書いた人:オサキ狐
 
 今回は、小悪魔×パチュリーです。
 若干というか、自分の東方怪綺談の私設定&小悪魔設定が入っておりますので、読み手によっては不愉快極まりないかもしれません。ネチョの方も前回同様控えめなので、それらの点を許せるという方はどうぞ拝読してくださいませ。

 ちなみに話は怪綺談後(あるキャラ一人の名前以外は特に本編を暴露したものではないかと)と紅魔郷4面終了時までのなぞり?っぽい感じのものです。

 自分の脳内設定が大きくウェイトを締めているのをご容赦ください(汗

















  かつて魔界の創造神であらせられる神綺様は人間界を滅ぼそうとされました。
 目的は神綺様が人間界を席捲すること。
 それにはまず幻想郷を囲んでいる博麗大結界を破る必要がありました。博麗大結界はちょうど魔界への扉をも封印しておりましたので、人間界に出向くためには避けて通れない道だったのです。この幻想郷を覆い尽くすほどの強大な結界を築いたのは代々より幻想郷にある博麗神社の者であると決まっておりました。
 神綺様はまずそこに目を付けられ、日夜魔界の者を送り込んでは博麗家の人間を始末しようとなさったのです。
 しかし、度重なる魔界の者との戦いによって、博麗家の人間は少しずつ少しずつ力をつけてきたのでした。神綺様もこれには大きく狼狽しました、人間には無限に、如何様にでも成長し得るという可能性を秘めていたからです。
 これ以上無駄な戦力を博麗へ投入することは得策ではありませんでした。そこで、神綺様はいずれせざるを得なかった魔界と幻想郷との全面戦争を行うことをついに決意されたのです。
 非常に多くの血が流れました。魔界と幻想郷の骨肉の争いは幾夜にも及びました。多くの魔界人は博麗の手によって封印されていったのです。
 そして、神綺様にとっても予想外だったことは人間界の神を自称する者もこの争いに参加していたことです。魔界の一層、二層を守護することを義務付けられた魔界きっての精鋭もこの自称人間界の神の前にことごとく倒されていきました。
 徐々に、徐々に魔界側は押されていきました。三層を牛耳っていた魔女すらも博麗の前には敵ではありませんでした。そうして、四層、五層と続けざまに突破される様を見て、私はもう魔界の終わりが近いということを感じ取ったのです。
 私は五層で懸命に博麗と自称神を止めるために戦いましたが、成す術も無く倒されました。運のよいことに封印こそされませんでしたが、私は直に魔界が崩壊を向かえる光景を目の当たりにすることになったのです。
 
 ―――つまりそれは、神綺様が倒されてしまったことを意味するものでした。


 *


 幻想郷にある紅魔館の図書管理人室の中で、知識と日陰の少女と字されるパチュリー・ノーレッジは頭を悩ませていた。ただでさえ多い蔵書が、此度見つけてしまった隠し部屋によってまた膨大に増えることになるからだった。
 積もった埃の量は尋常ではなく、足跡など影も形も見えない。恐らくは現紅魔館主の先々代を遥かに遡るほど昔から誰も足を踏み入れていないのだろう。
 ここにはまだ私の知らない知識が山のように死蔵されているようだ、とパチュリーは思う。そう思うと、もうこの未知の空間に足を踏み入らずにはいられなかったが、彼女はこの大量の埃が舞い上がる様を想像して難色を示した。彼女は喘息持ちだからである。
 「弱ったわね、今日に限って咲夜は留守だし。…でも、中の本を読んでみたいわ」
 咲夜なら時間を止めて埃が舞わないように掃除をすることが出来るのに、とこのときパチュリーは考えていた。しかし、いないものはいないのですぐに諦める。明日まで待てば咲夜も紅魔館に戻ってすぐにパチュリーの言いつけ通りに動いてくれるであろうが、書痴である彼女はどうしても明日まで待つということが出来なかった。
 「…仕方ない、あれをやってみるしかないわね」
 パチュリーはいそいそとお気に入りの本だけをピックアップしてある本棚からとある一冊の本を取り出した。

 ―――悪魔召喚全書―――

 と書いてある如何にもおどろおどろしい本だった。おまけに装丁も薄気味悪い。
 「え~っと、どこだったかしら」
 パチュリーは目を細めて目的のページを探す。十数秒ほどページを繰っているとやがてパチュリーの目的とするページが見つかった。内容は使い魔を召喚することについて書かれていた。
 「よしっ、これだわ。やりかたは―――」
 使い魔召喚のページに倣って、パチュリーは召喚の儀式に当たっての準備を始める。部屋中央のテーブルと椅子を隅に片して、燭台の灯りを消すだけで十分に事足りた。
 準備が整うと、さっそくパチュリーは己が魔力で部屋の中央に六芒星の魔方陣を拵える。青白い光を放つ魔方陣だった。パチュリーの顔がぼぅっと明かりに照らされる。
 それから、パチュリーは使い魔召喚の呪文の詠唱を始める。魔術の素人には理解し得ない難解な言語をパチュリーは操っていた。
 
 ………

 呪文詠唱後のほんのちょっとの静寂の後、やがて魔方陣の中央から女性型の紅い髪を持つ悪魔が出現した。頭に小さな羽が生えた、パチュリーより少し背が低いという感じの姿をしていた。
 悪魔というよりかは小悪魔といった方がしっくりくる感じである。最初は目を閉じた状態でパチュリーの前に現れたが、召喚が完全に成功し、魔方陣が消える頃には完全にその眼は開いていた。髪同様に燃えるような紅い目をしていた。
 再び燭台に魔法で火を燈しながらパチュリーは言う。
 「…こんばんわ、私はパチュリー・ノーレッジ。あなたの主人、マスターよ。分かる?」
 にこりと微笑み、紅い小さな悪魔は答える。
 「…はい、マスター。私はあなたに呼ばれてここへ来ました」
 初めての召喚魔法に一発で成功したことにパチュリーはほっと胸を撫で下ろした。知識が活かされたときほど喜ばしいことはない。それに容貌といい、言葉遣いといい中々従順そうな悪魔が召喚されてきてよかったとパチュリーは思う。無骨だったり、如何にも悪魔といった風情のものは自分の使い魔として手元に置いておきたくなかったからだ。
 「さっそくだけど働いてもらいたいの。そこからいける部屋に私がまだ見たことも聞いたこともない知識が眠っている可能性があるの。でも、私は喘息持ちだから埃塗れになるわけにはいかなくて。だからあなたにそこの掃除と蔵書の整理をお願いしたいの、そのために呼んだのよ」
 パチュリーの気分はうきうきとしていた。これでやっとお目当ての書物にありつけるからである。
 だが、そのまま言う通りにことが運ぶかと思っていたパチュリーであったが、小悪魔の次の返答で脆くもそれは打ち崩されることになったのである。
 「…はい。それは……かしこまりました。…が、まだ契約が済んでおりません」
 「契約……って、まさか…」
 パチュリーはよもやと思って、使い魔召喚のページを凝視した。
 すると、確かに小悪魔の言う契約に関することが記述されているではないか。パチュリーは思わずあちゃあと頭をおさえた。

 ―――契約の内容は体液の交換。すなわちそれは情交を意味していたからである


 *


 名前を与えられるということは魔界においてもっとも名誉のあることだった。
 神綺様はよほどの力を持つ者にしか名前を与えない。名前を与えられなかった者は神綺様へお目通りを許されることは無かった。私には名前が与えられなかったけれど、いつかは神綺様の眼鏡に適うくらいの力を得て、神綺様から名前を授かりたいと熱望していた。
 
 でも、私のその望みはついぞ叶えられることは無かった。あの日、魔界が滅びてしまったときを境にして神綺様は魔界の六層以降、普通の魔界人には立ち入ることさえ出来ない場所で無期限の眠りにつかれたのだ。

 私たち魔界人は主を失ってしまった。だからもう名前を得られるチャンスは私が生きている間に訪れないのではないかと思った。でも、そう思っていた矢先に私に名前を得られるチャンスが訪れた。誰かが魔界に召喚術を用いて使い魔になってくれる者を探していたのである。すでに私の主は神綺様ではなくなっていたので、私はこの求めに応じることにした。

 召喚術を扱っていたのはパチュリー・ノーレッジと名乗る少女だった。少女というのは外見だけの判断だったが、恐らく数十年を超える年月を生きている魔女だと魔界人の直感で分かった。

 私は期待に胸が膨らんだ。今度こそは私にも名前が得られるかもしれないと。


 *


 パチュリーはにわかに後悔していた。いくら本のためとはいえ、喚び出したばかりの名も知らぬ悪魔と情交を結ばなければならないのである。パチュリーは使い魔を喚ぶことだけに気を取られ過ぎてしまい、肝心の悪魔と契約を取り交わす事柄については完全に意識から飛んでいた。
 ついでパチュリーは己が知識と日陰の少女と呼ばれていることを恥らった。何が知識と日陰の少女であろうか、こんな些細なヘマをするようではただの日陰の少女ではないか。少し自分を過信しすぎていやしなかったかと、パチュリーは思う。
 しかし、そうは思うものの彼女にも魔女としてのプライドがあった。まさかここで、そんなことをするなんて夢にも思っておりませんでしたのでどうぞお引き取りください、などとは口が裂けても言えぬ。彼女は半ばヤケッパチといった風に小悪魔に言う。
 「…あら、いけない。…いいわ、さっそく契りを結びましょう」
 「…はい、それではどのようにいたしましょう?」
 「そうね…一番手っ取り早く済むようにしてくれるかしら? 残念だけど快楽を楽しむゆとりも体力も私にはないのよ…」
 これは嘘ではない。パチュリーは肉体的な快楽を得ることよりも、本を読んで知識を得ることの方が遥かに快楽を見出せるからだ。そして実際に病弱なので体力も無かった。
 「…承知いたしました。それではもっともマスターの体に負担がかからぬ方法で契約を取り交わさせていただきます」
 言うなり、小悪魔はパチュリーを抱き寄せて唇を塞いだ。それもただ塞ぐだけでなく、小悪魔は舌をパチュリーの口腔内に侵入させたのだった。突然のことだったのでパチュリーも慌てた。
 「…んんっ…んーん………ふぅ」
 舌を入れられたすぐは初めてのことで気持ち悪いと思ったが、やがてパチュリーは大人しく身をまかせる。舌と舌が互いに絡められ、段々とお互いの口内に唾液が溜まっていくにつれて気持ち悪さよりも快楽の方が先立ってきたからである。
 「…ん、ふぅ………はぁ…」
 こうしたことを知識でしか知らないパチュリーは初めて受けるそのあまりの快楽に自分の信念が揺らぎそうになる。何事においてもすべて本が優先される彼女にとって、これは衝撃的かつ新鮮な体験だった。初めて知識の上でこうした行為を識ったときでさえ、どこか冷めた目で本のページを繰っていた気がする。
 だが、今はもうパチュリーにそんな冷めた感情は無くなっていた。気付けば、自分から積極的に小悪魔の舌に自分の舌を絡め、唾液を吸っていた。自分の体温が上がり、興奮していることをパチュリーは自覚した。
 しばらくそうして図書管理室内に湿っぽい淫らな音を響かせながら、二人は濃密なディープキスを堪能した。やがて彼女らは互いに満足したのか、もつれあった舌を解き、唇を離す。離した途端に、互いの交じり合った唾液が糸を引いて床に落ち、絨毯を濡らす。何とも言えない甘美さがあった。
 「…次で、簡潔に済ますために最後です。お体の方は大丈夫でしょうか? 息が上がっているように見受けられますが…」
 小悪魔はまだ完全に主従関係を結ぶ契約を終えていないにも関わらずパチュリーの身を案じる。パチュリーは確かに息が上がっていたものの、実はこれは上気していただけであって、疲れがきたためではなかった。内心そのことを恥じ入りながらも、パチュリーは小悪魔が自分の身を心配してくれたことを嬉しいと思った。
 「…いえ、だい…じょうぶ、よ…。それより…も……早いところ、契約を…済ませましょう…」 
 不安半分、期待半分といった具合の表情をして、パチュリーは契約遂行を促した。
 「…では、そのようにいたします……」
 そう言うと、今度小悪魔はパチュリーのネグリジェを脱がしにかかる。パチュリーは何も言わずされるがままだった。パチュリーのネグリジェを脱がすと、小悪魔自身も己の服を脱ぎにかかる。
 図書管理室内に世にも美しい裸体二つも並んだ。
 一つは力を込めれば容易く折れてしまいそうなほどか細く、とても百年生きた女性の体つきとは思えない未成熟さなものだった。もう一つは流石は悪魔と言ったところか、スレンダーな体つきをしている割にはどこかしら色気を漂わせていた。真紅の髪と対照的に雪のように真っ白い肌をしていた。
 全く違うといっていい両者の体に共通点は一つしかなかった。それは両者とも秘所を湿らせているという点だ。よほど先程のディープキスが快楽を含んでいたのだろう。
 「いきますね」
 小悪魔はその一言の後、パチュリーの秘所に指を差し入れた。自分で一度も自分を慰めたことのなかったパチュリーも快感の刺激の強さにさっそく声を上げる。
 「…やっ…だ、めっ……ちょっ、………刺激、が………んふぅう」
 構わず小悪魔は指の動きを早め、パチュリーの秘所だけでなく女性の陰核も弄っていく。さっきとは比べ物にならないほどの快楽の奔流にパチュリーは失神しそうになった。
 「…あっ、んぁぁぁああ……だめ、だめぇっ! ……このままじゃ、わたし…わたしィッ!!」
 小悪魔は申し訳なさそうな顔をしたが、言い付け通り簡潔に契約を済ませるために問答無用でパチュリーの女性部分を責める。
 「ひんっ……んふぁぁあう……もう…らめ、ぇ…頭……ま……白……」
 そろそろ呂律が回らなくなってきたパチュリーに、小悪魔は仕上げと言わんばかりに指をパチュリーの秘所の中で曲げた。瞬間的に来た強大な快楽の前にパチュリーはついに初めてイッてしまう。
 「…あっ、んぁぁぁあああああ…くぅぅうう…」
 
 ―――ぷしゃぁぁぁ

 同時にパチュリーは潮を吹いてしまう。そしてついには失神してしまった。
 発射された潮は小悪魔の体を汚した。だが、もともとそれが目的だったのか小悪魔は丹念に己の体にパチュリーが吹いた潮を擦り付けると、失神してぐったりとしたパチュリーに馬乗りになる。最後の仕上げをするためだった。
 小悪魔はパチュリーのイってドロドロになった秘所に自分の秘所をくっつけるとそのまま腰を動かして擦り付けだした。無論、失神したパチュリーが反応することは無かった。
 ぐちゅぐちゅと泡立つほどに秘所を擦り付けると、小悪魔はパチュリーからそっと身を離した。
 
 (これで、あなたは私の本当のマスターですね)

 小悪魔は心中でそう思った後、失神しているパチュリーに軽く口付けをした。


 *

 
 ――コンコン、というノックの音でパチュリーは目を覚ました。

 場所は図書館の一室にある仮眠室、こんなところで寝た覚えの無いパチュリーは状況がよく掴めなかった。
 「確か…、私は使い魔を召喚して、…その後」
 ぽぉっとパチュリーの頬は真っ赤に染まった。まさかあんなことになるなんて夢にも思って見なかったからである。
 
 ――コンコン

 再度ノックがしたのでパチュリーは慌ててベッドから飛び起き、ドアを開けた。
 「…あら、レミィ」
 そこにいたのは紅魔館の主、レミリア・スカーレットだった。
 「よかった、ここにいたのね。…やっぱり、寝てたかしら?」
 「いいのよレミィ、本来は寝る気なんてなかったし。それよりもどうしたの?」
 理由あってパチュリーを探していたレミリアは早速話を切り出した。
 「…パチュ。私、やっぱり幻想郷を霧で覆うことにしたわ。そうしたら、好きなときに血も飲めるし、好きな時間に外を出歩けるでしょう? だから、パチュにも協力してもらいたくて」
 太陽を遮断するほどの濃霧を幻想郷一帯に発生させるなど、生半な魔力ではとても難しいことだったが、レミリアにはその点の心配は無いし、何より才能がある。パチュリーには天気を操作する魔術の心得があるので、後はレミリアがそれを応用できるかどうかの問題だった。
 「そう。でもレミィが決めたのだったら私は別に反対しないわ。そうね、後で分かりやすい天気操作の呪術書を探しておくから、一緒に勉強しましょう」
 「ありがとう、パチュ」
 レミリアが礼を言い終わると、突然ノックの音が仮眠室に響いた。

 ――コンコン

 「…おかしいわね。咲夜は今日は紅魔館にはいないはず…。侵入者かしら? 門番は一体何をしていたのかしらね…。それともまさかフランが?」
 パチュリーには思い当たる者がいたので声をかける。
 「お入りなさい」
 「パチュ?」
 「大丈夫よ」
 
 ―――失礼致します。

 と言って入ってきたのはやはりパチュリーが召喚した紅い悪魔だった。
 「あら、見ない顔ね」
 「…うん、ちょっと本の整理に人手が足りなくて、私が喚んだのよ」
 簡単な紹介をパチュリーがした。小悪魔の方もレミリアに深々と頭を下げる。
 「マスターのご友人でありますか。お初にお目にかかります」
 マスターという言葉を聞いてレミリアはパチュリーにからかうような目を向けながら言う。
 「…あらあら、ということはパチュ…、やっぱりあれをしちゃったのかしら? …うふふ」
 パチュリーは顔が真っ赤になった。
 「…もうっ! レミィったら…」
 「ふふ、ごめんごめん。そんなことよりも、あなたのお名前はなんていうのかしら?」
 この問いに小悪魔は首を振ることで答えた。
 「あら、まだ名前がないのね。ふふ、じゃあパチュ、『マスター』として立派な名前を付けてあげないとね」
 「言われなくても、とっておきの名前をつけてあげるわよ!」
 パチュリーは恥ずかしそうに声を張り上げた。
 
 小悪魔は嬉しそうに微笑んだ。


 *


 明くる日、マスターとその友人レミリア様は幻想郷一帯を霧で覆いました。
 レミリア様がいつでも外を徘徊するために、です。
 しかし、そんな勝手を行えば手痛いしっぺ返しを受けることは明らかでした。
 幻想郷の人間は自分たちの生活を守るために必ず戦いを挑んでくることでしょう。
 
 ―――かつての、あのときのように。

 私は妙な胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。
 冗談ではない、今日はマスターが私に名前を与えてくださる日なのだ。
 何事もなかったらいいのに……。
 
 けれど、私の願いは叶わず、胸騒ぎだけが現実となった。
 
 ズゥゥゥウウウウウン―――。

 大きく建築物が半壊する音が紅魔館に響いた、恐らくは紅魔館の玄関口を破壊された音だろう。 
 どうやら、門番の方が侵入者に倒されてしまったらしい。
 じきにこの図書館に侵入者が来ることは、やはり直感的なもので感じ取れた。
 私は弾幕ごっこの準備を整える。
 そして、マスターが仕掛けた魔方陣のトラップを掻い潜りながら、突入してくる侵入者を見て、私は戦慄した。

 ―――博麗!!? 

 侵入者は驚くべきことにあの忌々しい博麗の者だった。
 私は今までにない憤りを感じる、また私の夢を阻むのかと。
 あまりにも許し難い、お前は一体何様なのだと問いたかった。
 怒りはすでに飽和点に達していた。
 私は魔力を最大限に放出する、頭よりも先に体が反応していた。

 しかし、そんな怒り任せの攻撃は博麗には全く効いてもいなかった。
 上手く狙いも定まっていなかったせいか、いとも簡単にかわされる。
 はずす度に私は焦っていく。
 そんな私を嘲笑うかのようにして、博麗は符を使った。

 ―――霊符『夢想封印』―――

 その威力はあまりにも凄まじすぎた。
 私は自分の体が圧搾されていくような感覚を味わう。
 魔界でも同じ符を受けたことがあったが、あれは今みたいに直撃でなくただの余波だった。
 このままでは封印されて現世にいられなくなる、それだけは嫌だった。
 已むなく、私は攻撃に使っていた魔力をすべて防御に回す。
 ほんの少しでいい、ほんの少しでもいいから博麗の符の威力を相殺しなければ、私は名前を与えられることもなく………。

 その思い強く、何とか封印されることなく私は現世に踏みとどまることが出来た。
 でも、そのために私の魔力は枯れ果て、私は図書館の床へと落ちた。

 ―――博麗は私に一瞥もくれることなく、奥へと消えていった。


 *


  パチュリーは目の前にいる紅白の巫女の強さに苦戦を強いられていた。
 よりにもよって体調がさしてよくもない日に限って弾幕ごっこをする羽目になるなんて、とパチュリーは思う。やはり昨日慣れないことをしたのが原因かしら? と弾幕ごっこの最中にも関わらず考えてもいた。
 「どうしたの? 赤い顔をして。熱でもあるのかしら?」
 昨日のことで思わず赤ら顔をしていたことを指摘され、パチュリーは顔が引きつった。
 「…何でもないわ。ところで紅白、ここへくる前に私の使い魔を見なかったかしら?」
 「使い魔? あの紅い髪をした? それなら、始末したわ」
 「なっ…」
 始末したなどと平然と言ってのける紅白の巫女にパチュリーは反感を覚えた。
 契約をする上で必要だったとはいえ、一度体を許したこともあってすでにパチュリーにも小悪魔に対する情が芽生えていたからである。
 体調も悪く、長期戦は分が悪かったのでパチュリーは今自分が唱え得る最高のスペルを使う。
 「木火符『フォレストブレイズ』!!!」
 木の葉が舞うかのように空中を漂ってくる弾幕。それが術者であるパチュリーから発せられる炎によって鮮やかに彩られる。
 紅白の巫女、博麗霊夢はまるで自分が山火事の現場から自分が逃げ惑っているかのような錯覚をした。
 「なかなかやるわね。でも、私の霊符には何人でも適わないわ!」

 ―――霊符『夢想封印』―――

 博麗霊夢は言葉通りに霊符を発動させるとパチュリーの放ったスペルごとパチュリーを押し潰そうとする。強力なスペルを詠唱していたパチュリーは避けきれず、直撃を食らった。
 「きゃぁああ――」
 ごぼっという生々しい音と共にパチュリーは血を吐いた。やはり体調に無理があったのだ。
 このままでは自分の命が危ういと知り、パチュリーは自分の魔力をすべて防御に回す。
 その光景を博麗霊夢はどこかで見たと思った。
 「それにしてもこの館って、外から見て、こんなに広かったっけ?」
 パチュリーの吐血の様を見ても何も思わなかったのか、にべもなく博麗霊夢が言った。
 「…家には空間をいじるのが好きな人がいるのよ」
 胸を抑えながらパチュリーは言った。目は博麗霊夢を睨んでいる。
 「そっ、じゃあ次はそいつかしらね」
 もうパチュリーに興味を失ったのか、博麗霊夢はそのまま図書館を後にした。

 
 *

 
 そろそろ体を現世に維持するには魔力が相当に足りなくなってきていた。
 このままではよくて魔界に堕ちるか、あるいは亡者の仲間入りをするかのどっちかしか道は残されていない。
 私は段々と体が寒くなってくるのを感じた。
 
 ―――カツーン

 図書館に靴音が響く、私はそれを自分のお迎えなのだと思った。

 ―――カツーン

 身震いが止まらない、音も段々と近づいてくる。

 ―――カツーン

 やがて、

 ―――カツーン

 私の前で、

 ―――カツーン

 音は止まった。

 「…ここにいたのね」

 私は恐怖のあまりに目を閉じていたが、柔らかい声を聞いてその目を開く。
 「…マス、ター?」
 目を開けたその先にいたのはまぎれもなく私のマスターだった。
 しかし、顔の色はいつもより青く、驚いたことにネグリジェは血で真っ赤だった。
 私がマスターのその姿を見てびっくりしていることを感じ取ったのか、マスターは私を不安にさせないように言った。
 「…ああ、これ? 大丈夫、よ…。ちょっと無理をしたみたい…。さぁ、それよりも……あなたの治療をしましょう。………私の魔力を送るわ………ごほっごほっ…」
 マスターは私の目の前で血を吐いた。恐らくマスターにもほとんど魔力が残っていないはず。
 「…マスター、無理をなさらないで…ください。それよりも…」
 それよりも…。
 「…それよりも…なぁに?」
 私の…。
 「とっておきの名前…考えてくださいましたか?」
 マスターははにかむような表情をして言う。
 
 
 ―――あなたの、あなたの名前はね………











 如何でしたでしょうか? ここまで付き合ってくださって真に有難う御座います。
 
 作者的な違和感を箇条書き

 ①霊夢が非道の人になりすぎている。
 ②公式で否定されているにも関わらず弾幕ごっこが死合になっている。
 ③ネチョが何か前回と被っているような??? 正直、すまんかった(;´Д`)
 
 前回が肥やしになっていればいいんですが…。
 リクは某所の某むむむ氏にいただきました。
 むむむさんの小悪魔の脳内イメージとかけ離れていたらごめんなさい…。

 私はむむむさんの小悪魔普及を心より応援する者です(一条


 では次回がありましたらまたお会いいたしましょうヽ(゚∀゚)ノ


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2299d)