」


 部屋に戻ると、藍は布団に潜り込んでさっさと寝てしまった。


_________________________________________________


 藍が目を覚ますと、もう夜中だった。

「そうだ、橙はどうなった?」

 24時間は帰れないと思い込んでいたのと、眠気のため、藍は橙の試合の事をすっかり忘れていた。
 急ぎ服を整え、会場へと向かう。


 藍が会場に到着したのは、既に投票が終わり、皆が今か今かと結果の発表を待っている時であった。
 ステージの上には、不安げな可愛い自分の式神と、大して緊張もしていない様子の、対戦相手である宵闇の妖怪。
 藍は橙に向かって手を振ってみたが、群集のせいで橙は気付いていない様子だった。

「結果発表!!」

 その時、司会者の声がした。会場がしんと静まり返る。

「158対115、勝者、ルーミア!」

 わぁぁぁぁぁぁ…
 橙たーん! ルーミアたんハァハァ! ひゅーひゅー! えーい今日もかよおやじ酒だ酒!


「負けたのか…」
 これで八雲一家は全滅となってしまった。もっとも、紫様が真っ先に負けているので別段叱責も無かろうが。
 それに、相手が相手だけに、愛する橙があまり酷い目に遭わずに済みそうなのがまだ幸いだった。




 先に藍が部屋に戻っていると、橙が帰って来た。
「あれ、藍様?」
「お帰り、橙。…残念だったな」
「ごめんね藍様…負けちゃった」
「お前は良く頑張ったさ。…疲れただろう、今日はもう寝よう」
「うん…」


_______________________________________________


 橙は藍と一緒の布団に入ってまもなく、すやすやと寝息をたてはじめた。
 だが、さっきまで寝ていた藍は流石に眠れない。
「藍さまぁ…」
 橙が寝言で藍の名を呼ぶ。
 どきどきどき。
 さっきから橙の寝顔が可愛らしくて仕方が無い。
 
 あれだ。
 昼間、あの女が変な事を言い出すからだ。
 何だか橙の事が妙に気になるじゃないか。

 抱き寄せようと、橙の背中に手を回す。

 …っと、いかんいかん。何を考えてるんだ私は。

 ああ、でも、こうして改めて見ると何と可愛いのだろうこの子は。
 思わずその額にキス…

 …だめだだめだ。何をしている。

「………」

 そっと手を自分の胸に…

 って、何をしている私!

 

 しばらくそんな調子で悶々としていた藍であったが、葛藤はどんどん大きくなるばかり。
 ここに来て藍は、はっきりと思い知らされた。

(私は…橙に、欲情している!)

 私は何と情けないご主人様なのだろう。自分の式神に欲情するなど、最低だ。

 だがしかし、一度火が付いた想いは消える事は無く、藍を悩ませる。

 ともかく、このままではいけない。橙から離れよう。

 藍は、橙を起こさない様に、そっと布団を抜け出し、部屋を出た。

 
 
「夜風にでも当たりに行くか…」

 藍は外に出た。今日は試合も無いため、会場の喧騒も無く、静かである。
 秋の風がさらりと頬を撫でる。

 と、その時、藍のそばの地面を何かが走った。
 見ると、それは一匹の黒猫であった。
 黒猫は藍を一瞥すると、草むらの中へと消えて行った。

「橙……そうだ、橙には、私がついていてやらねば」

 藍はそう言うと、自分の部屋へと戻って行った。


______________________________________________


 布団に入る。
 橙の顔が目に入る。
 途端、熱くなる身体。
 橙に手を伸ばし、思いとどまる。
 自分を慰めようとし、また思いとどまる。
 これではいかんと部屋を出て、思いとどまり、引き返す。
 布団に入る。橙を見て、疼く身体。


 それを何度か繰り返した頃、藍はようやく気が付いた。
 橙に手を出すまいとするのも、自慰を止めようとするのも、『自制心』などでは無い事に。
 事実、藍の身体は既に火照りきっており、橙に手を出す事は避けるにしても、
 自慰を抑するまでの意志は既に無かった。

 となれば、出てくる結論は一つ。

「あの女、何かやったな…!」

 藍は、今度こそ戻って来るまいと固く誓って、部屋を出た。


__________________________________________


 目指す先は、美鈴の部屋。
 身体が、心が、警鐘を鳴らし、戻る様に促す。
(駄目ですよ)
 あの女…美鈴の声が頭に響く。
(貴方が、ちゃんとついていてあげないと)
「うるさいっ………!!」
 それらを残された意志で必死に抑え、時に這いつくばり、時に柱にすがりながら進む。


 どれくらいかかったのか、ようやく美鈴の部屋の前までたどり着く。
 昼間数分でたどり着いたそこは、今は一里の道のりにも感じた。
 どんどんとドアを叩く。

「ふぁ~い…あら、こんばんは」
 寝間着姿の美鈴が顔を出す。

「何を…した…?」
 だらだらと汗を流しつつ、必死の形相で藍が尋ねる。

「とりあえず、中へどうぞ…」
 言う事を聞かない足を引きずりつつ、藍は部屋の中へ入った。



「私に、何をしたっ…!」
 部屋に入るなり、藍が尋ねた。
「何の話ですか?」
「とぼけるなっ…!」
 その時、美鈴が一枚の紙を藍に見せた。
 それは、橙の似顔絵だった。美鈴が描いたものだろうか。結構良く描けている。
 見た瞬間、藍の心臓が一回り速くなる。
「…あらあら、あの子に欲情しちゃったんですか?」
「くっ…」
 美鈴が、藍の上着をぺろりとめくる。
「うわ…凄い」
 そこにはすでに大きな染みがあった。
「やめろ…見るな…」
 藍が美鈴を押し返す。
「もうこんなになってるなら、自分ですればいいじゃないですか」
「それが出来たらっ…」
 とっくにやってる、と言いかけて、藍は口をつぐんだ。顔がますます紅潮する。
「我慢は身体に悪いですよ?」
「誰のせいだと…」

 ぽふっ

 美鈴の両手が、藍の双胸の上に乗せられる。
「あふっ…」
 そのまま、服の上からふにふにと揉む。
「んっ、んんっ、っふぅ、はぁぁ…」

 すっ…と、美鈴の手が胸から離れる。

「ぁ…」
 藍の口から漏れる、切ない声。
 もっと触って欲しい。
 この疼きを、火照る体を、沈めて欲しい。
 自分の手を、胸へ持って行く。

 だがその手は、胸へと到達する事無く引き返した。

「くぁ…ぁ…」
 もう、限界だった。
「も、もっと…触って…いかせて…お願いっ…!」
「はい、分かりました」

 藍は少しだけほっとした。
 もしこのまま追い返されたら、この見えない拘束を引き千切って橙を襲うか、気が狂ってしまっていただろう。

「では、服を脱いで下さいね」
 何も言わず、さっさと服を脱ぎ、素っ裸になる。
 びっしょりと濡れた内股が外気に触れて、ひんやりと冷たかった。
「隠しちゃ駄目ですよ…」
 おずおずと、手を後ろに持って行く。
 自分からねだっておいて恥も何も無いが、やはり恥ずかしい物は恥ずかしかった。
「こんなに濡れてる…」
 美鈴の手が、藍の秘所へと伸びる。
 ぬるりと温かい液体が美鈴の手を濡らし、滴る。
 そのままゆっくりと手を前後させる。
「う、うあっ、くぅぅぅ…」
 藍の長身が、がくがくと震える。膝が抜け、美鈴に向かって倒れ込む。
 美鈴は藍を抱きとめると、ベッドに連れて行った。


 
 藍を仰向けに寝かせる。
 尻尾のせいで腰が浮くのが、妙にいやらしい。
 今度は、やわやわと胸を撫でさする。
「う、うぅっ、くぅぅ……」
 藍は自分の指を噛み、声を殺す。
 美鈴は一旦手を止め、藍の口から指を外した。
「イきたいんでしょう? だったら、我慢しちゃ駄目です」

 そうだ。
 もうここまで来て、我慢する必要はない。

 藍の身体から力が抜けるのを確認すると、美鈴が本格的な愛撫を開始した。
「あああぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 何時間も生殺しに遭っていた身体が、待ち望んでいた快楽を、最大限に受け止める。
「すっ、凄っぃぁああああああああっ!!」
 早くも達する藍。
 だが、身体の疼きはこれぐらいでは静まらない。美鈴も手を休めない。
 片手は秘部をまさぐりつつ、もう片方の手で藍の豊かな胸を責める。
 握り潰すように力いっぱい揉み上げ、乳首をつねり、ぐりぐりと押し込む。
「はううっ! はっ、はっあああ!!」
 また、達する。

「も、もっとぉ、もっとしてぇ…お願い…」

 普段の藍からは想像もできない、ひどく甘えた声で更なる愛撫をねだる。
 分かっていると言わんばかりに、美鈴の指が藍の膣穴に指し入れられ、中をほじくる。
「おぅっ! ふぁ、あ、もうちょっと、奥…」
 美鈴の指を、自らの弱点へと案内する。
 美鈴は黙ってそれに従う。
「も、もうちょっと右ぃ…」
「ここですか?」
 がりっ。
 美鈴の爪が、快楽のぱんぱんに詰まった水風船を、破る。

「うあああああああああああああああぁっっっっ!!!!!!!!!!」
 
 藍は弾けた快楽の海に沈み、果てた。
 秘穴から噴き出す愛液と、その少し上の小さな穴から漏れ出した黄金色の液体が、美鈴の寝間着を汚した…



______________________________________________________



 藍が行為の余韻に浸ってぐったりしている間に、美鈴は着替えを済ませ、後始末を終わらせた。
「私ももう寝ますから…そろそろ引き取ってもらえませんか?」
 そう言って、美鈴が藍の服を渡す。

 それを聞いて、藍は自分がここに来た当初の目的を思い出した。
「た、頼む! 教えてくれ! 一体、私に何をしたんだ?」
「…とりあえず、服を着てください」
 
 藍が着替えている間に、美鈴が答えた。
「薬品と呪いと催眠術の併用です。
 単純な呪いや催眠術なんかだと、貴方の力なら自力で解除してしまうかも知れませんから。
 一つは、あの子に欲情するように。
 一つは、あの子に手を出さないように。
 一つは、自分を慰めないように。
 そして一つは、あの子から離れないように、です。これは弱めにしてありますけどね」

 概ね予想していた答えではあったが、藍は激しく打ちひしがれた。
 何と辛い仕打ちだろう。これならば身体を明け渡した方がまだましと言うものだ。

「…解いて…くれないか?」

 馬鹿な質問をしたものだ。答えは分かり切っているのに。

「解除する『鍵』なら、教えてあげますよ」

 だが、美鈴の返答は予想外のものだった。
「本当か!? 教えてくれ、どうすればいいんだ?」
 美鈴は一呼吸置くと、告げた。




「あの子の式神契約を解いて、無に返す事。これが解除の『鍵』です」




 …何?
 今、何と言った?


「今何と言った!! もう一度言ってみろ!!!」
 逆上した藍が、美鈴の胸ぐらを掴む。

「…24時間、追加しますか?」
「うぐ……」
 藍が手を離す。反対側の拳が、ぶるぶると震えている。
 これも規則。敗者が勝者の命令に著しく背いたり、勝者に対して危害を加えた場合、その度に24時間の延長が認められる。

 藍はそれ以上何も言わず、とぼとぼと自分の部屋に帰って行った。


_____________________________________________________



 部屋に戻ってきた藍を待っていたのは、天使の如き橙の寝顔と、外見では誰も分からない精神の地獄だった。
 行き場の無い感情の無限ループ。
 唯一の収穫、この忌まわしい見えざる鎖を解く方法も、藍の逃げ道を閉ざしただけに過ぎなかった。
 自害すら頭をよぎったが、一瞬で却下された。
 私が死んでは、橙が悲しむ。それでは意味が無い。
 藍に出来た事は、ただ床に這いつくばり、のたうち回る事だけだった。

 だが、その道すらも閉ざされる。

 永劫とも思えた夜が明け、朝がやって来たからだ。

「ん…おはよ…らんさま…」
 橙が目を覚ます。
 眠い目を擦るその仕草は、藍で無くとも抱きしめたくなるような愛らしさだ。
 しかし、その愛らしさは今、そっくり鋭い刃となって、藍の心に突き立てられる。

「ああ、起きたか。おはよう、橙」
「ふぁ…」
「朝食にするから、顔を洗って来い」
「はーい…」

 どこにそんな精神力が残っているのか。
 藍は平静を装い、朝食の用意をして、橙と一緒に朝食を済ませた。


「ねぇ藍様、どこかへ遊びに行こうよ」
「うん…?」

 それはまずい。いつ限界が来るかも知れない状況で、人前に出るのは避けねば。

「いや…今日はやめておこう。その代わり私が遊んでやるから」
「うーん、じゃあ、何して遊ぼうか…あっ」
 その時、橙が湯呑みを引っ掛けて倒してしまった。
 残っていたお茶が流れ、藍の服にこぼれる。
「ご、ごめんなさい藍様っ」
 橙はタオルを持ってくると、藍の服にこぼれたお茶を拭き始めた。

 その時、藍はひらめいた。
 自分にかかっている拘束は、橙に手を出さない事と、自分を慰めない事。
 ならば、『橙に慰めてもらう』のは、この条件に引っ掛からない…?

「ち、橙…」
「なぁに、藍様?」
「私を…」


 ぐちっ。


 藍は自分の舌を噛んだ。その先を言わない為に。
 口の端から、血がつぅ…と流れる。

「ら、藍様っ!? 口から血が出てるよっ?」
「あ、ああ、大丈夫だ、何でも無い…」
「本当に…?」
 橙が持っていたタオルで、藍の血をぬぐう。
 橙の顔が間近に近づく。
 藍の身体が、心が、オーバーヒートする。もう限界だった。

「うわぁっ!!」
 橙を突き飛ばす。

「痛っ! 何するの藍さ…ま?」

 橙が見たものは、荒い息をつき、身体を折り曲げ、胸をかきむしり、頭を抱えてうめく藍の姿だった。

「藍様っ!? 藍様っ! どうしたのっ!?」
「うっ…うぁぁ…ぐ…ぎ…!」
「ゆ、紫様を呼んでくるから!」
 橙がそう言って駆け出す。
「まっ、待て橙!」
 藍がそれを制止する。
「誰にも言わないでくれ。言った所でどうなる物でもない…」
「で、でも…」

「どこにも行かないでくれ…一緒に居てくれ…橙」

 藍にとって、最早橙だけが、唯一の支えであった。




「うあーっ! がっ! ぐぅ…!!」
「藍様、藍様ぁ…」

 踏みつけられた百足が如くのたうち回り、自らの頭を柱にがんがんとぶつけ、もがき苦しむ藍。
 何も出来ず、泣きべそをかきながら、ただただ苦しむ藍を見ている事しかできない橙。

「橙…!」
 残された僅かな力をかき集め、藍が橙に話しかける。

「泣くんじゃない…見ておけ、私の…情けない姿を…よく見ておけ!
 これが、負けるという事だ。勝負に負けるとは、こういう事だ…!」

「藍様…」

 それを最後に、藍は言葉らしい言葉を発しなくなった。


_________________________________________________



 二人にとって、永劫とも思える時間が続いた。

 が、ふと藍が立ち上がり、ふらふらと橙に近づくと、その両肩に手を置いた。嫌に目が座っている。
「藍様…?」
 がくがくと身体を震わせつつ、藍がしばらくぶりにまともな言葉を話す。
「橙、今まで、今まで、ありがとう、橙…」
「藍…様…?」
「う…ぐ…この…」
 藍が俯く。橙の肩に置かれた手に力が込められ、痛いぐらいに橙の肩を握る。
「藍様っ! しっかりして藍様っ! 藍様っ!!」
 橙は、ひたすらに、ただ一人の、大切なご主人様の名を、呼びつづけた。



 藍にはもう、何も見えていなかった。心身を焼き尽くすような苦しみも、感覚が麻痺したかのように感じなくなっていた。
 ただ、橙が自分を呼ぶ声だけが聞こえていた。
 その声も、だんだん、だんだん小さくなっていく…
 


 済まない、橙。私は、駄目な、ご主人様、だ………









 どす。










 藍がはっと顔を上げる。
 何時の間にか部屋に入っていた美鈴が、藍の背中の一点を指で突いたのだ。
 藍の身体で暴れ回っていた熱がすっと冷め、見えない鎖が音も無く砕けて、消えた。

「24時間です。お疲れ様でした」

 美鈴は藍にそう囁くと、部屋を出て行った。


「橙…」
「藍様…」

 藍ががばっと橙に抱きつく。

「橙、橙! ごめんな、橙、ごめんな…」
 藍は泣いた。力いっぱい橙を抱きしめて、泣いた。
「藍様…」
 あまりに藍が強く抱きしめるものだから、橙はちょっぴり痛かった。
 でも、何も言わなかった。良く分からないけど、泣いた。


______________________________________________



「随分と甘いのね…」
 自室の前まで戻ってきた美鈴に話し掛けてきたのは、咲夜だった。
「咲夜さん…?」
「お喋りなんてしてないで、さっさと術をかけてしまえばいいし、
 部屋まで訪ねて来たって、追い返せばいいだけじゃない。
 わざわざ貴方が慰めてやる必要なんて無い。違うかしら?」

「…乱暴なのは、好きじゃ無いんです」

「…だったら、お喋りだけしてハイお終い、で良いんじゃないの?」
「でもそれだと」

 美鈴が咲夜の方に向き直る。

「咲夜さんに…申し訳無いじゃ無いですか。負けたからには、それなりに苦しんで貰わないと」
「……」

 ぽふ。

 咲夜が、ふらりと美鈴の胸に倒れ込む。

「…咲夜さん?」
「……」

 咲夜は、美鈴の胸に顔をうずめたまま。その肩が、僅かに震えている。

「泣いて…いるんですか?」
「……」

 ああ、そうか。
 咲夜さんのココロは、まだ、回復しきってはいないのだ。


 美鈴はそっと、咲夜を抱きしめた。






 明日からは、2回戦が始まる。





 おしまい




__________________________________________________


 あとがき

 最後まで読んでくれた人。さんきゅーべりーまっち。
 本文読まずにあとがきだけ読んでる人、はんたいのさんせい。

 とまあ、裏最萌ネタな訳ですが。
 『罰』ゲームである事を優先した結果、全然エロく無くなってしまいました。だめだこりゃ。
 私はろくに本も読まないので、ボキャブラリが足りてませんね。精進します。

 美鈴が催眠術?と思われたかも知れません。
 まあこれは私の脳内設定でして、美鈴の『気を操る程度の能力』ってのを拡大解釈して、
 魔法などによらず身体に関わる事全般に通じていると言うイメージで受けとっています。
 武術、水泳、応急手当、整体等に加えて催眠術も、といった感じです。


 ちまちまと、裏最萌の空いてる枠でも埋めて行こうかと思ってます。

 …でも、その前に単位を下さい(涙)


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2272d)