疼く。
頭に霞がかかったような状態で、視界もブレ続けている。とても飛んでいられる状態ではない。
極度に疲労したまま飛び続けるときと似たような症状だが、しかし身体のほうは、眠りに落ちそうになるどころか覚醒する一方だった。
くちゅ……
「っは……ぅ……」
ほんのわずかに姿勢を変えたり、揺れたりするだけで、擦れて、刺激されてしまう。
最初からもう、帰って寝るまでずっと我慢するなどという選択肢はなかった。
今はただ、せめて魔法の森まではとギリギリのところを耐えながら飛び続けている。森に着いたら、ほんの少しだけ触って少しでも落ち着かせてそのあとゆっくり帰ろう。それだけを考えている。
森へ。
少しでも早く、魔法の森へ。
森が視界に見えたときにはもう、とにかく降りて早くなんとかしたいという気持ちしか残っていなかった。
「え……」
アリスは偶然、森の出口近くまで来て、少し特別な木の葉を集めているところだった。
近くで物音がして、何かの気配を感じたので気になって来てみると――
そこで、見つけた。
よく見知った黒い帽子と、黒白の服に身を包んだ彼女。魔理沙の姿を。
(な……なんなの、これ……)
アリスはすっかり固まってしまう。
魔理沙は木を背にしてもたれかかって、左手でスカートを思い切り捲り上げて、下着姿を露にしていた。
そして右手は――明らかに下着の中に潜り込んでいた。それも、かなり激しく動かしている。
その行為が何であるかは、信じがたいことではあったが、明白だった。目をとろんと虚ろにしながら顔を真っ赤にし、開きっぱなしの口から絶え間なく切ない喘ぎ声を漏らす魔理沙の様子を見れば、もはや疑問の余地はない。
アリスは大木の背に隠れ、魔理沙の様子を覗き続ける。
まだ頭はパニックになっていた。まず何がおかしいのか何に驚いているのかさえ整理がつかないほどに。
何かを考えようにも、魔理沙の声が絶え間なく聞こえてきて、思考を乱し続ける。
「……! っ……や……が、ガマン……しな……」
話している言葉も、微かながら聞こえてくる。
ただ喘いでいるだけでなく、何か独り言が混じっているようだ。
(魔理沙……)
まず何より、魔理沙がそんなことをするとはまったく思っていなかった。そんなイメージはまったくなかった。だからこそ、いつも魔理沙を想い自分の体を慰めた後、こんなだから魔理沙は振り向いてくれないんだと自己嫌悪に陥っていたのだ。決して止めることはできなかったにしても。
だというのに、これはいったいどういうことなのか。
「ぁ、ん……ふぅ……っ」
あんなに激しく乱れて。森の中とはいえ屋外で、しかもまだ日も沈んでいない。見せたがっているのかと疑ってしまうような状況だ。
(あんなに……気持ちよさそうに……)
ごくん。
無意識のうちに唾を飲み込む。
混乱が少しずつ収まってくると、次第に、どくん、どくんと自分の動脈が暴れだすのを感じる。目が離せない。
想い人が目の前で独り自慰に耽りいやらしく乱れる光景を見つめながら、アリスもまたその熱に当てられたように体が火照ってくるのを感じる。
「や……ぁ、とまらない……や……んっ……たすけ……っ」
(あ……)
ぶるっ、とアリスの体が震える。
どくん。どくん。
ますます速くなる鼓動。
(魔理沙が……求めてる……欲しがってる……)
助けて、と言ったのが確かに聞こえた。
あれほど感じて淫らに体をくねらせているのに、まだ、足りていないのだ。もっと、決して自分自身の手では届かないような領域を求めている。
(もし、私がここから出たら……?)
逃げるだろうか。
求めてくれるだろうか。
後者ならば、まさに思ってもみなかった夢のような展開だ。早すぎるほどの。
怖い。見られていることを知った魔理沙は、二度とアリスの前に顔を出さなくなってしまうかもしれない。そんな可能性もある。躊躇う。
しかし、確実に魔理沙は、求めていた。それならば、応えてあげるべきなのではないのか。何より、アリス自身、最後まで黙って覗き続けられる自信があるとは言い切れない。
ぎゅっと目の前の木を掴み、熱くなり続ける体を感じながら、葛藤を続ける。
形は正常ではないが、魔理沙と結ばれるという、いきなり降って沸いた機会であることに変わりはない。
息が荒くなってくるのも感じる。
迷うことなどない、このまま襲ってしまえばいい。立場はこちらが有利だ――そんなことさえ思ってしまう。
一歩だけ。
足を踏み出した――とき。
「……ん……ふぅ……もっと……おねがい……れ……む……霊夢……ッ!」
(――っ!!)
その瞬間に、完全に思考は吹き飛んでいた。
アリスは、大きな音を立てて木陰から前に出る。
躊躇なく魔理沙に向かって歩く。
行為に没頭していてしばらく気づかなかった魔理沙も、やがてアリスがほとんど目前、手を伸ばしあえば触れ合うほどの距離まで近づくと、ようやく焦点の合わない目をアリスに向ける。
虚ろで澱んだ目が、アリスを目の前にして、少しだけ動揺したように理性を取り戻す。慌てて下着の中からべとべとになった手を抜き出し、捲り上げていたスカートを下ろす。
「ぁ……アリ……んふっ!?」
名前を呼びかけた魔理沙の言葉も最後まで聞くことなく、アリスは最後の一歩まで勢いを落とさず近づき、魔理沙の顔を両腕で挟み込んで、僅かな間さえ挟まずに、強引に唇を重ねた。
「んんん……んんーーーっ!」
魔理沙は両手でアリスの体を押しのけようと抵抗するが、まったく離れない。もともとの体格の差がそのまま効いてくるうえに、魔理沙にはもうほとんど余力が残っていなかった。
アリスは構わず舌を出して、魔理沙の唇の間にねじ込む。
「……! っ!!」
唇の裏、歯の表、裏、舌。アリスの舌が無遠慮に魔理沙の咥内を蹂躙していく。
ぬるり、触れ合う舌同士。敏感な先端から奥のほうまで、全てを奪いつくすように舐め、吸っていく。
「ん……んんふ……」
魔理沙の手から、力が抜ける。
鼻声も、抵抗し非難するそれから、艶のある悦びの声に変わっていく。
まだ呪いの効いている体では、性的な快感は何倍にも増幅されてしまう。気持ちに抵抗があっても、直接的に性感帯を弄られてはひとたまりもない。
じゅぷ……じゅるん……
舌の周囲をなぞるように舐め、ときには自らの咥内に誘い、吸って、唇で扱く。
唾液を吸いながら、舌の先端をつつく。
にゅぷ……ちゅ……じゅる……
こうなってしまうと、舌はもう性感帯どころではなく、性器そのものだ。攻めを受けるたびに意識は朦朧としていくが、感覚は敏感になっていく一方。
「ん……んーーーっ!! ん……ッ!!」
それを、何度も、何度も、続ける。キスなどというものではない。口だけを使った、紛れもない性交。アリスの執拗な攻めに、これだけで魔理沙は何度も軽く達していた。
何分も続けて、やっと、アリスは顔を離す。
口の周りは唾液でべとべとになっていた。
お互いに激しく呼吸をして、不足していた空気を一気に取り戻していく。まだすぐ近くにあるお互いの顔に、熱い息が吹きかかる。
アリスは濡れた瞳で魔理沙の顔を見つめる。魔理沙の顎を左手で持って、くい、と持ち上げる。右手を腰の裏に回してぐいっと引き寄せる。
「……どう? 感じたでしょ?」
「……はぁ……はぁ……あ……アリス……」
魔理沙は、目を逸らすことができない。
とんでもない場面を見られたという羞恥よりも、アリスの今の行動に対する戸惑いよりも、もっと強く、今のアリスの強烈な愛撫に、かつて経験のないほどの官能的なキスに完全に魅了されていた。
「わかってるでしょ……こんな、恥ずかしいことしてる貴女を、愛してあげられるのは私だけ……ここまで感じさせてあげられるのは私だけ。余計なことは忘れて。私だけを見て、感じて……」
「――ぁ」
アリスの腕の中で、魔理沙は今度こそ完全に脱力した。
「アリス……」
魔理沙が、頭を撫でているアリスの目を見上げて言う。
「ん?」
アリスは、先程までとはうって変わって穏やかな目で魔理沙を見つめ返す。
「……して」
熱く熱く燃え続ける身体。
抱き合っていることで、さらに強く燃え上がっていく。抑えなど到底効かない。
アリスはまた、魔理沙の顔を持ち上げる。
「魔理沙があんまりエッチだと、優しくはできないかもしれないわよ?」
「優しくなくていい……思い切り……いっぱい、して」
「……素敵。本当、可愛いわ、魔理沙。いくらでも愛してあげる。これから――」
「――悪いけど、そうはいかないのよね」
「……っ!?」
あまりに唐突に、その声は空から降ってきた。
そちら側を向くまでもない。聞きなれた声だ。
腕の中でびくっと怯える魔理沙の様子を確認してから、きつく上空を睨みつける。
今一番会いたくない、見たくもない相手だった。
彼女は、いつものように、憎たらしいほどの余裕で空をふわふわと飛んでいた。
「ルール違反。わかってるでしょ、魔理沙」
彼女はむしろ微笑んでいて。
魔理沙は、顔を上げようともしない。アリスの腕に抱かれて、小さくなっていた。
「――ッ! あなたが! 魔理沙をこんな目にあわせたのね……!」
「まあね。でもそんな睨まれることじゃないと思うなあ。あんたはむしろ私に感謝してもいいんじゃないかしら」
「……っ」
しれっと言ってのける霊夢を、さらに強く厳しく睨む。
目だけで射殺さんとばかりに。
アリスは腕の中に魔理沙をぎゅっと抱え込む。
「ああもう。本気にならないの。ちょっとしたゲームなんだから。今日だけの遊び。あんたはそれにちょっと巻き込まれちゃっただけよ」
アリスは魔理沙のほうに向き直る。
魔理沙は、苦しそうな表情で、しかし首を縦に振った。アリスは眉を顰める。
「そういうこと。で、今日の間は絶対に触ったり触らせたりしないことってルールだったんだけどね。堂々と破っちゃったから――お仕置、しなきゃね」
霊夢はふわりと近づいてくる。
アリスは――ばっと魔理沙を後ろに庇い、その進路に立ちはだかる。
やはり厳しい視線で霊夢を射抜きながら。
「でも、魔理沙を苛めるのは絶対に許さないわ。魔理沙は、私が守る」
「……いい。アリス、やめろ。霊夢の言うとおり、ルールはルールだ」
「黙って。誰にも貴女には手出しをさせないわ」
「……無理……だ。アリス、お前じゃ」
「黙ってって言ってるでしょ!」
「……愛されてるわねえ。たいしたもんだわ。でも、私達の遊びに割り込まれると困るのよね――」
ひゅんっ。
――かつん。
「……!?」
完全に不意をついたつもりで放った2体の人形による剣の突撃は、霊夢が何気ない仕草で振ったお札1枚に絡み取られていた。
その次の瞬間には霊夢の姿が消えて――
気付いたときにはアリスの体は宙を舞い、何度も回転して、木に叩きつけられていた。
まったく何も、見切ることができなかった。
「が……っ!」
木にそのまま磔になる。服に刺さった2枚のお札によって。
慌てて体勢を立て直そうとするが、がっちりと木に縛り付けられていて、まったく身動きがとれない。
勝負にならなかった。始まる前からもう終わっていた。
これでは、守るも何もない。魔理沙の言うとおりだった。
「く……」
「そこで大人しく見学してなさい。別に殺したり食べたりするわけじゃないんだから、そんな目しないで」
くるっと身を翻して、霊夢は魔理沙の前に立つ。
「さて」
「寝るまでどころか、帰るまでもガマンできなかったのね?」
魔理沙を、穏やかな口調で諭す。
「……最初から、予定通り……だろ」
「ん。まあ、耐えられるなんて全然思ってなかったけど。でもあの子を使うなんてねえ。予想外だったわ」
ちらりと後方のアリスを横目で見て。
アリスはぐぐっと身体を乗り出そうとして、やはり動かなくて諦め、叫ぶ。
「わ……私が襲ったのよ。無理矢理……!」
「あら。あんなにイチャイチャしてたくせに不思議なこと言うのね」
「……」
「面白いわ。うん、やっぱり、あんたに見てもらうのがちょうどいいお仕置かもしれないわね。――魔理沙の本性をね」
くすくす。
霊夢はまさに名案を思いついたとばかりに、笑う。
「ま、それでもお仕置にならないかもしれないけど」
「……」
霊夢は、上気した顔を俯かせる魔理沙の頬に、そっと触れた。
to be continued....~
【ごあいさつ】
みじか!
エロ薄!
……次は全力でイきます頑張ります。
もっと濃いえろえろしたいなああぁ
村人。でございます。