頼るべき月明かりも無く黒瑠璃に染まりし空の下、ただ我が前の道を行く。
 ――急がねば。
 既に里より一里は離れ、人間が踏み込めば無事では済まない域へ入り込んでいる。
 日が別つ禁域、夜雀が潜みし道へと……
「ではやはり、若長は夜雀めに?」
 陰鬱とした時間の中で、何度となく繰り返される問い。未だ信じがたい、だが状況は徐々にそうであると語る。

「白沢様、一大事にございます」
「どうなされた、長殿?」
 童と家で遊んでいた夜分、血相を変えた長が駆けつけ、口早に話す。
「隣村に使いへ出した家の放蕩息子めが、この時分になってもまだ帰ってこんのです」
「何と! ……今は妖怪共の刻、急ぎ出迎えに行かなくては」
「白沢様、お頼み、出来ますか?」
 長に言われるまでもなかった。
「……けいさま、おでかけ?」
「すまないなみんな、今日はお開きだ。また明日、な?」
「……うん、またあした。けいさま、おきをつけて」
「おきをつけてー」
 童の笑顔と約束を交わし、闇へと疾る。

「……そうだ、里の者をお守りするのが私の役目、誰一人夜雀めの毒牙にかからせてたまるかっ」
 信念も新たに、雨上がりのぬかるむ道をものともせず、足跡をたどる。
 不意に、何か聞こえる。
「歌? もしや、夜雀の」
 もはや足で探す必要はない。歌声の方角へ向き直り、木々の間を駆ける。
「見つけたぞ夜雀め、若長を返して貰おうか!」
 幸い若長は木にもたれかけるようにして、眠っている。側には小柄な夜雀。楽しそうに歌を歌っているが、それこそが奴の最大の武器、獲物を狩る術。
「貴方はまさか、あの里の」
 警告から瞬時に三つの長槍を作り、投げつける。
 ……避けようともしない夜雀。よほど自信があるのか、それとも?
「去れ、今ならまだ見逃してやる。二度と里の者に手を出すな!」
「私、は……」
 一瞬の戸惑い、そして強い蒼の眼差しが向けられる。
「私の、私達の邪魔をしないでっ」
「そうか、では仕方がない。力ずくでもわからせてやる!」
 隠、と静かな音を立て視界一帯が結界の影響下に入り、夜雀を捕える。その上で畳みかけるように印を組み、回転する御霊を振りまく。
「あっ! ぁあッ……ぅッ」
 翼を休めたまま動かない夜雀。何が狙いかわからない。だが悲鳴すらも時に凶器と化す者達を相手に油断する気はない。
 ……殺しはしないが二度と消えぬ恐怖を刻み、追い返す。非情と罵られようと、それこそが私の使命。
「どうした、命乞いをするくらいならば失せろ!」
「――いやっ!」
 たいした抵抗は見せない癖に、視線だけは鋭く強い。危険だ、本能が告げる。一気に片を。
 印を重ねると同時、開閉しながら無数の光を降り注ぐ。前に逃げ道は無い光の檻、捕えられた夜雀はもがくでもなく、ただじっと私を見る。
 ……どうした、何故反撃しない。一体何を企んでいる!?
「お止め下さい白沢さ――ぐッ、ぁ……まッ」
「なっ!? 若長! くっ」
 いつのまに気がついておられたのか、飛び出してその身を晒し、夜雀を庇う若長。何だ、一体何故だ? 何故若長が奴を……
「繁也さん! ……そんな」
「ルール、よかった……君が無事で」
 何故だ、何故そこで見つめ合う? これではまるで……
「――目を覚ますのです。夜雀の誘いに乗ってはなりません!」
 まるで、恋人同士の逢い引きではないか。
「違う! 私は、私の意志で彼女と」
「お願いです、私達のことは……どうか」
 人と妖怪の心が通じ合う? 愛し合うことが出来る、だと? そんな、バカな。
「退きなさい、このままでは貴方もただでは済みませんよ」
「嫌だ、もう彼女を傷つけたくないんだ。例え白沢様と言えど、これ以上」
「退きなさい!」
「嫌だ、絶対に退くものかっ!」
 仇を見る目で睨みつけられる。一体何が、彼をここまで変えてしまったのか……
「……長に頼まれた手前、私もこのまま帰るに帰れません。そこまで言うからには何か訳が?」
 地に降り立ち、距離を詰めながら問う。
 夜雀を支え、間に割って入るように立つ若長。里で見る頼りない瞳とは違う、ある種の決意の炎が宿り、恐れず、真っ直ぐに私を見つめ返す。
「彼女はもうほとんど飛べないんだ。私が側に居てあげないと、このままじゃ」
「人間と妖怪ではしょせん住む世界が違います。お二人を受け入れてくれる場所など、存在するかどうか……それでもよろしいのですか?」
「…………はい」
 一瞬の迷い、唾を飲み下す音。だが答えは変わらない、決意が、意志が、彼の心の奥にしっかりと根ざし、揺るぎなく私に向けられる。これほどまでに熱き眼差し、今まで見たことがない。
「そう、ですか」
 こうなっては、諦めざるを得ない。視線をきつく、長槍を作り、肩で構える。
「くっ……」
 怯える夜雀を手で庇いながら、一歩後退。視線は未だ変わらず――いやより強く輝き私を射る。
「繁也殿、お幸せに。どうかお達者で」
 私の負けだ。槍を手の中で砕き、光に変えて空へ散らす。二人の門出を祝い、いつまでもいつまでも幸せを願う光として、そのまま止まり続ける。
「白沢様! ……ありがとうございます」
「あ、ありがとう」
 これでいい。
 私は人を護る者。人の幸せを願う者。だから、これでいいのだ。
 この二人ならば、決して道を違えることはないだろう。

 後ろ髪を引かれる思いに逆らいながら、来た道を行く。
「あやつめ、いい顔をするようになって。ふふっ」
 私にとっては初めての失態だが、心は晴れやかだった。人を見守る者として、どんな形であれ成長する姿は見ていて心地よい。
 愛が人を変える。経験のない感情だが、もしそうだとしたら何と羨ましいことか。
 里はひっそりと静まり返り、外に人影はない。長の家だけが明かりを灯し、私の帰りを待ちわびている。
 ……心が、痛んだ。だが後悔はすまい、私が責任を持って認めたことなのだから。
「お帰りになられましたか、白沢様。ささっ、どうぞ上座へ」
 人々の期待に満ちた眼差しが痛い。そう感じるのは、結果的に私が彼らを裏切った性か。
 無下に断ることも出来ず、集まった男達に誘われるまま上座へ座る。
「さぞお疲れでしょう。今、甘露をお持ちいたしますので」
「どう……ぞ」
 そう言って差し出された下男の手が、緊張の性か震えている。
「ああ、ありがとう」
 少しでも心が穏やかになるよう、努めて優しく言う。どうしたことだ、下男の頬に朱がさした、私はまた何か余計なことをしてしまったのだろうか?
 全員が固唾を呑んで私を見守っていた。視線がきつい、悪意はないのだが……しかしこれは、やはり口にしない限り話が進まないようだ。
 どちらかと言えば張りつめた空気の性で乾いた口内に、ほんのりと甘い煎茶の味がしみ入る。さて、問題はこれからだ。
「……その、すまない、若長は」
「夜雀めにたぶらかされた、と?」
「な、何故それを!?」
 いきなり核心に迫る一言。もしや、長は最初から何か知っていたのか?
「残念ですなあ、白沢様ならばあやつを止められるとご期待しておったのですが……妖怪に肩入れするとは」
「わしらは白沢様を信じておったのに」
「これからこの里は、どうなることか」
「もう……お終いだ。みんなみんな妖怪に食われちまうんだ」
 男達が取り囲み、迫り寄る。みな必死の形相で、輪を縮めて手が伸びる。
「お、長……私は」
 何を言おうとしているのだ、私は。どんな言葉を言ったところで、通用するはずがない。私は、裏切ったのだから。
「止むを得ませんな。かくなる上は白沢様にお子を孕んで貰い、新たな守護者となって貰うより――わしらの生きる道はない」
「子、だと? ま、まさかお前達……や、止めよ、止めよ!」
 幾つもの手が、私の全身を瞬く間に覆い尽くす。太い節くれだった腕が、垢黒く汚れた腕が、皺だらけの腕が、ありとあらゆる腕が力任せに暴れ回る。
「おい、縄さ貸せ」
「へい」
「あぁぁ……こんな、こんなつもりで――うぁっ」
 意志に反して身体が動かない。全身が火照り、脳内で暗い情念の炎が浮かんでは消える。服は縦に無理矢理裂かれ、下着をむしり取られ、衆目の前にさらされる。
 私は、私が今まで守ってきた者達の手で、これから犯されるのだ。誰とも知れない男の、子を孕むまで、ずっと……
 心の中で最も冷静な部分が、冷たくそう告げる。
「白沢様の肌、柔けぇ」
「ひゃっ!? や、止め……ぁ、そんなところを触るな!」
「おい、楽しんでないでお運びすんの手伝え! 蔵さ行くぞ」
「へーい」

 冷たい夜風が火照った身体を冷ましていく。それ以外は考えられない、頭に入らない。
 わかっている。これから行われることはこの身にかせられた罰、里の者達からしてみれば至極当然の行い。
「よし、梁に引っかけえ」
「へい」
 両手を縛り上げた縄が張り、身体が吊り下げられる。この闇の性か、みなの顔が邪悪に歪み、好色な瞳が一斉に胸元へと集中しているような気がしてくる。
「では、後は任せたでな」
「本当によろしいので?」
「ああ、子を成した者には次期長を任せてもいいくらいだ。しっかり励めよ」
「へい!」
 蔵の戸が閉ざされ、残ったのは四人の若い衆。ろうそくの灯に照らされて、重い足どりで近づいてくる。
「白沢様、わしらとしても本意ではないのですが……これも里のため」
「わかっている。お前達の好きにし――いや、ま、まて……せめて、痛くだけは……な?」
 何だか変な気分だった。これから行われるのは拷問に等しい、凄惨な儀式のはずなのに、どこか初夜のような雰囲気なのだから。
「で、どうすりゃいいんだろうか?」
「さあなあ?」
「気持ちよくしてあげれ、言われてっから……そうすりゃいいんでは?」
 ……大丈夫なのか? 別の意味で不安になってくる。
「おりゃあ胸さ揉んでみるか」
「んじゃわしは肩を」
「そんならわしは脚揉んで、気持ちよくしてみっか」
「……待て、お前達それは違――ぁっ、そっそこは……あっているの、んっ、か?」
 胸が服にこすれ、痺れるような甘い感覚が身体を満たしていく。何故だ、こんな感じ方は今まで一度もないのに、何故今夜に限ってこんなにも気持ちがいいのだ?
 まさか、あの煎茶に?
「お? 白沢様気持ちよさそうだ。よし、もっと強く揉むか」
「ぁあ! ぃ、痛い……そんなに、つ、強く」
「頭ぁ、白沢様痛がってるでねぇか!」
「――申し訳ねぇ、申し訳ねぇだ白沢様。お、お許しをっ」
「ッ……いやいい、さっきの調子で続けてみてくれ」
 困った。幾ら私が普段博識だと言われていても、それは妖怪に対する知識が中心であり、こういった色恋沙汰は……専門外だ。こんなことなら娘達に混じって、知識を仕入れておけばよかったか。
「ん? 何だかぁこの液体は」
「どした?」
「――んぅ!」
「ほれ白沢様のここ、涎みたいに溢れてきなさる」
 男の声に釣られ、他の男達もスカートの下に潜り込んでいく。何だ、この変な感じは……生暖かい癖に、気持ちが、いい。
「不思議かぁ」
「ありがたや、ありがたや」
「……そんなところに息を吹きかけないで、っ、くれ」
「あ、ひょっとしてこれが濡れるってことか?」
「かもしんねぇなあ」
 生暖かい息がかかる度に、身体の奥が熱くなる。容易に脳を蕩し、何かが私の中で暴れ回る。
「んじゃ、これでおれらのコイツを入れて、中に出せばいいのか?」
「……そう、なの――くあぁぁぁぁッ!? ひッ、ぅあ……はッ、は」
「し、白沢様!?」
 身体が焼けるように痛い。皮膚を裂く痛みとは違う、直接内部に食らいつくかのような激痛が、脳髄まで突き抜ける。
「え、えらいこっちゃ血が」
「頭、一度抜いた方が!」
「お、おぅ」
「――ぃッ、ぁああ……ま、待て、痛いッ」
 刺でも突き刺されたのだろうか。私の中に差し込まれた何かは、抜く時にすら鋭い痛みを全身に走らせる。
 ……痛い? 何を今更なことを、痛いことは承知だったはず。私は、何を弱気になっているのだ。
「そ、そう言われても、抜けんので、ぉぉう!? こ、これは……絡まって、た、たまらん!」
「ぅっく、はッ……あ痛ッ。いやいい、私に構わず、っ、続け、ぅあッ」
「――うぉああ!? で、出るっ!! うっ」
「ぁ? あぁっ、何……だ。熱……い、何か、出てる?」
 痛みとは違う何かが急速に、下腹部に染み渡る。熱い、粘液状のソレが私の中を流れ、溜まっていく。

「はっ、はっ、はっ……ふぅー。何だか、搾り取られるような、これが女の壷と言う奴か?」
 気持ちよくない。どころか嫌悪感が沸いてくる。こんなことを、これからずっと続けなければならないのか、くっ。
「か、頭。次はわし、わしに任せて下せぇ!」
「何だ、随分やる気だな。んじゃ交代すっか、よっ」
「うぁああッ!? そんな、いきなり――ふぁッ」
「うわっ、血だらけでねぇか。おい、手拭い貸せ。いや、その前に縄ぁ緩めれ、このままじゃ色々動きづらい」
「へ、へいっ」
 心なしか、空気が変わった。淀んだと言うべきか、張りつめた感じが消え、黒く塗り潰された錯覚を覚える。
「おーお、確かにぱっくり割れて濡れてんなあ。さて、白沢様のココ、味わわせて貰うか」
「っ……や、やめろ。じっと見つめないでくれ」
「味わうって、おめぇ罰当たりな」
「なぁに、どうせ子供さ出来たらわしらの妻になるだけだでよ。そうなったら神様も白沢様もねぇ」
「ははっ、違げえねぇ。おめぇの言う通りだ」
 男達の態度が……変わっていく。
「そんなら」
「ああ」
「たっぷりと楽しませて貰うか」
「お前達? ……ま、待て、早まるな!」
 私は、これからどうなってしまうのだ? 明らかに男達の瞳には、妖しく揺れ動く狂った炎が灯っている。
「うるせぇ!」
「ひっ!? ぐうッッッ!」
「へっ、前からその態度が気に入らなかったんだ。おめぇは口の聞き方ってもんがなってねぇ――おらぁ!」
「はッ、ぁ……んッ。や、やめ……」
「んだぁその眼はっ!」
「――ッ!」
 腰を乱暴に突き入れながら、男の平手が飛ぶ。
「何だコイツ、ぶたれた途端締めつけが強くなりやがっただ。へへっ、この変態め」
「なっ!? ち、違う……私は――ぁああんっ」
「おい、見てねぇでおめぇも手伝ってやれ」
「へへっ、待ってました」
 そしてまた一人、私にまたがり強い力で男が胸を握る。
 うっ、目の前で突き出ている黒いモノ。まさかこれが、さっきから私の中で暴れている、男の……
「ッく、こんなことで私を、どうにか出来るとで――んむぅ!?」
「あっぁ、た、たまんねぇ……口ん中でもいい、早く出してぇ!」
 口の中に突きこまれるソレは臭く、とてもじゃないが我慢できる代物じゃない。
 だが、息が苦しい。さっきから暴れている下の男の動きも相まって、どうにかなってしまいそうだ。
「お? それよさそうだな。よし、そろそろおれもまざるか」
「待って下せぇ、わしゃまだ出してねぇんだ。っく、こいつ腰なんか振りやがって。ええっこの、このっ!」
「んんっ、ふっ……んっ! んむーーっ!? ……ふぁっ……ぁむ」
 臭い、臭くてたまらない。でも、それを心のどこかで欲しくてたまらない私もいる。何故? それに、下の方の痛みも薄れ、気持ち……よく。
 な、何を馬鹿な!?
「何だこの女、舌ぁ絡めて――ぅっ、そ、そこは」
「んむっ、んんん!? んっ……んぁぁあああ!」
「だ、ダメだ! っく、このまま出ちま――あぁ!」
「――んヴっ!? ぁ……かっ……けほっ、けほ」
 口の中に大量の苦汁が溢れ返る。嫌だ、こんなものを飲んでしまったら、本当におかしくなってしまいそう。
「おいおい、どこに出してんだよおめぇは」
「ちっ、こいつ……人がせっかく出したものを吐き出しやがって。くそっ」
「はっ、あっぁあ!? いっ嫌だ……止めよ、っん、来るな!」
 何かが、来る。何だこれは、嫌だ、私……壊れる。
「ぅっう、わしももう限界だ。出すぞぉおお!!」
「ぁ……ゃ、ぁあ――んぁああああっ!?」

「……ぃ、おい、いつまで倒れてやがる。くそっ、気絶したら面白くもなんともない」
 気絶? バカな、私が……そんな……
「そうですか? ここは十分、っ締まりがよくて使い物になるんですが」
「へっ、好きだなおめぇも。しかし、胸でやるってのもっ、悪くない」
「うっ、ん……そんなもの、ふぁあっ!? んく、近づけるんじゃない!」
「おっ、起きたみたいですぜ。んじゃま、たっぷりと濃いのを出してやる――かっ」
 身体の中で、熱い男のモノが膨れ上がる。まさか、また?
「やっぁあああっ!? 熱……い、や……め。ああ、まだ出て……る?」
「何が嫌だ、一度食らいついたらスッポンみたいに離れない穴の癖に。見ろ、物欲しそうに溢れさせやがって、この淫乱がっ」
「そ、それはお前達が」
「――黙って腰を振りなっ! 何だ? 随分とねちょねちょになってやがる。さっきとは比べ物にならないくらい、っく、動かしやすいな」
「ぁああ、ゃ……め、くそっ」
「おい、舌さ使って綺麗にしろ」
 口元に押しつけられる、出したばかりの男のモノ。異臭と、変な粘り気のあるソレは見ているだけで気分が悪くなる。
「こいつっ、どこ向いてやがる!」
「ははっ、ここはこんなんなってんのに、他は随分と強情なことで。まあそのくらいの方が……っ、な!」
「……そんなに嫌なら、鼻だろうが目ん玉だろうがすりつけて出してやるぞ!」
 こいつらは正気なのか? どいつもこいつも、思考がまともじゃない。幾らなんでもおかしすぎる。
 大体、こんな奴らの攻めに私がいちいち反応するはずがない。そうだ、何か原因が……
「おいおい、そりゃ本物の変態でねぇか」
「うっせ! どこだろうが構うもんか、出して出して出しまくって、この女に立場ってもんをわからせてやる!」
 段々と頭が痺れて、考えるのが嫌になってくる。こんな、ことでは……こいつらに……
「ぁ、う……ふん、出したいなら好きなだけ中に出してろ! っく、種馬共め」
「た、種馬だと!? こいつっ」
「――いいんじゃねえか? 種馬でよ。んなことより、自分が雌だと認めた方が、おりゃよほど驚きだ」
「ああそうか、いやさすが頭。なるほど雌だか、雌ねえ」
「……黙れ」
「ええ黙りますとも、獣らしく無駄口叩かず、お望み通りおれらの全部――呑みやがれ! うっく」
「あっ、ま、また……いや、いやぁああああっ!?」
 考えるのが、ひどくだるい。
「もう……だ、ぁあ!? そ――ふぅんっ! ふぁああっ!」
 身体が、熱い。
「くっ……ぁ、きさ……まら――んぶ!? ふっ、ん……んむ、っむぅううううっ!?」
 気持ち……
「はっ、あああぁ……っん、ゃぁ……ぁあ、っ! くはぁあああっ!?」
 ……い……い。
「ぁ、ん、んぁ――止めよ、止め――ぁああ、っ、んふぁあああああっ!?」

「くそ、さすがに疲れて、くっ」
「そろそろ……お開きにすっ、か」
「腰が……腰が」
 やっと……終わるの、か?
「汚ねぇな、こうなったら威厳も何もねぇでよ。へっ、ざまあみろって」
「まあそんな顔すんな、明日またたっぷりと可愛がってやっからな」
「そうそう、明日は爺様達からちゃんとしたやり方聞いて、朝から晩まで一日中……な?」
 私は、何故人を守ってきたのだ。何のために……人を……
「しかし、このままにしておくとせっかく出したのこぼれ落ちて意味ねぇなあ」
「なあに、その辺にあるもん詰めときゃいいさ。おい、きゅうりのぬか漬けその辺にねぇか?」
 な……に?
「へ? へいっ、しばしお待ちを」
「なぁるほど、蓋をするだか」
「そういうこった」
「あっ、ありやした。これで、よろしいですかい?」
「おう、おれらのよりは貧相だが、淫乱女の相手には十分だろう――よっ!」
「ふあぁあああ!?」
 ああ、また……入ってくる……ぅ。
「へっ、こんなんなってもまだ喜んでやがる。おい、後片付けは任せたでよ」
「へ、へいっ!」
 月明かりが、差し込む。こんな姿を……私を映さないでくれ。
「……白沢様、今縄を」
「……お前」
「もうしばらく堪えて下せぇ。くっ、こいつ……随分と固ぇ」
 一人残った下男が、私を逃がそうと縄と争っているのか?
「ま、待て……そんなことをしたら、お前が」
「あ、あっしのことはお気になさらず、もうこれ以上白沢様が酷い目に遭いなさるのを見てはおれんのです!」
 ああ、そうか……私は何を忘れていたんだ。そう、人の優しさ、温かさを守り、好いてきたのに……何て、バカなんだ。
「そ、そうか……お前、いや、貴方の名前は?」
「あっしに、名前なんてありやせん……あったとしても、白沢様に覚えて貰うなど恐れ多い」
「……そうか、残念だ」
 縄がほどける。自由になった腕で、私は……
「ありがとう、心優しき人よ。おかげで、私はもう一度人を信じることが出来そうだ」
 彼を抱きしめた。
「し、白沢様――む、胸、胸がっ」
「――はっ!? ば、ばかぁ! ど、どこを見ているのだ、全く!」
 言ってから気づく、彼との身長差と服が破れていることに。
「ああぁっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
「あ、いや……その、すまなかったな」
 恥ずかしい、思わずわざとらしい咳払いをしてしまう。
「……もし、貴方が今夜のことを忘れずにいたなら、その時は」
「はい?」
「…………いや、なんでもない。それより安心しろ、今夜のことは」
   
『なかったことにしてやる』


「ねんねんころり、おこ~ろりよ~」
 秋風が、里を吹き抜ける。
「けいさまー、なにをうたってるでよ?」
「ん? 子守歌を、な」
 やはり、あの夜のことを覚えている者は、誰一人いなかった。当然と言えば当然だが、それでも彼の姿を見ると、心が痛む。
「へーっ、だれにたいして?」
 あの出来事は……私の心を変えた。一つは悪い方向に、もう一つは、今まで以上に人を愛することが出来るようになった。
「……これから産まれてくる、里の子のためにだ」
「そうなんだ。じゃあ、わたしもおうたうたって、いい?」
「……ああ」

 私は子守歌を歌う。この里のために、そして……私自身のために。

――了――


あとがき を書いていいのは本当はプロだけらしい そーなのk


 ∧||∧  そろそろ色んな作品を書けるようにしないとなあ
(  ⌒ ヽ そう思ってHPの更新ネタだった奴を
 ∪  ノ  かなりひねって書いてみたものの……
  ∪∪        吊ってくr サティ


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Last-modified: 2018-01-07 (日) 04:56:13 (2300d)